第84話 謝罪の気持ち

「単刀直入に聞くわね、あなた達はなに?」


 え?

 なにって?


 普通、人相手なら『誰?』だよね。

 それを『なに?』て。

 何が言いたいんだろう、ギルマスは?


「さあ、本当のことを言ってちょうだい。悪いようにはしないわ」


 ま、まさかもう俺達が、男爵夫婦だってわかったのか?

 早くないか?

 いったいどうやって。


 ギルマスのイノーラさんは、俺達を一人一人見ている。

 そして俺を見つめた。


 やはり本当のことを言うべきなのか?

 逆にそれはそれで、『有』かもしれないが。


「さあ、本当のことを言って。何もかも分かって…「「いいえ、言えません!」

 パメラさんが口を開く。

「冒険者は犯罪者でもない限り、出生や生い立ちを問わないのが決まりでしょ」

「そ、それは」

「ギルドマスターのあなたが、それを破るの?」

「でもここの責任者とて、確認しなければならないのよ」


 俺達がヴィラーの村の領主だという事が、そんなに重要なのか?


 とても険悪な重たい空気になった。

 そして沈黙が訪れる。


「分かったわ。答えられる範囲で構わないから、質問に答えてくれるかしら」

「答えられる範囲ならいいわよ」

「では、あなた達はジリヤ国の東側から来たのでしょう」

 

 な、なぜ分かったんだ。

 ジリヤ国東側のアレンの街から来たことを。

 各州に間者を放っているのか?


「えぇ、そうよ。それがなにか?」

 パメラさんが淡々と答える。



 や、やはり魔族か。

 ここで、私が上手くやらないとこの街は大変な事になる。


「そう、やっぱりね。でも人間社会にはルールがあるのよ。分かる?」


「えぇ、もちろんよ。人間社会における 『ルール』 とは『規則』や『決まり』のことでしょう。『ルールに反すること』 は、『悪いこと』 であり 『してはいけないこと』 でしょう。ルールを守らない人が増えると、社会は混乱し不安定になるわ。他人の物を奪ったり、人の身体や心を傷つけたりする行為が増えて、安心して暮らすことができなりなる。ルールを守らない行動や、言動は社会を壊す行為だわ」


 なぜ、そんなことを聞くんだ?

 俺達がギルドで暴れたからなのか。

 そんな無法者に見えるのか?


 それにパメラさんもよく、ペラペラと言葉が出てくるよな。

 右手首に布を巻き、左目に黒い眼帯をした中二病スタイルでは説得力がね。


 しかし凄いな。

 何時の間にか水の回復魔法が使えるようになってるし。

 いったいどうしたんだろう。


 まるで急に頭の回転が良くなり、知識が豊富になった様に見える。


「そ、そうね。そこまで分かっているから、私は何も言わないわ。知識人としての行動や発言を期待しているから」

「そうしたいけど。でも今後、今日みたいなことがあったら私は戦うことにしたわ。大切な家族を泣かせたり、傷つけることは許さない。相手が『ルール』を守らないなら、私も我慢はしないわ。今回の事でわかったの」

「そ、それは…」

「今日、冒険者達が私達にしたことは、私がさっき言った『人間社会のルール』の反することだもの。そして今度から私の大切な旦那様を、怒らせる原因は排除するからね」


 パメラさんが凄い目でギルマスを見た。


「「「 ヒィ~~!! 」」」


 私は思わず鳥肌が立った両腕を手で抑えた。

 この女、今凄い魔力を放出したわ。

 やばい、140歳にして初めてチビった。

 今日から私はチビリンて呼ばれるんだわ。


 しかし4人がヤバいんじゃなくて、1人1人がヤバそうだ。


「それに今回の事でなんだか自分に自信がついたわ」

「私もよ」

「私も同じよ」


 なにが『同じよ』よ。

 魔族の女3人が、『自信がついた』とか言っている。

 そんなにギルドの冒険者は弱かったと言うの?

 ハナクソ並だと。

 ハナクソ丸めて万金丹まんきんたんだと!


 どうにかしないと。

 そうだわ!


「あなた達のレベルはもうFレベルではないわ。特別に4人共Cランクに上げてあげるから。帰りに受付でギルドカードを更新してね」

 本当ならAランクでも良いくらいよ。

 でも私の判断でいきなりAには出来ないからCランクね。


「Cだってよ、オマリっち(エリアスっち)」

「そうだね。まあ受けられる依頼が増えるから良いか」


 や、やばい!

 全然、嬉しそうじゃない。

 

「そ、それから、これからはあなた達だけの特権で、素材の買取額を1.1倍。いいえ、1.2倍にするわ。これならいいでしょ?」


 俺達は顔を見合わせた。

「お、お願いよ~!これで手を打ってよ」


 ギルマスのイノーラさんが、両手を胸の前で組みながら涙目で訴えてくる。

 特に小人族ホビットは身長が130cmくらいしかない。

 小さな女の子が涙目で俺達を見上げ訴えてくる。

 これを断る訳にはいかない。



「分かりました、ギルマス」

 あなた達の謝罪の気持ちを受け取ります。


「えっ、ほんと。良かった。良かったよ~、エ~ン」

 泣きじゃくるギルマスを、その後なだめるのが大変だった。

 12~3歳に見える女の子が泣きじゃくる。

 その姿を見てとても可愛くて、俺は思わず思ったことを口に出した。


「早くギルマスみたいな可愛い子供が欲しいね」

「きゃ~、子供だなんて!」

「バカバカ!恥ずかしい~」

「もうオマリっち(エリアスっち)のエッチ~!」


 3人の女性達は顔を赤くして照れている。



 私の様な可愛い子供がほしいだと?

 可愛いなんて言われるのは、何十年ぶりかしら…。


 魔族なら外見は若く見えても長生きだから、彼らは私より年上かもしれない。

 140歳の私が子供に見えるほどに。


 歳を重ねた狡猾こうかつな4人の魔族達。

 これからこの街はどうなるの。


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