第7話 8/24

 昨日紹介された病院へ行く。同じような手続きをして、中待合室でしばらく待った後に診察室へ通された。

「藤田さんの腫瘍は聴神経にできていますね。

 約三、五センチほどの大きさです。良性だと思いますがかなり大きいので、早めに取った方がいいですね」

 丁寧な印象の先生が説明をする。

「放射線治療やガンマナイフ等では治らないでしょうか?」

 私はネットで調べた治療法を聞いてみる。

「この大きさだと難しいですね。早急に手術した方がいいと思います。良性でもこのままでは通常の生活を送る事が困難です」


 ――私はとぼとぼと駅へ戻る道を歩いていた。来年の春には夫の転勤が終わるので、内地へ帰る予定だった。その時に手術しようと思ったのだが

「半年後⁈ そんなに先だと腫瘍がさらに大きくなりますね。一刻でも早くした方がいいです」

と却下されてしまった。十月か、九月もまだ何とか取れるかもと日取りを決めようとする医師に、一旦帰って考えると伝えて帰路についていた。


 ……本当に手術しないといけないのだろうか。左耳は右ほどではないが聞こえはする。歩行や思考も、支障ないように思える。切らずに放射線治療をしてくれる病院を探した方がいいのでは……ショックと様々な思いが絡み合って、考えがまとまらない。

 手術……手術だって? 頭蓋骨ずがいこつを開けて腫瘍を取り出すなんて…… 想像するだけで、恐怖で心がすくみそうになる。


「早く手術した方がいいみたいだな」

 夫がボソリと言う。

「……したくない」

「はあ⁈ 何言ってるの。しないと死んじゃうんだよ」

「だって、頭を開けるなんて……怖いよ」

 私は足元が覚束おぼつかなくなり、歩けなくなってしまう。大勢の人々が行き交う雑踏の中で立ち止まり、恥も外聞もなく声を上げて泣き出してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る