クラスで人気者の彼女が何故か一糸纏わぬ姿になってモブな僕に憑りついちゃった件

タカテン

第1話:隣の席の女の子が全裸で座っていて、実は死んでる

 朝の学校。

 僕はいつものように机に頭を伏せて眠っている振りをしていた。


 友達はいない。だから挨拶をかけられることもない。

 かと言って自分の席で本を読んだり、予習をするようなタイプでもないので、そうなればもう寝てるふりをして朝のホームルームが始まるのを待つしかなかった。


 ちらり。ちらり。


 ただ、その日は少し違っていた。

 いや、全然違っていた!

 この高校に入学して一年と少し。毎日毎日、朝は自分の机で寝たふりをする僕だけれど、こんなことは今日が初めてだった。


 だって、隣の席の十二単結衣じゅうにひとえ・ゆいさんが。

 僕なんかと違ってクラスの人気者で、いつだってその周りには何人もの友達が群がっていて、青春を謳歌しまくっているクラスカーストの頂点様が。


 何故か全裸で座っていたのだ!!


 ちらり。ちらり。ちらちらり。


 そりゃあ見ちゃうよね、机に伏せて寝たふりをしながら、横目でどうしても盗み見しちゃうよね。

 今の時代、女の子の裸はネットで簡単に見れる。18歳以上でーすと嘯いて、無修正動画を見まくり放題だ。

 だけどこうして実際に見るのは、もちろんだけど初めてだった。


 モニター越しでは伝わらない、圧倒的な肉欲感。

 十二単さんは決して胸が大きいわけではないけれど、それでも手を伸ばせば手が届く距離で見る横乳は、僕が『巨乳』の検索ワードで見たどの女の子たちよりも迫力があって、思わずごくりと生唾を飲み込んでしまう。

 加えてその先端にちらちら見える桜色のぽっち様ときたら……8K画像を遥かに越える美しさだった。


「う、うーん、むにゃむにゃ」


 自分でもわざとらしいとは思うけれど、寝言とともに寝返りをうって顔を十二単さんの方に向けた。

 負けた。男の悲しい性に負けた。

 でもさすがにガン見する勇気はないので、寝ている振りを継続しながらうっすらと目を開ける。


 うわー! 腰のライン、えっろ!!


 椅子に腰かける十二単さんのお尻は、これまたパンツも穿かずに丸出しだった。

 まぁ、隣に座っているのでお尻の割れ目とか魅惑のトップシークレットゾーンなんかは伺い見ることはできないけれど、それでも剥き出しになったお尻からふともものラインに僕は頭がくらくらした。


 すごい! すごい! 凄すぎる!!


 クラスどころか学年でも一、二位を争うぐらいモテモテの十二単さんのストリップは、間違いなく僕の16年の人生で最高の経験だった。


 だけど一体何があったのだろう?

 彼女が苛められてる様子なんて昨日までまるでなかった。

 もしかしたら何かあってカーストの頂点から転落しちゃったのだろうか。でも、それだったらいじめっ子がここぞとばかりに絡んでくるはず。


 となると考えられるのは、何か陽キャグループ内での遊びによる罰ゲームあたり?

 それなら有り得そうな話だなと思った。

 もっとも罰ゲームで全裸ってちょっと過激すぎじゃないかなとは思うけど。


 うーん、原因を考えていたらなんだか興奮が収まってきて、代わりに十二単さんが可哀そうになってきた。

 とは言っても僕みたいな陰キャに何が出来るわけでもない。

 下手に関わってとばっちりを喰らうのは嫌だからね。


 だから僕に出来ることはと言えば、これ以上その裸を見ないことだけだった。

 名残惜しいけれど、この香り立つようなエロスを無視するのは難しいけれど、それでも十二単さんの気持ちを思えばここで視線を外してあげるべきだ。


 でも、最後におっぱいをもう少しだけ……え?


 視線を腰から上に向けた僕はおっぱいよりもその上、長い髪を後ろでポニーテールに縛り付ける彼女の表情を視界に捕らえて驚いてしまった。


 え? なんで? 


 教室で全裸になっているのに。

 罰ゲームか何かは知らないけれど、恥ずかしい裸をみんなに晒しているのに。


 なんで笑っているの、十二単さん!?!?!?


 十二単さんがいつもの友達とおしゃべりをしている時のように。

 あるいは密かに仕掛けていたイタズラが見事に成功した時のように。

 はたまた初めて食べたスイーツが想像以上に美味しかった時のように。

 えくぼを浮かべた頬へ軽く左右のてのひらを押し当てながら。

 楽しそうに。

 嬉しそうに。

 面白そうに。

 そしてほんの少しだけ憂いの色を滲ませながら、笑顔を浮かべては教室を見渡していた。


 え? え? どういうこと?


 全裸で笑顔ってなにこれ?

 もしかして催眠術かなにかにかけられているの?

 それとも実は露出狂の痴女だったとか?

 だとしたら僕はここで再び顔を伏せるのではなく、むしろガン見しまくった方が十二単さんも嬉しいってコト!?


 ますます訳の分からない事態に、僕は他のクラスメイト達の反応を伺った。

 そこでようやく僕は今朝の教室が異様な雰囲気に包まれていることに気付いた。

 いつもは先生がやってくるまでざわざわとうるさいのに、今日は異様にシーンと静まり返っている。

 おしゃべりをしている人は誰もいなくて、みんな自分の席に座っていた。その表情は一様にどんより暗くて、まるでお葬式のよう。

 おまけに窓際に座る渡辺さんが顔を両手で覆って泣いていて、何人かのクラスメイトが彼女を慰めていた。


 一体何が起こっているんだろう? 

 こういう時、ボッチは悲惨だ。誰かに聞くことも出来ない。

 なんで十二単さんは真っ裸?

 そしてどうして誰も十二単さんを見ないどころか、落ち込んでいるんだろう?


 わけがわからなくて混乱する僕の耳に、ガラガラと教室の扉を開ける音が飛び込んできたのはその時だった。


 二年B組の担任・山本先生だ。

 この令和の時代にいまだ昭和の価値観を持ち込むこのガミガミ爺さんは、もちろんのことながら礼儀にうるさい。

 なんせ先生が教卓につくまでに席へいない生徒は問答無用で遅刻扱いにするほどだし、日直の「起立!」の掛け声に元気が無かったら丸一時間お説教が始まることもしばしばだ。


 …………って、ちょっと待って。

 そんな山本先生が全裸の十二単さんを見たらどうなるのだろう?

 そんなの言われなくても分かり切っていた!


「や、や、やばいよ、じゅ――」


 僕は思い切って十二単さんに声を掛けようとした。

 陰キャな僕が話しかけれるような人じゃないのは分かっていたけれど、それに話しかけた以上、僕が彼女の裸を見てしまったのはもはや隠しきれないけれど、それでも彼女が山本先生にどれだけ怒られるか、あとそのとばっちりを僕たちも存分に受けることを考えれば声をかけずにはいられなかった。


「あー、みんな、すでに知っていると思うが」


 だけどそんな僕の言葉を遮るようにして、教卓についた山本先生が顔の皺をさらに深くした悲痛な表情で口を開く。


「昨日、十二単が亡くなった」


 …………へ?


「トラックに轢かれて即死だったらしい」


 …………はい?

 何を言っているのだろう、咄嗟には理解できなかった。

 だって十二単さんはいつものように隣に座っているのに。

 全裸だけど。


 だから。


「どーもー。あたし、死んじゃいましたー」


 十二単さんが照れたように頭を掻いてポニーテールを揺らしながら立ち上がるその隣りで、


「じゃ、じゃあ、もしかしてそこにいる十二単さんって!!」


 僕もまたいつもなら絶対出すことのない大声を出しながら立ち上がってしまった。


「え?」

「……え?」


 突然立ち上がった僕たちふたりをクラスのみんなが驚いたように……いや、正確には十二単さんじゃなく僕にだけ注目して振り返る。


 う、うあ……どうしよう、つい大声を出しちゃった。

 み、みんなが僕を見ている。ちゅ、注目を集めるのは、に、苦手なんだ……。


「どうした、本山? 十二単のことで何か知っとるのか?」


 山本先生の問いかけにドギマギして何も答えられずに固まる僕。

 その僕の前に突然、十二単さんが飛び出してきた。


「ちょ! もしかして、私のことが見えてるの?」


 うん、見えてる。

 と言うか、そんな真正面に立たれたら、薄い毛に覆われた十二単さんの大切なところまで丸見えで……。


「ぶはっ!!」


 かくして僕、本山信男もとやま・のぶおこと通称モブ男は、鼻からまるで間欠泉の如く熱き血潮を噴き出して、気を失ってしまった。



 ☆ ☆ ☆


 第一話をお読みいただき、誠にありがとうございます。

 こんな始まり方ですが、今作は自分に自信がなくて、自分なんて誰かの人生のモブキャラなんだって思い込んでいる主人公モブ男が、元クラスメイトですっぽんぽん幽霊な女の子・十二単結衣との触れ合いの中で自分が主人公の人生を歩み始めるという、王道青春ストーリーとなっています。

 だって大好きなんだもん、そういう青春ラブコメが。

 でも王道すぎるのは恥ずかしいので、ちょっとえっちな描写で胡麻化していたりするのです(笑)

 ボーイ・ミーツ・ガールの王道成長ストーリーが好きな方、またちょっとえっちなラブコメがお好きな方、ご期待に添えられるよう頑張りますので、どうぞ応援よろしくお願いいたします。

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