あるいは冬の訪れ

神城零次

 高校時代。卒業論文があった。しかも英論文で、おいおい高校生に何を求めているんだと推薦入学の面接の時思ったものだ。俺の研究テーマは舞茸の子実体形成の過程と結果。これは後に、現在雪国まいたけに勤めている近所のお兄さんに聞いた話だが、学校の設備では子実体。食べる部分を子実体と呼ぶのだが、それを発生させる装置が学校なかったことが最近分かった。夏休み返上で毎日培地を作り。滅菌し、菌糸を植え付ける。菌糸を増やす。なんて事を繰り返していた日々は無意味だったのだ。

 結果は菌糸が周った個体は一個だけ。しかも、設備が壊れて結果が得られないと言うさんざんな結果。これが俺の青春だった。

 浮いた話はたった一つだけ、隣のクラスの女子と仲良くなり昼休みに駄弁ること。かなり美人で先生と付き合っているという噂をもった女子だった。ここできな臭いなと思った貴方はするどい。

 研究の息抜きに教室で缶コーヒーを飲んで夕闇を眺めていると教室のドアが開いた。

「こんなところで何たそがれてんの?」

「人生の悲哀を考えてた」

 もちろん冗談である。ただ単にお腹すいたなとか考えてただけだ。

「なにそれw」

 窓際で一人たたずんでいた俺の方にやってくる。教室にも廊下にも誰もいない。石油ストーブも消えた冷えた教室に二人だけ。

「じつは研究が行き詰まって頭を悩ませているだけ」

「ああ、生物工学科は卒論あるもんね」

 他のクラスには無くて俺のクラス生物工学科、バイオテクノロジーを取り扱うクラスは新設されていて、設備にもお金を掛けていたらしい。つまり、結果を出せなければ学科が無くなるのだ。当時は教科書も無かった。県内でたった一つの学科だった。余談だが、県内で一つだけと言う事はクラスの順位が県内の順位になる。二十六名いたクラスでおれは上から七番目。つまり県内七位だった計算になる。蛇足だが最初クラスメートは三十人おり、一人は入学式のホームルームで学校を辞めると宣言して辞めた。一人は留年して、二人自主退学した。

 スクールカーストでは中の中くらい。隣の席の女子には気味悪るがれ、オタクで自虐ネタで笑いを取るそんな生活をしていた。

「なんで俺は松高に行かなかったんだろう……」

 進路を間違ったと思うのは誰しもが一度は思う事じゃないだろうか?

「でも、それだと私達出会ってないよ?」

「そりゃそうだ」

 左手を取られブレザー制服とカーディガンの間に手を導かれる。伝わる体温とはいかない。こちらは学生服の冬服、上に白衣まで着込んでいる手は冷たくて温いとしか感じない。

「これは罠?」

「罠だよ」

「そっか」

 手を引き抜いて缶を捨てるため教室のドアに向かう。一生に一度のチャンスかもしれないものを手放した。罠に嵌る趣味はない。

「後悔するよ~」

「もうしてるよ」

 卒業後彼女が先生の子供を妊娠していたことを聞いた。手を出していたら俺が父親にされていたかも知れない。

 

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あるいは冬の訪れ 神城零次 @sreins0021

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