第61話 ようやくラヒドへ

商人ハドソンさんの「お迎え」でマイリからラヒドまで渡った。


10日間の馬車の旅。なにやら侯爵家から護衛の費用が出ているらしく、上位冒険者10人が同行。商会の人と合わせ14人と賑やかな道中となった。


気分が良くて極上蜂蜜も振る舞い、ハドソンさんに驚かれた。ダークネス商会に定期的に卸すことになり、安全にお金を調達する目処も立った。


私にしては珍しくメインの街道を通ったので、1度もトラブルに見舞われなかった。


ラヒド島は国の本土の北西側にあり、左側に出っ張った三日月の形をしている。


カフドルス侯爵領はラヒド島と隣接する本土の広範囲。島に本拠地があるのは、島の北側に有用素材が多いダンジョンがあるから。


ちなみに私の目当ては、島の南側にある人が近付よりにくいエリアだ。



縦100キロ、橫50キロで、本土と最接近している場所わずか40メートルなので、橋を渡して行き来できる。


今、その橋を渡っている。


「ハドソンさん、貴族家の人と会うって、どんなことするの?」


「接見かな」

「当主様に膝を付いてはは~ってやんの?」

「アヤメはしたいの?」


「膝くらい付いてもいいけど、そんな目立つやつは避けたい」

「なら、裏口の小口商用門から入る? 侯爵様も正面から入っても、アヤメちゃんに膝をつかせたりしないと思うよ」


橋を渡り、緩やかな坂を約5キロ、標高100メートルの場所に侯爵邸はあった。


眼前に港町と海、対岸にはサボサから北に続く海岸線が広がる穏やかなロケーションだ。



「ハドソンさん!」


出入りの商人などが使う裏門に行こうとしたら、騎士の一団から声をかけられた。


ケント君だ。


「こんにちはケント君。今日はすごい人を連れてきたよ」

「ケント君、ハイオーガに殴られた胸に不調はない?」


「ハドソンさん、この女性は・・色は白いけどアヤメさん?」

「正解。黒装束は、防御のスキルなの」



もう顔を隠すことはやめた。ローズだけでなくアマゾネスの里で受け入れてもらえたし、何かあれば「極上蜂蜜」のために喜んで暴れてくれるらしい。


偶然から冒険者ギルドにも「アマゾネスのアヤメ」で登録しているし、ローズのお母さんに貴族でも手を出すやつはいないと言われた。



ただ、私はどこを切ってもド平民である。


ハドソンさんに顔繋ぎをしてもらい、侯爵家にこっそりと入って、静かに帰る気でいた。


だから服も普段より少しいい程度のブラウスとロングスカートと、異形変身しやすい「戦闘服」だ。


ところが、侯爵家オスカー様直属の騎士隊に囲まれ、正門から入城。


家臣のような人達から頭を下げられながら、広い応接室に通された。


良かった。接見の間で土下座は必要ないみたいだ。



「あ、オスカー様」

「良くきてくれたアヤメ!」


「こほん」


「失礼、父上を紹介するよ」


「カフドルス侯爵家のガスターだ。息子と騎士団を救ってくれて心から感謝している」


気さくに握手を求めて来てくれた。


ぞくっ。


手を握ろうとして引っ込めてしまった。そして、反射的に「ヘラクレスガード」を発動してしまった。


「おお、これが「クロビカリ聖女」スタイル!ところで、いきなりどうなされた」


細身175センチのオスカー様と違い、お父様は185センチ。アーマーを着たような胸板。アマゾネスのガルボ母さんと同じく、大剣使いの匂いがする。


「あ・・。大変失礼しました。あの、侯爵様からアマゾネスの猛者並の強さを感じ取ったんで、思わず・・」


「おお、騎士達が「戦乙女」と呼ぶアヤメ殿にそう言わせるとは。私も捨てたものではないな」


「恐縮です。手を引っ込めて申し訳ないです」

「わっはっは。いいよ、いいよ。これは逆に自慢になる」



「父上、肝腎の話を」


「そうだすまぬ。アヤメ殿、もちろんあなたへの謝礼は用意している。希望があれば侯爵として便宜を図ろう。その前に・・」



侯爵様は両膝を付いて頭を下げた。


「正式に侯爵家の籍はないが、我が娘、ローズの怪我を治してくれぬか」



ローズ?


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