ふぞろいな本棚

深波あお

第1話 詐欺電話?


「もしもし?」

『もしもし?』


「だれ?」

『もしもし? もしもし?』


「もしもし? どちら様ですか?」

『もしもし? 聞こえていますか?』


「聞こえています。どちら様ですか?」

『おばあちゃんですよ』


「え? おばあちゃん? 番号変わったの?」

『そうなのよ。ちょっと携帯電話の調子が悪くてね』


「え? でも、声も違う気がする……」

『ちょっと風邪気味でねえ』


「そうなの? 大丈夫?」

『それは大丈夫なのだけど、ちょっと困ったことがあってね』


「え? 何があったの?」

『実はねえ、みんなには内緒にしておいてほしいのだけど……』


「うん。どうしたの?」

『お隣の奥さんとちょっと……トラブルになってしまってね』


「トラブルって?」

『ちょっとねぇ……柿をね……』


「かき?」

『柿よ』


「柿? 柿がどうしたの?」

『お隣さんの柿の木に実がいっぱいなっていてね、つい……』


「え、採っちゃったってこと?」

『ほんの少しなのよ』


「いやいやいや、少しとかって問題じゃないでしょ?」

『そうなんだけどねぇ』


「それで? お隣さんは何て言っているの?」

『怒っていてね、どうしようかと思ってね』


「謝ったんでしょ?」

『そうなんだけどねぇ。

 何か、お詫びの品でも持って行った方がいいかねぇ?』


「うーん……そうかもね」

『何か見繕って買ってきてくれないかい?

 最近、買い物に行くにも大変でね』


「えぇー……」

『悪いねぇ』


「わかったよ。なんか買って土曜日に持ってくわ」

『ありがとう。助かるよ』


「それじゃあね」

『ありがとう。待っているよ』



【土曜日】


ピンポーン

「おばあちゃーーん! 来たよ!」

『あらあらあら! 突然なあに?』


「え? 土曜日に行くって言ったじゃん」

『えぇ?』


「はい、これ。頼まれていたやつ」

『なにこの高級フルーツの詰め合わせ!? どうしたの?』


「なにって……柿のお詫びでしょ?」

『柿のお詫び?』


「え?」

『え?』


===



〈社長さん、社長さん。ご報告です〉

《はい?》


〈ご報告です! 補聴器のスイッチを入れてくださいな!〉

《はい、はい。すみませんね》


〈ご報告です。昨日、スーパーで3丁目の佐藤さんに会ったのですけどね、土曜日にお孫さんが8か月ぶりにいらっしゃったそうです。高級フルーツの詰め合わせを持って〉

《そうですか。それは良かったです。それでは、3丁目の5班は佐藤さん宅をもって完了ですね》


〈はい、この班のお宅で、1年間親族の来訪者がいない方はいなくなりました〉

《それは良かったです。では、次は2丁目の1班の高橋さん宅お願いしますね》


〈かしこまりました。次はどんなストーリーにしましょうかねぇ。おほほほほ〉

《そこはお任せしますよ。ボケ防止に頭を存分に使ってくださいな》



おしまい

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