シャカンキョリ ー三姉妹(かとりけ)の再生ー

七熊レン

0章 花鳥(かとり)家の三姉妹 -Side.M-

プロローグ

『恋愛物に挑戦するから、二人の恋バナ聞かせて』。

 そんな妹のメッセを受け、あたしと姉、そして妹の三姉妹は夜、とある焼き鳥屋を訪れていた。 



 出会い頭に軽く挨拶を済ませ、いくつか注文を済ませた後、妹は早速、本題を切り出した。



うち、こんな性格だからか、リアルに恋愛した経験ことなんか無いし、そもそも興味も大して無い。

 ぶっちゃけ、想像さえ出来ないってーか。

 だから、『恋に落ちる』って、どんな感覚なのかなーって」



 そう嘆き、背凭れに身を預けるは、勝ち気でボーイッシュでフレンドリーな妹、夏葵なつき



「ちっ、ちっ、ちー。

 まだまだ青いなぁ、夏葵なつきちゃんはー。

 恋ってのは、落ちる物じゃなく、落とす物なんだよー」



 などと余裕振って年上風吹かせつつ、テーブルに顔を付けグダーッとしているのは、い加減で気まぐれでフワフワした姉、紅羽いろは



「まーた適当なこと言ってさぁ。そこまで自信満々なら、いネタ提供してくれるんだよね?」

「お断り」



なにそれぇ!?」と軽くキレる夏葵なつき他所よそに。

 姉はめずらしく神妙な、大人びた毒気混じりの真顔になり、しっかりとげた。



「私は、誰も信じてないし、信用出来ない。

 ましてや、純愛なんてもってのほか

 この何もかもっ壊れ爛れた世界に、運命なんて生温い、生易しい、生に優しい物は存在しないから」



 それだけ言うと、姉はジョッキを一気で空け。

 よだれを垂らしそうな締まりの無い顔でテーブルに突っ伏し軽く寝始めた。



 こと言うなぁと、ちょっと感心させられた。

 めっちゃ悔しいけど。



 いや、ま、他の誰かに聞かれようものなら、『どこがっ!?』ってツッコまれそうだけど。



 どっちかってーと今のあたしは、こと恋愛に関しては否定的、投げ遣りなスタンス。

 ゆえに、姉の意見には全面的に賛成せざるを得なかったのだ。



 そんなわけで、心の中で夏葵なつきに謝っていると。

 食べ終わった焼き鳥の串で「えいっ、えいっ」と姉の頬を刺すのに飽きた夏葵なつきが、こちらを振り返った。

 


駄目ダメだ。てんで起きない」

「お代わり来たら起きるでしょ」

「だね。

 で、舞桜まおちゃんは? 例の彼とか」

「ん……。そうだなぁ……」



 話を振られ、反応に困りつつしばらく悩む。

 といった振りをしてから、あたし夏葵なつきに正直に答えた。



「……ごめん。

 あたしも勘弁、遠慮。正直、

 よく分からんし」

なにそれぇ!?

 ずるいよ、二人して!

 うち、奢り損じゃん!

 お年玉、返してよぉ!」

「だから、ごめんて。

 お詫びに、今日はあたしが払うから。ね?」

「マァジでぇ!?

 じゃあうち、追加しよっと!!

 すみませーん!」

「ちったぁ遠慮せぇ」



 相変わらず、小生意気で可愛い妹だ。

 こんな素直な妹とると、調子を狂わされそうで、本心を暴露しそうで、どうにも穏やかじゃない。



「あれ?

 舞桜まおちゃん、どこ行くの?

 ……まさか、もう帰る気っ!?

 だぁ!!」



 無意識のうちに立ち上がっていたあたしの体に、夏葵なつきが空かさず抱き付いて来た。

 あたしは少し思考した後、えず夏葵なつきの頭を撫でた。



「……ん。

 違うから。

 ちゃんと奢るし」

「そっちもだけど、違うのぉ!

 折角せっかく会えたんだから、もっと一緒がいのぉ!」

「そっちもるんかい。

 正直でよろしい。

 あと、あんたも分かるでしょ?

 こういう場面で女性が立ったら、ノータッチを貫かないと、デリカシーに欠けると判断されるって」

「ん〜?」



 少し首を傾げ考えた後、パァッと明るくなる夏葵なつきの顔。



「なーんだ!

 行ってらー。ちょっぱやで帰って来てねー」

「いや、新婚気取りか」



 相変わらず単純な夏葵なつきに感謝しつつ、あたしは彼女から離れ、妹に見送られながら一人、トイレに向かう。



 と見せかけ、実は外に出、店の裏に移動し、壁に体を預けながら、あたしは胸の内を赤裸々に明かした。



あたしって……本当ホント、最低。

 クズ、くだらない、マジ最悪。

 なんで、いつまで、こんな、詰まらない、詰められない、積められない恋愛ことしてるんだろ……。

 馬っ鹿みたい……」



 そう。

 これが三姉妹の次女、花鳥かとり 舞桜まおことあたしの実情。



 そして、これからお送りするのは。

 こんな難儀なあたし達の、恋と家族と波乱の物語。

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