深々と雪が降る夜は、

モリアミ

深々と雪が降る夜は、

『深々と雪が降る夜は、』

 そう書いて筆が止まる。深々ってなんだ? 雪が降ってるときのありふれた表現だが、これって擬音なのか?

『しん‐しん【深深・沈沈】[1] 〘形動タリ〙① 奥深く静寂なさま。ひっそりと静まりかえっているさま。森森(しんしん)。※平家(13C前)二「冥々として人もなく、行歩(かうほ)に前途まよひ、深々として山ふかし」※俳諧・曠野(1689)八「しんしんと梅散かかる庭火哉〈荷兮〉」 〔荘子‐大宗師〕

② 寒さ、痛みなどが、身にふかくしみとおるさま。

※俳諧・七番日記‐文化一四年(1817)八月「しんしんと心底寒し新坊主」※土(1910)〈長塚節〉一七「夜の温度のしんしんと降下しつつあるのを感じた」[2] 〘副〙 (一)②に同じ。※童謡・クリスマスの晩(1933)〈北原白秋〉「僕はこごえて佇(た)ってます なにかしんしんしてきます」』by コトバンク

 Oh サンキュー

 つまり、寒さを形容してるってことね、じゃぁ誤用か。いや誤用か? 雪の降ってるシーンの擬音として付けて見たが、雪の降る夜が深々としているってことなら有ってる訳だ。結果オーライ、モーマンタイ。でも本当に? これって自分が表現したい内容だったろうか? ここって書く必要がある場面か? でも削るのもどうだろう? 舞台は冬だから、雪が降ってれば分かり易いし、それに何より字数が足りない。取り敢えず、書いといて要らなそうなら削れば良い。

 そうやって自分を納得させても、深夜にふっと湧いて出た言い様の無い不安感は消えなかった。散らかりきった自分の部屋を見回しても、何も無いのは分かりきっている。ただ、目の端に写った窓際の様子に少しだけ違和感を覚えた。外は明るくなり始めている、でもまだそんな時間じゃ無い。気になってカーテンを開くと、窓の外の世界は雪で白く染まっていた。なるほど、どうりで寒い訳だ。丁度良いし、取材がてら外に出よう。こんな夜なら何か良いことが思い付くかもしれない。

 取り敢えず厚着して家を出たが、目的何かある訳が無い。まずは近くの自販機まで行って見たが、折角だから別の自販機まで行こう。元々缶コーヒーはこっちよりもあっちの方が好みなんだ。夜の街中をフラフラとしているうちに、段々と童心が思い出される訳で。誰も歩いてない雪の上に、自分の足跡を付けるのが快感になって来る。そうだ、帰りはこの足跡の上を後ろ向きに辿ろう、いや危ないか。何かのトリックの為にそんな事してたら、滑って転んで死んでしまった。そんな感じで面白い話書けねーかな、とか? そんな感じで次の自販機まで来て、何だが広い空間に行きたくなった。だだっ広い場所一面に広がる白い雪、足跡も何もないその光景は綺麗なんじゃ無いか? 取り敢えずこっから近い所だと、小学校の校庭とか? 確かあそこは校庭に門とか無かったし、端っこのブランコとかに行く分には問題無いだろ、多分。きっと。おそらく?

 住宅地の中で、少し高い場所にある小学校は、駐車場に行く為の坂になった道路と、校庭に繋がる階段とがある。坂道よりも階段の方が歩くのには安全か? 手すりもあるし。そんなこんなでしばらくぶりに来た小学校の校庭は、思いの他広かった。よくいう大人になって来て見ると案外小さく感じるの逆を行く感性、それにちょっと戸惑った後なんてことはない答えに辿り着く。この校庭、実際に1.5倍位になってるわ。自分が通ってた頃は、校庭の周りに木製の馬鹿でかい遊具があったはずで、今目の前に広がる空間には申し訳程度のブランコと鉄棒位しか残って無い。老朽化して撤去したんだな、時の流れの諸行無常。そうして、鎖からロープに変わり果てたブランコの、座面を払って座る。そのまま数分、ただぼーっと白い校庭を眺めているうちに、やっとのことここ数十分感じていた不安感の正体に気が付いた。恐ろしく静かなんだ。

 街灯も無くただただ広い空間を、何処とも分からない遠くから届いた灯りだけが照らす。それでも今日見たいな雪の夜は、一面の白が反射して不思議な明るさを保っていた。出歩く人も車も走らない、それに積もった雪が音を吸い、無音だけがこの空間に満ちていた。体をじわじわ蝕む寒さと、振り続ける雪の様子は正に深々としていて、何かで形容してしまわないと不安になるほど静かだ。実際、音がしないことは分かっている。それでもこんな夜には、雪が降る音を深々と言っても良いはずで、そうでもしなければ死んでしまいたくなる。缶コーヒーも冷めきって、思考が危ない方に向かい出した頃、車のハイビームが視界の先の山を照らした。そして校庭の脇の道路を、ネオンと重低音を振りまきながら1台の車が走る。その余りの厳つさに思わず吹き出してしまった。全く、情緒もへったくれもありゃしない、せいぜい事故るなよ。さて、そろそろ帰るか。凍え死ぬにはまだ掛かるし、俺の小説はまだ数千文字は足りない訳で、立ち上がった方が良いらしい。

 悪筆乱文誠に失礼、殴り書き故悪しからず。

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