第11話 アレを持ってきたのは嬢ちゃんかい?
王女様の部屋から自分の家に戻ると、家の前でニッキーさんとローナさんが待っていてくれた。
「マリオン!」
「お二人とも、どうされましたか?」
聞けばあれからどうなったのか気になって、訪ねてきてくれたらしい。立ち話もなんなので、取り敢えず中に入ってもらうことに。
「へぇ、ちゃんとしてるんだ」
「はい。しっかり作られているので、とても住心地がいいですよ」
先日ローナさんに聞かれた薪のことや料理のことをニッキーさんにも一通り聞かれ、大丈夫であることを伝えるとしばらくの沈黙。そして、これもローナさん同様、いきなり謝罪するニッキーさん。
「ゴメン! ローナから聞いたかも知れないけど、私もあんたを苛めてて……」
「それも大丈夫ですよ。残念ながら……と言ったら変ですけど、私は虐められたとは思っていませんでしたし、それにニッキーさんもローナさんもちゃんと仕事のやり方は教えてくださったじゃないですか」
「それはそうだけど……それに今日はあのわがまま姫に責められているところを助けてもらったし。ヘザーさんが庇ってくれたけど、私、メイドを辞めようって覚悟を決めてたんだ。私が犯したミスだったから、メイド長に迷惑をかけるわけにもいかないし」
私が森の中でパトリシア様と知り合ったのは偶然だったけれど、今回はそれが彼女を救う結果となった。普段仕事でお世話になっているニッキーさんだから、少しは恩返しができたかしら?
「あれからどうなったの? 結構長い間、姫様の所にいたんでしょ?」
「はい。王女様にお誘い頂いて、学園に入ることになりました」
「えっ!? 仕事辞めちゃうの!?」
「いえ。学園の授業が終わってから少し働かせて頂こうと思ってます、折角色々お仕事も覚えましたし。それに入学はまだ先の様なので、それまでは今まで通りよろしくお願いします!」
「そうなんだ、良かった!」
それからは三人で打ち解けてのお喋り。イノシシ肉は寮の食堂でも好評だったらしく、いつもよりも食堂内が騒がしかったとか。
「それにしても、あんなに沢山肉をもらって良かったの? あんたの分がなかったんじゃ……」
「そんなことないですよ。あれでも半分ほどですから。残りは干し肉にしてます。あ、毛皮がありますよ」
家に戻ってからなめし処理をしていた毛皮を取ってくる。キレイに皮を剥いだので、顔も手足の形もくっきり残る毛皮。広げると狭い部屋イッパイに広がって、私たち三人が寝転がっても余るぐらいの大きさがある。
「こんなに大きいの!? っていうかこれ、あんたが作ったの!?」
「はい。ある特殊な結晶が必要なんですが、ウチの領地では普通に取れるので持ってきていたんです。王都でも多分手に入りますよ。あとはちょっと魔法も使って楽しちゃいました」
皮の裏側を処理したり洗ったり、結晶を溶かした液に浸けておいたり乾燥させたりする過程は、魔法を使うと比較的短時間で終わる。これだけキレイに処理できていれば、街で売っても大丈夫かしら?
「あと、これが牙です。二本ありますよ」
「デカッ! ハハハ、あんたは本当に野生児ね」
「そうですか? ウチの領地では普通でしたよ」
そう言うと三人の間に笑いが生まれた。これでニッキーさんともまた少し仲良くなれたかしら? 小一時間ほどお喋りした後、お二人は寮へと帰っていった。またいつでも訪ねてきてくれると嬉しいなあ。
翌日はイノシシの牙と毛皮を街へ売りにいくことにする。王都に来て最初にお世話になったマッコール商会なら買い取ってくれるかも知れないと思い、とにかく持っていってみることにした。店の中に入ると相変わらず店内は賑わっていて、今日は職業紹介のテーブルも人で埋まっている。
「いらっしゃいませ……あら、あなたはこの間の!」
「あ! 店員さん。その節はお世話になりました」
「大丈夫? 王宮で苛められてない? 今日はどんな用件かしら。別の仕事ならすぐに紹介できるわよ」
「いえ、仕事は順調ですので。それより、こちらではイノシシの毛皮や牙を買い取ってくれますか?」
「もちろん! 皮も牙も色々と使い道が多いから良く流通してるわよ。あ! 分かったわ。先日の狩猟大会で狩ったものを売ってこいと言われたのね? 毎年恒例だけど、メイドさんが売りにくるのは珍しいわね」
そうじゃないんだけど、自分で狩ってきたと言うとまた色々聞かれそうだから、そう言うことにしておこうか。しかし皮と牙の入った大きな袋を差し出すと、はみ出た牙を見てギョッとする店員さん。
「ちょ、ちょっと、どれだけ巨大な獲物だったの!? と、とにかく確認させてもらうわね」
女性が奥の部屋に行ってしばらく、何人か男性店員が奥へと走っていくのが見えた。奥の方で何やら声がしていて、ほどなくガッチリした体格の中年男性が駆け寄ってくる。
「アレを持ってきたのは嬢ちゃんかい!? 一体あれを狩ったのは誰なんだ! 狩猟大会の優勝者は王族ではない貴族で、そこから鹿の角を買い取ったんだが」
「いえ、あれを狩ったのは私です。狩猟大会とは関係ないです」
「はっ!?」
「だから、あれを狩ったのは私です。弓矢でこう頭を……」
弓を構えるフリをして見せるが、まだ信じられない様子の男性。時間がかかりそうだったので、彼に椅子に座ってもらうことにする。
「ここにかけて頂けますか?」
「何だい、急に?」
そう言いながらも男性が座ったのを確認し、脚の一本を掴むと片手で椅子ごと男性を持ち上げた。一瞬周りが静まりかえり、やがてガヤガヤと歓声が起こる。
「これで信じて頂けました?」
「お、おう。嬢ちゃんの力が強いのは分かった。そ、そろそろ降ろしてもらえるか?」
「あ、すみません」
「ちょっと奥の部屋に来てもらえるか? 商談がしたい」
「はい」
奥の部屋へ連れていかれると、店員の女性と先ほど入っていった数人の男性が、広げた毛皮と牙を入念に確認中だった。
「どうだ?」
「はい、店長。毛皮も牙も最高級ですね。毛皮の処理も良くできてる。それより、これってひょっとしてケンドールの……」
「可能性はあるが、今は買い取りが先だ。ご苦労だったな。エイプリル、お茶を頼めるか?」
「はい」
私と『店長』と呼ばれた男性を残して、他の店員たちは部屋を出ていってしまった。ソファーに座る様に促されて、彼の対面に座る。こ、これが商談!? ドキドキするなあ……
「早速だが、この毛皮の処理も嬢ちゃんが?」
「はい。領地では良くやっていましたので」
「領地?」
「ランズベリー領です。田舎なもので、日常的に狩りや魔物退治をしてたんですよ」
「嬢ちゃん、ランズベリーの出身か!?」
「はい。父が領主をしておりまして」
聞けば店長さんはランズベリーの隣の領地の出身で、商人として駆け出しの頃にランズベリーに行く途中、魔物に襲われたそうだ。その時助けたのが他ならぬ父さんだったらしい。その後父さんと交流ができ、父さんの勧めもあって王都に来て成功したと聞かされた。父さん……ひょっとして誰にでも王都に行くよう勧めてる!?
「そうかそうか、嬢ちゃんはクレイブさんの娘さんなんだな。それじゃあこの品はきっちり買い取らせてもらおう」
「あの……」
「ん、何だい?」
「いえ、なんでもないです。ところで私は相場など全然分からないのですが、この毛皮と牙でいかほどになりますか?」
「そうだな、毛皮の方は処理もいいし、何よりこの大きさのものは王都じゃめったに出回らない。敷物にするにせよ加工するにせよ貴重なもんだ……金貨二十、いや三十で売れるだろう。牙の方はもっと高値で売れるぜ。一本五十から六十ってところか」
「そんなに!?」
「売値がそれだから買い取りは当然安くはなるが、ウチの利益も考えて……そうだな、金貨百枚でどうだ? 本当はもう少し値切りたいところだが、嬢ちゃんは恩人の娘さんだしサービスだ」
「では、それでお願いします」
店長さんのご厚意で、随分高値で買って頂けたわ。今後も狩りの成果は買いあげてくれるとのことで、なんなら処理もお願いできるらしい。でも、こんなに沢山お金をもらっても実はあまり使い道がない。商会ではお金も預かってくれるらしいので必要分だけ手元に残し、残りは口座に預けておくことにした。これでしばらくお金に困ることはなさそうだわ。学園入学の準備にもお金が必要だし、今はできるだけ節約しておかなくちゃ。
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