第25話 驚くくらい覚悟ができていた

はめられた?私の言葉を受けて、4人組冒険者の1人が大声で宣言した。


「侮辱された。ルール無用のデスマッチだ。受けるよな、女」


この流れは知っている。ここで引けば何度も難癖をつけられる。


一瞬だけ鼓動が鳴ったが・・あれ?


すぐに落ち着いた。


「私は人も3人殺してるし、ハイオーガも倒したな。ここにいるゴブリン4匹に慌てる必要はないか」


「は?」


「受付さん、偉い人を呼んできて!」


叫ぶと、ダッシュで出入口に向かった。


「逃げるのか、女!」


私はギルドのドアにたどり着くと、振り向いてドアの前に陣取った。


「なんだ、朝からトラブルか!」


均整の取れた体をした185センチ金髪のフツメンが出てきた。


「ギルマスさんですか」

「いや。副ギルマスでミシェルだ。あんたは?」


「私はこの街に初めてきた冒険者、アヤメ。獲物を横取りされそうになった上に殺し合いを挑まれた」


「で、何であんたは出口の前にいるんだ」


「その4人が逃げないように」


ざわっ。


ギルマスも驚いている。

160センチくらいのヘナヘナの女が、175~180センチの男4人を逃がさない宣言しているのだから。


絡んできた男4人はキョドっている。


「ああ、こいつらは素行の悪い冒険者でな。お前が訴えれば、調査内容次第ではギルドから除名だ。ところで何を横取りしようとした」


「あのカウンターの黒猫3匹」


ギルマスはゆっくりとカウンターに行き、黒猫3匹を見た。


「無傷だ。牙も綺麗で、何より価値がある毛皮に傷ひとつない・・」


「魔石だけ欲しい。大雑把な査定は?」


「CランクのブラックキャットとBランクのアサシンキャット、Bランクのステルスブラックキャットか。魔石抜きで220万ゴールドってとこか」


おおっ。一気に金持ちだ。


「どうやって倒した?」

「素手。毛皮を痛めないために、首を絞めて殺した」


ざわざわ。ため息をつくギルマス。


「おい、そこの4人組。今の話を聞いてもやるのか。もちろん戦いは1対1だ」


「え、え」

「あ、うう」


私が引くと思ってたのだろうか。


「お、俺は降りたい」

「戦いを挑んだ方からキャンセル不可よ。低能ね。降りたいのなら、和解金1人220万ゴールドね」


ざわざわ。


「バカやろう、はったりだ。口のうまい女に乗せられんな!」


死を選んだか・・。


「ギルマス。私があの盗賊4人を殺して装備や家にある財産を剥ぎ取っていいのよね」


「あ、ああ」


「あいつらが逃げたときは?」

「横取り犯として認められ、盗もうとしたものの3倍の金額をお前に支払わせる。即金で出せなければ借金奴隷だ」


私は復讐者だ。


人も魔獣も殺してるし、下手をすれば貴族関係者を殺すことになる。こんな奴らに情けなんてかけない。


ギルドの中は沸いていた。


賭けもギルドで取り仕切っている。


誰か1人を指名して私が勝てば、相手パーティー1人につき220万ゴールドの負債を負わせられる。


けど私は金より対人戦の経験を積みたい。胸が痛まない相手で試したい。


4人連続で相手にすることにした。だから賭けは、私が勝てば8倍。男4人が勝っても1・7倍だ。模擬戦と違い、デスマッチなら私も賭けられる。


「私に20万ゴールド賭けるわ。それから、どこかで着替えさせて」


更衣室で、熊力、ヘラクレスガード、身体強化レベル3を発動させた。もちろん顔の認識が困難になるようにパピヨンマスクを発動したまんまだ。


10分後。


舞台となるギルド訓練場に立つのは、安物の鉄製軽装備と鉄剣を持った4人。2人は面も着けている。


対する私は端から見ると黒い全身タイツを着けて、捨てていいタンクトップ、ヒラヒラロングスカートだ。

散歩している色黒女性にしか見えない。


「よし、1対1だ。ヤロー3人は端に下がれ」


ちょっと挑発してみよう。


「ギルマス、1人を殺したあと、対戦してない3人が逃げないように入り口を封鎖して」

「・・お前、余裕があるな」


1人目の175センチの一番強気なガッシリ君がすごい目で睨んでる。


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