第2話 はじめまして、こんにちは

何やら話し込んでいたけれど、聞き取れるくらい近くには居ないみたいだ。僕はそれこそ袋を開く瞬間を目指して、息を殺していた。不意にグイッと引っ張られて、僕は硬い物の上に下ろされた。僕は眉を顰めて考えた。


不味いな。この硬さはもしかすると檻的なものの中に入れられたのかもしれない。すると頭上の袋の口がそろそろと開いた。明るい出口、いや、入り口?から、二人のごついおっさんが覗き込んでいた。…人間だ。ぱっと見は。



僕は気づいたら山奥の水辺に居たので、動物的なものしか見て居ない。そっか、この世界には思った通り人間が居たのか。いや、まだ油断は出来ない。僕の状況を考えると、尻尾が生えた人間かもしれないし、何があっても不思議はないからだ。


しかし困ったな。檻に入れられたままじゃ、何の釈明も出来やしない。僕は取り敢えず、僕の持てる限りの可愛さ攻撃で、あのおっさん達を虜にしようと考えた。檻から出るためなら、僕は何でもやるよ。



仰向けで、ぽっこりお腹を出して頭上を眺めていると、おっさん達はもっと布袋を広げた。僕は自慢の丸いお目目をぱちぱちして、小さな可愛いおててをグーパーして、でもじっとして居た。


おっさん達は顔を見合わせてから、どちらかと言うと厳つい顔を綻ばして話し出した。


「ふふふ。何だ?この生き物。随分と、警戒心も無いんだな。一体何処で見つけたんだ?」


身なりの良いおっさんと言うよりおじさんが、いかにも山男という風情のおっさんに尋ねた。



「いや、月に一度行ってる、例のサウリ山の滝壺に神水を汲みに行ったんだ。でも、この間の大雨で増水していて、とてもじゃ無いが近づけなかったんだが、近くの川岸にこいつが倒れていてな。多分大雨で流されてしまったんだろう。とは言え、俺も人生40年だが、こんな生き物は見た事も、聞いた事もねぇ。」


そう言っておっさんは僕にそっと指を伸ばした。僕は攻撃するつもりは有りませんよと意思表示をするために、手をワキワキさせて何なら口元をニンマリ緩めた。



「大丈夫なのか?噛まれたりしないか?」


僕は随分失礼な事を言うおじさんだと思って、思わず小さい声で『くそが…。』って呟いてしまった。するとおじさんはギョッとした顔をして、おっさんに尋ねた。


「何だい?今の音は。やっぱり聞いたこともない鳴き声だな。」


するとおっさんは、僕のぽっこりお腹をそっと触って指先で撫でた。



「ああ。俺も運んでくる時に聞いた時は、ちょっと驚いたけどな。ほら、見てくれ。凄く大人しくて可愛らしいぞ。これ、珍しもの好きな貴族に高く売れるんじゃないか?」


おじさんは僕をじっと見つめていたけれど、おっさんに袋から僕を出す様に頼むと、立ち去ったのか僕からは見えなくなった。おっさんは、僕に言った。


「お前、良い子にしてたら可愛がられるぞ?そうじゃなきゃ、肉になるかな。ははは。」


いやいや、それは本当に勘弁して。僕、中身人間だからさぁ。



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