第3話 檻の中で絶賛営業中
僕は金色の豪華な檻の中に入れられている。布団が欲しいけど、まぁ、自前の毛皮があるから、檻の冷たさも苦にはならない。僕は毎日それこそ何十人と物珍しげに覗いてくるお客さんに、可愛さアピールするのに少々疲れてきていた。
あのおっさんから僕を買い取ったおじさんは、商売人だったみたいだ。品の良い格好をしているので、手広くやっているんだろう。僕は綺麗な店先の窓辺に飾られて、街ゆく人を虜にしながら、店の中へと招いている。うん、招きカワウソだ。
「お前は何を食べるのかな。やっぱり水辺に居たとすると魚なのか?」
そう言われて、色々なものを食べさせられた僕は、カワウソの習性なのか、やっぱり魚や蟹が美味しかった。けれど中身が人間のせいか、結構何でも美味しく食べた。
お陰で最近ちょっと太ってきてしまった。それに、この中に居るのも飽き飽きした。ああ、水の中を泳ぎたい。僕が悲しげに超音波の様な鳴き声をあげるせいか、店の主人が僕の事を思い悩んだ様に見つめる事が多くなった。
僕は檻からチャームポイントの小さな手を突き出して、おじさんの指をニギニギすると、おじさんはにっこり微笑んで僕に言った。
「明日、お前を特別な所に連れて行ってあげよう。こんな檻の中にずっと居るわけにいかないしな。お前は水辺が好きだろう?」
僕は首を傾げておじさんの顔を見上げた。確かにこの檻生活には疲れが出てきた。食事には困らないけれど、ちょっと毛並みもパサついて、デブになった。
かと言って元いた場所に帰れるとも思えなかったし。ていうか、僕は本当のところ水辺があれば山の中よりこっちの生活のほうが好きだ。何て言ったって中身は人間だからね。
僕は甘える様にキューっと鳴いて、おじさんの指にしがみついた。おじさんはニコニコ笑って、僕の頭を撫でた。
「お前は本当に可愛いな。野性の動物だったなんて、全然思えないぞ。お前と離れるのは寂しいけれど、最近元気がなくなってきただろう?もっと伸び伸びできる場所を私が選んでやったから、お前も良い子で過ごすんだぞ?」
僕はおじさんが何処に連れて行ってくれるのか分からなかったけれど、少なくとも僕のために考えてくれたんだと知って、おじさんの手にもう一度ぎゅっと抱きついた。
『おじさん、僕を可愛がってくれてありがとう。僕おじさんに売られるとしても愛想良く振る舞って、高値で売られてあげるからね?僕の恩返しだよ。』
僕の声はキューとしか聞こえなかったかもしれない。でもおじさんは優しい顔でいつまでも僕を撫でてくれた。
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