復羞のユースティティア

@tamago-x-gohan

第1話墜ちた剣姫と回復術士

「あ……!?……ユースティティア様!!ありました!!」

 胸の部分だけの白い上着に黄色いリボンのようなネクタイ、白いショートパンツといかにも戦闘には不向きの格好をした銀色のショートヘアの小柄な姿が瓦礫がれきの中から大きな大剣たいけんを持って現れる。

「……ぅぁ……うあぁーーーー!!!!」

 言葉というより雄叫びを上げた長身の少女は、背中まで伸びた赤い髪を揺らしながら憎悪の表情をしたまま駆け寄り、大剣を奪い取ると片手で軽々と持ち上げ、ブルゥン!と一振。目の前の半壊していた家がまるで鉄球をぶつけたかのように粉砕される!

 ガシャァーーーーン!!

「……ぅぅ……ぁ」

 やり場のない怒りをぶつけ、粉々になった家を見つめながら長身の少女は涙を流していた。

「……ユースティティア様」

 長身の少女を心配そうに見つめる。死屍累々の中、声にならない声を発しながらたたずむ彼女を見つめる事しかできない自分を悔やんだ。


大男「なんだぁ~~?声が聞こえたと思ったら生き残りか!?」

 全身を鎧に包んだ大柄な男が斧で家を破壊しながら姿を現す。

「青の紋章!?やはりジークフリート軍の仕業だったのか!」

大男「んん!?その格好……クリームヒルトの女回復術士か!?名前は確か……パナなんとかだったか?おお!?うしろにいるのは剣姫ユースティティアか!?おひょ!すごい格好だな!」

 よだれを垂らしながら近づいてくる。

パナケイア「ユースティティア様に近づくな!!」

 勇敢にもユースティティアの前に出て腰に帯刀していたナイフを取り出し大男に突きつける!

大男「ははは!手が震えてるぞ!俺はロリコンではないがユースティティアのあとだったら相手をしてやってもいいぞ!」

 下品な言葉を発しながらゆっくり近づく。

パナケイア「くそっ!ユースティティア様はボクが守る!」

 震えながらもナイフを大男に向かって振り下ろす!

大男「ふん!」

 拳ひとつでパナケイナは吹き飛んだ!

パナケイア「ぐわぁ!!……ユースティティア……様……ぅぅ」

大男「バカが!そもそも回復術士をやとっていること自体が気にくわないのだ!強者つわもの揃いの我がジークフリート軍と女だらけのクリームヒルト団が同格な訳がない!!だからシュヴァルツヴァルト団長は……」

ユースティティア「……シュヴぁ……ああ……あぁーー!!」

 カシャン!カシャン!

 足と脚を守る鎧がぶつかる音が響く!ユースティティアは大剣を振り上げながら大男に走り寄る!

大男「おおっと!口が滑ったか……いかんいかん。今の記憶はあの世に持っていってくれ!!ふんっ!!」

 大男は斧をユースティティアに向けて振り下ろした!

 ズバァァーーン!!!!

大男「ば、バカな……!?」

 大男の半身は押し潰され原形を留めていない!

 致命傷の傷を受けたのは大男の方だった!

 

大男「聖剣……!?その背中の紋章は……ぐふぅ……」

 大男は事切れた。

 ユースティティアの長い赤髪が夜空に舞う。背中には微かに光る刻印が浮かび上がっていた。

ユースティティア「……ぅぅぁ……エ……イル」

 彼女は虚ろな目をしたまま、廃墟と化したかつての故郷を呆然と眺めることしかできなかった。

パナケイア「……ユースティティア様」

 パナケイアは不謹慎にも、月夜に照らされたユースティティアに見惚れてしまった。


 かつて『救済の村』と呼ばれたサリュ村。

 長身の少女ユースティティアはこの村の出身であり、彼女にはひとつ下の自慢の妹がいた。妹エイルは生まれながら額に聖女せいじょ刻印こくいんを持つ『ヌヌ フォモンカン(神の生まれ変わり)』だった。

 エイルは十歳にもなると聖女の特性『回復術』が体現できるようになっていた。


エイル「お姉ちゃん!今日はね、ケガをしていた鹿しかさんを治したよ!ねぇ!?すごい!?」

 エイルはユースティティアに頭を向ける。

ユースティティア「えらいぞエイル!い~~こい~~こ」

 ユースティティアはエイルの頭を撫でた。エイルはお姉ちゃんの『い~~こい~~こ』が大好きだった。

エイル「えへへ!やったね!」

 満面の笑みを浮かべるエイル。

ユースティティア「……エイルは私が守らるからね……」

 エイルの頭を撫でる彼女の顔は険しい表情をしていた。ユースティティアは幼いながらも妹の力の危険性を感じとっていた。この力は、きっと奪い合いになる。いざという時のためにユースティティアは剣の修行を始めていたのだ。


 ユースティティアは18歳にもなると剣の才能を発揮し、王都トイトブルクの騎士団に入団する。


 この世界には二本の聖剣が存在する。

 【聖剣ジークフリート】……青の剣

 【聖剣クリームヒルト】……橙の剣

 対の色を持つ二つの聖剣は王都トイトブルクの力の象徴であった。

 青の剣を男のみで結成されたジークフリート軍、橙の剣を女性のみで結成されたクリームヒルト団で保管していた。

 当初、クリームヒルト団は都民に人気はあるものの、ジークフリート軍には力では到底及ばず、完全にお飾りの団だった。

 年に一回行われるジークフリート軍とクリームヒルト団の模擬戦もお祭りのイベントの中のひとつであり、18歳の新人ユースティティアがジークフリート軍を圧勝するまでは何も問題はなかったのだ……。

 王の目の前で次々にジークフリート軍の男を負かすユースティティアを王は大層たいそう気に入り、ついには『剣姫』の称号と正式な『聖剣クリームヒルト』の保有者としてしまった。

 王の目の前で恥をかかせられたジークフリート軍は団長のシュヴァルツヴァルトを中心にクリームヒルト団への嫌がらせをするようになった。

 最初は悪口を言う程度だった。それがだんだんエスカレートしてゆき、『ユースティティアはジークフリートの男達に抱かれて、勝ちを譲ってもらった』『クリームヒルトの女達はジークフリート軍の性処理のために存在する』といったデマが流れ、やがてクリームヒルト団の女性達からもユースティティアは厄介者扱いされるようになった。

 それでも彼女は気にもしなかった。剣の実力では負けない。それに、彼女は妹エイルが笑顔ならそれだけでいいと考えていたからだ。

 異変が起きたのはユースティティア19歳、エイル18歳の時だ。

 18歳になったエイルは正式に聖女の称号を王から授かり、ノートル・ド・ラガルド大聖堂 での生活が始まった。

 当初、ユースティティアは王都に来た妹エイルに大いに喜び、毎日のように大聖堂を訪れた。それをよく思わなかったジークフリート軍団長シュヴァルツヴァルトは王にユースティティアの良からぬ噂を流し、王命にて『ユースティティアの大聖堂への出入りの禁止』と『シュヴァルツヴァルトと聖女エイルの婚約』を発表したのだ。

 今までわれかんせずえんのユースティティアもこれには黙っていられなかった。


ユースティティア「シュヴァルツヴァルト!貴様!!」

 ドアを蹴破りなから、ものすごい剣幕で部屋に入ってきたユースティティアは机を叩きながら豪華な椅子に座っているシュヴァルツヴァルトを見下す。

シュヴァルツヴァルト「おいおい、ここはジークフリート軍の作戦本部だぞ。場をわきまえろユースティティア」

 咥えた葉巻を手に取り、煙をユースティティアに吹き掛ける。

ユースティティア「貴様!エイルと婚約とはどういう了見だ!!」

 煙を振り払いながら再度机を叩き、シュヴァルツヴァルトを睨み付ける。

シュヴァルツヴァルト「お前が俺の誘いを断るからだろ?せっかくいい体してるのに……今からでも遅くない。俺に抱かれるか?」

 シュヴァルツヴァルトはニヤニヤしながらユースティティアの体を舐めまわすように見る。

ユースティティア「貴様ぁーー!!」


 ジークフリート軍シュヴァルツヴァルト軍団長は狡猾な男だった。

 ユースティティアが乗り込んで来るのを見越して王直属の近衛兵を待機させていた。

 ユースティティアはそのまま幽閉。

 その一ヶ月後に、思い出すのも忌々しい人災『サリュ村の滅亡』が起きてしまう。

 ユースティティアが妹エイルの訃報を耳にしたのは、それからさらに三ヶ月後の事だった。

 

 【廃墟サリュ村】

パナケイア「ゆ、ゆゆゆユースティティア様!!お体をふふふ拭きます!!」

 廃墟と化した村の空き家で運良く手に入れた井戸の水を焚き火で沸かし、ちょうどいい温度に冷ましてからタオルを絞り、パナケイアはユースティティアの体を拭いた。

ユースティティア「………」

 ユースティティアに言葉はない。

 先刻の出来事でユースティティアの心は壊れ、怒り以外の感情を失くしてしまったのだ。

パナケイア「ししし失礼します!!」

 パナケイアは緊張しながらも、ユースティティアの豊満な胸をタオルで拭いた。

 ユースティティアは村が焼き払われた時には、鎧は砕け、下着等も焼け落ち、パナケイアが彼女を発見した時にはすでに上半身は裸だった。

 パナケイアは廃墟から探しだした服を何度もユースティティアに着せようとしたが、ユースティティア無言でこれを拒み、結局、下半身の鎧だけで上半身は裸のままだった。

パナケイア「く……!!見ちゃダメだ!見ちゃダメだ!」

 ユースティティアの背中側から手を伸ばし、見えないように目隠しをしながら胸を拭いた。

 ふと、ユースティティアのお尻に固い物があたる。

パナケイア「わーー!!ごめんなさい!ごめんなさい!!」

 パナケイアの格好は胸の部分だけの白い上着に黄色いリボンのようなネクタイ、白いショートパンツ。かわいらしいヘソは常に出ていて、まさに女の子回復術士の格好なのだが……彼はれっきとした男の子だった。

パナケイア「ボクは女の子だなんて一言も言ってない!用意された役割をこなし、用意された服を着ているだけなのに~~!!」


 これは常に上半身裸で復讐のために戦う『墜ちた剣姫』ユースティティアと彼女を全力で助けるひとりの少年の物語。

 ブルゥン!

 大きな胸が大きく揺れた!

パナケイア「ああ!ごめんなさい!ごめんなさい~~!!」

 そう、これは……恥じらいを取り戻す復羞ふくしゅうの物語である。

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