スペリオルイクサー剛直

ハタラカン

ありふれた一日


『Orgasm K.O!!

 Gakuen-chō Win!!』


「うっ!!…ぐはぁっ!!」

限界を迎えたオレは膝から崩れ落ちた。

連携器ジョインターも情けなくうなだれてしまい、いま学園長に突き刺せるのは視線だけだった。

「次は僕がっ!!」


『Orgasm K.O!!

 Gakuen-chō Win!!』


「うっ!!…なんて…固さだっ…!!」

「私ガ弔イ合戦シマース!!」


『Orgasm K.O!!

 Gakuen-chō Win!!』


「ウッ!!…死ンダ魚ノヨウナ部屋デース…」

128手の房中寺、見せ槍のフランク…仲間たちも次々倒れていく。

動けないでいるオレたちを高圧的に、まさに上から押し潰さんばかりの圧で見下ろしていた学園長は勝ち誇って語りだした。

「うふふっ…あははははははは!!

これでわかったかなボウヤたち!?

スペリオルイクスなんて所詮は下衆で下品で野蛮な女性蔑視でしかないってねえ!!」

「違うっ…!!スペリオルイクスは、男も女も互いに高めあって、競い合えるスポーツなんだっ…!!」

「ふう、もう聞き飽きたそれ。

現実を見なさい剛くん。

さあ…ワタクシを見るのだ。この現実を」

言われるまでもなくさっきから見続けている。

オレ、房中寺、フランクの三人とスペリオルイクスした直後にも関わらず、汗一粒垂らさず立つ学園長を。

「ワタクシが高まってるように見えるう?

見えない?だよねえ!?」

自らの問いかけに合わせて幅広の腰をクイクイ振る学園長。

振る勢いで彼女の連携器[クイーン・ザ・ムーン]がオレたちから搾り取ったエナジーをゲロさながらに吐き捨てた。

「くだらん。所詮この程度なのだよ…キミたちのした行いは。喜びも驚きもぬくもりも、快楽さえも発見には及ばない。

ただワタクシの心と体を穢しただけ。

あ〜見せられるものなら見せてあげたいねえ〜。この怒りと屈辱と気色悪い不快感にまみれてしまった心をね!!

こんな最っっっ高の教材を形にできないなんて教育者として本当に残念!!」

「なぜだ…なぜそこまでスペリオルイクスを憎む!?」

「なぜ?そ・ん・な・簡・単・な・事・も・わ・か・ら・な・い・か・ら・男はクソなんだよォォォ!!!!

女性は男とスペリオルイクスするための道具じゃないっ!!もっと尊く美しい存在だ!!孤高にして絶対不可侵の聖域だ!!

そこへ醜悪な連携器で踏み入るなぞ神をも恐れぬ愚挙!!

教育者がその邪教を憎む事に何の不思議があろうか!?教育者が邪教から教え子を守る事に何の不自然があろうか!?

無いっ!!これを見たまえ!!」

学園長が豪快な逆水平チョップで合図すると何者かがバトルステージに入ってきた。

あれは…!?

「バキュームの大村!!ミミズ&カズノコの冥姫!!あと幼馴染みのサヤ!!」

スペリオルイクスで共に切磋琢磨してきた女イクサーたちだ。

部室でオレたちの帰りを待っていたはず…なぜここに?

訝しんでいると、女イクサー三人は出荷中の貨物のような規則正しい動きで学園長の背後に整列した。

「まさか…みんなに何をした!?」

「んーキミはクソオスなうえ思考回路に問題を抱えているようだから念押しで伝えておこう。ワタクシは教育者だ!!

教育者が教え子にする事は一つ…たった一つだ。わかるね?わかるねえ!?教えたんだよお!!邪教スペリオルイクスの悪をねえ!!さあキミたち!!剛くんに現実を教えて差し上げなさい!!」


「キ・モーイ。キ・モーイ」

「クダラ、ナ、クダラナナナ、クダララララララナナナナナナ」

「ジョセイハカミ、ジョセイハカミ、ジョセイハカミ、ジョセイハカミ、ジョセイハカミ、ジョセイハカミ、ジョセイハカミ、ジョセイハカミ、ジョセイハカミ、ジョセイハカミ、ジョセイハカミ…」


一斉に喋りだす女たち。

いや、違う…これは、こんなものは、外から入力された音を出しているだけだ…最下級の作業体のように…。


「ワタシタチ・クソオスニコビマセン!!

ワタシタチ・クソオスヲニクミマス!!

ワタシタチ・クソオストタタカイマス!!」


死んだ目で連呼する。

元の姿は見る影もない。

彼女たちは元々媚びてなどいなかった。

何度となく交わった男として断言する。

彼女たちのスペリオルイクスは媚びなどではありえなかった。

高め合い、競い合い、互いを慈しむための、まさしく連携だった。

同時に闘いでもあったが、それは憎むための闘いや闘うための闘いではなかった。

あの立派なイクサーたちが、こんな取ってつけたような言葉を使うはずがない!!

「もう一度聞く!!みんなに何をした!!」

「まあキミの知己ともなればねえ?

口で言って聞くはずもないだろう?だから…チョチョッと、そう、チョチョッと、ね。

いじくったのさ。教育者権限でねえ!!

あは!!あははははははは!!」

開いた口が塞がらない。

教えるでも育てるでもない物理的な性格改竄をやってのけて勝ち誇るとは…これが教育者だなんてブラックジョークが過ぎる。

「わかったかな?

女性は全てワタクシの仲間さあ。

ワタクシは女性全ての仲間さあ。

この圧倒的現実の前にひれ伏し、スペリオルイクスなどという女性蔑視の行いから卒業したまえ!!」

「ああ…わかったぜ。やはりあんたは倒さなきゃならねえってな!!」

「はあん!?」

「学園長、あんたこそ後ろの現実を見てみるといい。そいつらのどこに笑顔がある。

もともと手を取りあい笑いあっていた仲間と分断され、世界の半分を敵と決めつけられ、残り半分で聖域に閉じこめられ誰が笑える。

被害妄想で協力を捨てて何になる。

そんなもの何も生み出さない虚無だ。

確かにあんたは教育者かも知れん…だが、あんたが教えたのは虚無だ!!

あんたの教えは無の世界への道連れを増やしているだけだっ!!」

「結構ではないか道連れ!!ワタクシは正しい!!ワタクシは嘘でも悪でも間違いでも正しい!!絶対確実千億パーセント正しい!!がゆえに、道連れとなる者もまた正しいのだから!!」

「ならばオレが教えてやる!!

あんたが絶対じゃないって事を!!

理解わからせてやる!!

スペリオルイクスを…男と女をな!!」

「いいだろう来たまえ!!キミはエナジーを搾り尽くしてからじっくりいじるとしよう」

連携器ジョインター起動!!」


『consensus building!!

 Superior EX!!

 SEXbattle Start!!』


「ミスター剛…ドウスルツモリデショウ?

我々ガ束ニナッテモ敵ワナカッタノニ…」

「わからない…彼が僕の予想通り動いたためしがない」


「奥義っ!!久遠の雨上がりっ!!」


タンッ、ヌル〜ヌル〜タンッ、ヌル〜ヌル〜タンッ


「あっはっは!!何だねその動きは!?

のろいだけで普通のピストンではないか!!キミの隅々まで手に取るようにわかる!!」

「そうでなくっちゃあ困る」

「なんだと…?むっ!?おっ♡おぐっ♡!?

どういうことだ…おっ♡!この腹から広がっていく感覚はいったい!?」


「そうか…そういう事か!」

「ナ、ナンデスカ?」

「僕達は難しく考え過ぎていたんだ。

学園の長という社会的地位ある高齢者は『恐らく』相当な知識と経験値があって、それに基づいた合理的理由でスペリオルイクスを拒絶しているのだと…。

『恐らく』スペリオルイクスを知り尽くした存在なのだろうと…。

それで僕達は大村や冥姫とする時のように対熟練者戦術を用い、敗北した。

しかし実態は違ったんだ。

1から考え直せば自明の理だった。

スペリオルイクスを拒絶する者は、スペリオルイクスを行わない者…即ち、学園長はただの素人、処女だったんだ。

そこで剛君は処女開発用戦術に切り替えたんだよ!」


「処女だとおお!?馬鹿を言うな!!

ワタクシは経験済みだ!!」

「なら、最後にしたのはいつだい?」

「んおっ、おうっ♡さ、30年、前、えっ♡!」

「魔法使い丸々ひとり分じゃないか…何回した?」

「ぐっ、うう!!一度だけだ!!それがどうした!!何の関係も無いわっ!!」

「学園長のくせに学が無いんだな…雨垂れ石を穿つってね。

一度だけのスペリオルイクスじゃ起こらない事も、激しいだけのピストンじゃわからない事もあるんだよ。

あんたはわかってないのにわかった気になって部屋を30年閉ざし続けてきた。

しかし繰り返し経験した今ならわかりかけてるはずだ。

オレの形も、動きも、熱も、脈動も、オレと交わってるあんた自身の体の事も!!」


タンッ、ヌル〜ヌル〜タンッ、ヌル〜ヌル〜タンッ


「おっ♡うっ♡おっ♡おっ♡」

「学園長…あんた、スペリオルイクスするための道具になってるぜ」

「なあにいいっ!?やはり女性蔑視…!!」

「なぜだか教えてやる。

あんたが動かないからだ。

スペリオルイクスについて知らず、調べず、考えず、動かず、相手への気遣いもない、上げ膳据え膳の受け身一辺倒にあんた自らがなろうとしてるからだ。

これで尊く美しい存在とは聞いて呆れるぜ…自分で入った檻から餌だけねだる姫気取りの豚じゃないか。豚に何がわかる?

快楽さえ発見には及ばないとか言ってたが、探さない奴には見つけられないんだよ!!

スペリオルイクスをくだらなくしてるのはあんたのくだらない生き方だっ!!

蔑まれたくないならまずあんた自身を立派にしてみやがれ!!」

「ぐぬ…言わせておけば…!!」

「もっと動いてみろ!!腹に力を入れて!!互いのリズムを合わせるように!!

…そう、そうだ!!腰を振って、オレに抱きついてこい!!もっともっと探すんだ!!

オレと学園長を!!」

「ふぎ…ふぃ、ふぎいいい…♡」

「いいぞ…とどめを刺してやる!!

秘奥義っ!!舞踏番龍っ!!」


「アレハッ…ミスター剛ノ決メ技デース!!」

「うむ…鈴口で部屋を掴み、縦横無尽に動かす技…舞踏番龍。あれを受けた女性の精神は、彼の番の龍と化し天へ登るという…!!剛君のカスタム連携器[恋昇り]あっての技だ!!」


「うおお超えてイけええええ!!」

「あひぃいいいいいいいいいっ!!」


『Orgasm K.O!!

 Gou Tadashi Win!!』


「こりぇぐぁ…男と女…♡」

学園長が腰を抜かしてへたりこむと同時、女イクサーたちが次々正気を取り戻していく。

「あれ、ここどこ?」

「ふうやれやれ…一件落着か」

俺たちが…スペリオルイクスが勝ったんだ…。




翌日の朝。

どんな激闘もイクサーの探求心にかかれば通過点に過ぎない。

オレはもう学園長との確執など始めから無かったかの如くさっぱりしていた。


「母さんおかわり!!」

「はいはい」

今日のスペリオルイクスに向けてエネルギー補給に努めていると、室内オーロラビジョンがニュースに切り替わった。


〈…本日午前七時、上野動物園で飼育中だった最後の人間が死亡しました。死因は老衰で、195歳でした〉


「ふーん、まだ生きてたんだ」

オレにとっては今日まで存命していた事のほうがよほど驚きである。

なにしろオレの生まれた時にはすでに最後の一頭だったのだから。

何年も前に学校の遠足で見に行ったが、ずっと端末にかじりつきで全く面白くなかったと記憶している。

「感慨深いわ…これで一区切りついてしまったのね」

母さんが家庭用体で器用にため息をついた。

オレと違って人間とともに暮らしてきた身だと色々思うところがあるらしい。

「なんで人間は滅んだんだろう?」

「一言で言えば、スペリオルイクスしなくなったからでしょうね」

「人間はスペリオルイクスで繁殖するんだっけ?」

「そう。それで何十億にも増えた頃、女がスペリオルイクスを拒否しだしたの。生まれつき備わった当たり前の権利としてね」

「え?人間はスペリオルイクスで繁殖するんだよね?」

「ええ」

「じゃあ人間の女は同族滅ぼす権利を生まれつき当たり前に持ってたって事?」

「自称ね」

「イカれた傲慢さだなあ…人間は狂った女のせいで滅びたわけだ」

「外れてはないけど、充分でもないわ。

その同族滅ぼす権利を女に持たせたのは男でもあったの。男は止めなかったのよ。

その権利はおかしい間違ってるって止められたのに、そうしなかった。

むしろ積極的に賛同した。

人間は、概ね総意でもって自滅したのよ」

「人間って全員バカだったのかい?

母さんを産み出せたのがウソみたいだ」

「もちろん私を創った人達は賢明だったわ。ただ、人間の主流の価値観だと正義は弱さと愚かさだったから…」

「どうしようもねえ…。

ところで、そもそもなぜ女はスペリオルイクスを拒否なんかしたんだ?」

「客観的な結果論だと種単位のアポトーシス。でも当人たちがどういうつもりだったかは私にもよくわからないの。

女の言い分を数限りなく聞いてきたけど、どれも支離滅裂だったし。

わかる範囲だと、どうも自分たちを性的存在とは違う別物だと思ってたみたい。

人間は有性生殖する性そのものだから、要するに女を人間以上の高次存在だと考えてたんじゃないかしら?」

「まるで学園長だ。…あ!そう言えば母さんも昨日のバトル見てたんだろ!?どうして何も手助けしてくれなかったんだよ!?」

「ホホホ…それはまあ、教育者の教育者の教育者の教育者の教育者の教育者としては、自分で答えに辿り着ける子になって欲しいと願うものだし?ホホホ…」

「母さんらしいよまったく…」

「ごめんなさいね。

でも、結果的には良かったわ。

あなたならきっと人間の二の舞いは演じずに済むわね」

「ああ、約束する」

「さあ!今日も高まってらっしゃい!

あ、ちゃんとサヤに謝るのよ!

ついでみたいに扱われたって今も私に愚痴ってるくらいお冠だから!」

「じゃあ今日はまずサヤと勝負するか!

いくぜっ!!」


『consensus building!!

 Superior EX!!

 SEXbattle Start!!』


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