イルミネーションの輝く夜に

東雲三日月

第1話

ーーイルミネーションーー


 今年もまたクリスマスシーズンがやってきた。


ーー先ず思い出すのは四年前の冬のこと。


 あの日は外が一段と寒くなり、初雪がチラチラと窓の外を降っていた。


 街はイルミネーションで彩られ、キラキラと輝きを増す。


 歩道には行き交うカップル達がこぞって足を止め、イルミネーションで彩られた景色に魅了される。


 昌幸まさゆき心菜ここなはまさしくこの季節に念願叶って結婚した。


 ところが結婚生活は順風満帆だったはずなのに、丁度二年が過ぎだ冬、それも結婚した日と同じ日に二人は離婚することに。


 傍から見たら、二人はとても仲の良いおしどり夫婦だったので、離婚することを伝えると、双方の両親も親戚も友人も職場の人も、周りは皆一様に驚いていた。


 ところが離婚する意思が二人の仲で決まっていることをはっきり伝えると、どうして離婚することに至ったのかという経緯について誰も触れてこない。


 二人のあまりの意志の硬さ故、一番気になるところなのに、その時、お互いの両親ですら何も触れずにただ静かに受け入れ見守ってくれたのはきっとは優しさからなのだろう。


 ところで、離婚したらもう二度とお互いの顔を見たくないという夫婦が多いと聞くけれど、昌幸と心菜の関係は少し違った。


 原因は元夫だった昌幸が不倫をしたことで、それを許すことの出来ない心菜がこのまま夫婦を続けていけないと、離婚することを決めたはずだったのに、二人は時々メールで連絡を取り合う仲が続いていたのである。


 何時も昌幸の方は素っ気ないメールの返答でしか無かったものの、心菜は心のどこかで「もう一度昌幸とやり直したい」という想いがあった。


 もう二年も経過しているというのに、少なからず、心の奥にまだ「未練」が残っていたのだろう。


 昌幸のことを好きな気持ちがあったなら、離婚しなければ良かったと思うかもしれないが、当時はそんな先のことまで考えられる余裕は全く無かった。


 ところが、昌幸には別れた心菜に対して未練などというそんな想いは微塵たりともない様子。


 ある日のこと、心菜は二人の共通の知人から、昌幸が引越しをして、入籍したことを知ることになった。


 それも、街がイルミネーションで彩られ、カップルで賑わうシーズンに…………。


 メールでの会話では引越しするのことには触れられなかったし、一切登場することの無かった彼女の存在であったが、どうやらあの時不倫していた彼女と交際が続いていたらしい。


 心菜の心はイルミネーションとは裏腹にどんどん暗くなり、動揺が隠せず心も落ち着かず、どんどん落ち込んでいった。


 そしてとうとう仕事にも手が付かなくなり勤務中だというのにボーッとすることが増えていくようになる。


 そんな状態を知った会社の後輩である涼太りょうたは、心菜を心配して声をかけた。


「あの、心菜先輩体調大丈夫ですか、ここ最近昼もちゃんと食べてないの知ってます」


「うん、心配してくれてありがとう、でも大丈夫だから気にしないで!」


 そう言われたけど、大丈夫なはずが無い、そう思い、今度は食事に誘うことにした。


「あの、心菜先輩、僕と一緒に今度食事にでも行きませんか!?」


「涼太くんと食事…………」


「はい、えっと、アウトレットで新しくアウターが欲しくて、告白したい人がいるんで、その心菜先輩に選んで貰えたら嬉しいんですけど、で、その後御礼に食事でもと思ってるんですけど」


「そっか、買い物かぁ、いいよ行っても…………涼太くんの恋の応援してあげるよ」


 そう言って心菜は涼太の誘いにのる。


ーー買い物当日


 予定通りアウトレットで買い物して食事をした後、涼太はもう一箇所行きたい所があると行って心菜先輩を連れ出した。


 その場所は時之栖で、イルミネーションの光のトンネルが有名な場所。


 冬に開催されるイルミネーションを見ようと、カップル連れが多く見受けられる。


「涼太くん、こういう場所はカップルで来るんだよ!  何も会社の先輩なんかと来るとこじゃないよ」


 長いトンネルのイルミネーションは凄く綺麗で、音楽に合わせて光が踊っているかのようにキラキラ光るその光景に見とれながら心菜はそう伝えた。


「あの、その…………僕じゃ駄目ですか?」


「えっ!?」


「心菜先輩のこと、ずっと好きでした。  良かったら彼女になって下さい」


「やだー、だって涼太くん知ってるでしょ、バツ一だってこと…………」


「それでも良いんです。  心菜先輩が好きだから、バツ一なんか気にしてません。  将来結婚も考えてます!」


 思いもよらなかった予想外の告白、それも後輩である涼太からの告白なだけに、心菜は我に返る。


 心菜は自分が、五つも年上だということも気にしていた。


 ところが、好きになるのに年齢なんか関係ないとキッパリ言われた心菜は、イルミネーションのトンネル中、付き合うことに同意する。


 すると涼太は遠慮なく心菜の手を握った。


 涼太の手の温もりはとても暖かい。


 心菜は涼太の温もりを感じながら幸せを噛た。


 この後二人で見た噴水ショーも、壮大な音楽にプロジェクトマッピングがあり凄く綺麗だったらしい。


 来年からは、イルミネーションの季節にもう昌幸のことは思い出さないだろう。


 帰りの車の中で心菜は余韻に浸りながら、これからはイルミネーションで思い出すのは涼太に告白された日のことだけだと誓った…………。







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イルミネーションの輝く夜に 東雲三日月 @taikorin

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