第5話 8/22 宣告

 夕方に差しかかろうとする頃、懐の携帯が鳴った。ちょうどコンビニへ行く坂道を下っていた。取り出して通話ボタンを押す。

「藤田さんですか」

 その声は松川先生だった。いつもと声の様子が違う。急にどうしたのだろう。少し不審に思いながら返事する。

「そうですが」

「実は、MRIの結果の写真が先程送られてきたのですが……

藤田さんの脳に小さい腫瘍ができているようです」


 言いにくそうに、そう告げる。――一瞬だけ、彼が何と言っているのか理解できなかった。


「はあ?」

 つい大きめの声で間抜けな返事をしてしまった。彼はもう一度同じセリフを繰り返す。

 え……どういう事? 言っている意味が分からない……頭の中で疑問符と混乱が駆けめぐる。

 あまりの衝撃で、店には行かずそのまま家へ戻った。もう治らないのだろうか。腫瘍は悪性?それとも良性なのか。このまま死んでしまう?小さい子供二人を残して?

 そんなのは嫌だ。ネットで調べたが、十万人に一人しかかからないという病気に何で私がならないといけないの⁈


 絶望や孤独、病気に対する怒りや恐怖が湧き上がってくる。とにかく高さんに話をして、松川先生が教えてくれた本島と連携している都内の病院へ予約をした。

 義母と義父にはしばらく言わなかった。様々な思いが頭の中に広がっていき、どうして私だけが……という思いに囚われて、こらえ切れずに義実家の階段でこっそり泣いた。


 ユウとハナが喧嘩けんかをして、上の子が妹に全く手加減をしない。叱っても反省していない様なので、夫に病気の事を言ってもいいか聞いてから、ユウにだけ打ち明けた。

「お母さんね、病気になったの。もしかしたら治らないかもしれない。あなた達を残して死んでしまうかも」

 話しながら、涙がこみ上げてくる。こらえながら先を続けた。

「明日、お父さんと病院に行ってくる。どうなるか分からないけど、ユウはもう少しハナに優しくして」


 彼は分かっているのかよく分からない顔をしていたが、その後は少し大人しくしていたので子供なりに何か感じたのかもしれない。

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