第2話 転移

「あ~もしもし、回想は終わりましたか?」


 突然、声が頭に響き周りを見渡すと、辺りは白い靄のようなものに包まれている。

 よく見るとスレンダーなメガネ女子が目の前にいた。


「ここはどこだ、おまえは?」


「私の名は女神ゼクシー。異世界『エニワン』を管理しているものです。そしてここはわかりやすく言えば、現世とあの世の狭間はざまです」


「俺は死んだのか」


「はい。佐藤 慎吾さん、あなたはお亡くなりになりました」

 そうメガネ女子は言った。


「そうか、死んだのか。で、これから俺はどうなるんだ?」


「はい、生前の行いが悪いため、あなたは俗にいう地獄行きです。来る日も来る日も死ぬような責めを受けながら、これから輪廻転生するまで苦しむのです」


「死んだのに死ぬような苦しみ、てどんな罰ゲームなんだ…」


「罰ですから…と、そんなあなたに朗報です!今なら『エニワン』へ転移できます」


 話を聞くと地球と似たような異世界が他にもあり、そこに転移できるらしい。

 文明は地球よりかなり遅れており、剣と魔法の世界で中世ヨーロッパ時代程度。

 魔獣や魔物がおり人の命が軽いとのこと。

 あぁ、最近アニメでやってる異世界転移か、時々見たことがあったな。


「で、俺が行くその目的は?他にも転移者はいるのか?」


「文明が低迷してもう千年近く進んでいません!だから新しい風が欲しいのです。特に世界を変えるような大きなことは期待していないわ。あなたが転移し生活することで、周りに何かの刺激を与えてくれればいいのです。常識や世界観がわからないだろうから、困らないように予備知識やスキルを1つ与えますね。逆に何も周りに影響を与えられないくらいの力なら、多分生活も成り立たないと思うけど。それに一人の力で、世界が変わる訳でもないから気負わなくていいからね」


「他に転移者は?」


「今の時代には他の転移者はいません」


「そうか、ならせっかく転生するなら新しい名前が欲しい。生まれ変わりたいんだ。そうだ女神様に名前を付けてほしい」


「え、私にですか?」

 今まで転移者を送ってきたが、こんなことはなく戸惑う女神ゼクシーだった。


「あぁ、ぜひ頼む」


「分かりました」

(なんか、偉そうね、この人?)


 ゼクシーはしばらく考えていたようだったが


「あなたの名前はエリアス。エリアス・ドラード・セルベルトでどう?」


「それでいい。ありがとう。これで俺とあんたは親子だな、母さん!」


「母さん?え!どういうこと?」


「名前を付けたんだから親も同然。魔物だって『名』を付ければ眷属になるのと同じだろ。(ライトノベルではね)これから知らない世界で独りぼっち。心のよりどころが俺にも必要だろ?それに親なら子を無償で心配するものだからね」


「えっ、そうなの?私、結婚してないから…」

 ゼクシーが女神になってから数万年。

 後輩の寿退職を尻目に、一人寂しく婚活に励んだ。

 相談所に入会してみたものの、高い月謝だけ毎月取られ良縁には未だ恵まれず。

 いったい、私の何がいけないの?(泣)

 自問自答の日々…、結婚だけが人生か…。あぁ、また一人、そしてまた一人と…。


「それと、スキルをもらう前にメンタルと性格面を変えてほしいんだ」


「えっ、え、どんなこと、言ってごらんなさい」

 あっ、危ないわ。一瞬、どこかに行ってしまっていたわ。


(あれ?急に言い方が雑になったな)

「まず沈着冷静、物事の先読みが出来て、人から好かれるようにしてほしい。一人で生きていく以上、メンタルや性格も大事だからね」


「わかったわ。年齢はどうする?自由に設定できるわ」


「成人は何歳からかな?」


「15歳ね、でもまだ体は未成熟。養えない家庭が多いから成人扱いにして家から出すのよ」


「そうなんだ、では17歳で。それから精神年齢も17歳にしてほしい」


「17歳ね。後はお金といきなり死なれても困るから、ステータスは全体的に高めと。生活魔法(火・水・氷・風・光)を使えるようにしておくわ」


「すまない!あと、転移3点セットもお願いしたい」


「転移3点セットて?」


「転移・転生の定番と言えば、鑑定・異世界言語・ストレージだろ?後はにしてほしい」


「わかったわ。ほら、これでどう?ではそろそろ、名残惜しいけど『エニワン』に送るわね。私に会いたくなったら教会に行ってお祈りすれば会えることもあるわ」


「ちょっと待ってほしい、まだスキルを頂いてませんが?」


「転移3点セットでいいのよね…」


「転移3点セットは定番なので、最初から持っているスキル扱いだろう?」

 と、俺はニヤリと笑った。


「そ、そうなんだ。具体的にはどんなスキルがほしいかしら?」


「面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きて行きたい!」


「はい??」


「だから面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくことだよ」


「具体的にはどうしてほしいの?」


「息子が健やかに暮らせるように、考えるのが親でしょう」


「あァ…、もういいわ。創生魔法を授けるから、好きにして。では良い旅を…」

(こんな茶番に付き合ってられないわ。今日は合コンなのよ、合コン)


 こうして女神に投げやりに言われ、俺の新しい転移生活が始まった。


  *    *    *    *    *


 あ~、やっと行ったわ。

 どうも転生とか転移者は疲れるわ。

 でも仕方がないか?

 徳の高い人はすぐ、天界へ昇天してしまうし。

 ここの狭間へ来るのは、ろくな人ではない場合が多いからね。


 でも転移した時に心を洗うから、生まれ変わってくれると良いんだけどね。

 ふぅ~。


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