骨切り術の経験談を聞く(11月23日)

 そんな風にちょっと悶々もんもんとしている時だった。

 Eさんっていう方がうちのペンションに泊まりにきてくれたんだ。


 俺より少し歳下の綺麗な女性でさ。自転車のヒルクライムレースにも出ていて、10月の伊那ヒルクライムの時に声を掛けてくれたんだ。その時に少し膝の話をした。

 8月の乗鞍ヒルクライムの時も声掛けてくれて一緒に写真を撮ったんだった。

 実はこのお方、もう何年も前に一度ペンションに泊まりに来てくれてたんだ。

 その出会いがまた可笑しな出会いでさ。


 MTBツーリングでお客さんを案内しながら山の中を走ってる時に、旦那が携帯電話を落としちゃったんだ。

 家に戻ってから気づいて、でもどこに落としたか分からないし諦めてたんだけど、一応携帯電話の番号に掛けてみたら女の人が出てさ。

 人っこ一人通らないような山の中、たまたまEさんが一人で歩いていて、その携帯を拾って出てくれた! 

 で、その日は特に予定が無かったみたいで、それならって泊まってくれちゃったんだ。

 スゲー出会いだろ?


 伊那ヒルのレース後にEさんから、今年の初めに結構大きな膝の手術をしたんだっていう話を聞いた。

 そんなんで、よく乗鞍も伊那も普通に(ってか、結構いいタイムで)走れるな〜って思って、詳しく色々聞いてみたいなって思ってたんだけど、向こうからやってきてくれたんだ。


 Eさんは生まれつきX脚でそれが原因で変形性膝関節症になって、遠因大腿骨切り術っていう手術をしたんだって。X脚だと膝の外側の軟骨が擦り減りやすいんだ。

 変形性膝関節症の人のほとんどがO脚で膝の内側の軟骨が擦り減りやすいって事で、高位脛骨骨切り術っていうのが一般的みたいなんだけど。

 俺の右膝(昔から悪い方)は外側半月板損傷からきた変形性膝関節症だから外側の軟骨が擦り減っていて、右脚に関してはEさんと似たような症状なわけだ。


 Eさんは来月、埋め込んであるプレートを取る抜釘手術をするそうなんだけど、手術をしてすごく良かったって言うんだ。


 骨切り術っていう手術がある事は俺も以前から知っていたけど、しっかりと調べた事はなかった。

 それはネットとかで見ただけなんだけど、とても大掛かりな手術っていう印象が強かった事が一点。

 あと、俺は軟骨が擦り減ってしまってるからその手術は受けられないんだろうなって漠然と思っていた事が一点。


「俺には適用されないかも」


 そう言う俺に彼女は言うんだ。


「手術を受ける受けないに関係なく、私の診て頂いてるN先生に、一度相談してみたらどうですか? 何か良い方法があるかもしれない」と。

 なんと、N先生はサイクリストらしい。選手ではないけどロードに乗ってるそうだ。

 自転車の事を分かってくれる先生なら心強いな。


 そう思ったのだけど、Eさんが診てもらってる病院は兵庫県だと? 


「そりゃ遠いな」


 渋ってる俺にEさんは言う。


「あ、横浜にもT内先生という名医がいらっしゃるんです。私の診て頂いてるN先生の師匠で、すごい先生みたいです。どちらの先生もメールで相談とか出来るみたいです。

 たぶん風羽さんみたいな方が相談したら先生も光栄だと思います。

 とりあえず、私の先生とはメッセージでやり取り出来るので、連絡入れておきます」


 おい、ちょっと待ってくれよ。

 ありがたいけど、まだ心づもりしてねぇし、俺にだって診てもらってる先生がいるんだし。


「あ、もしかしたら風羽さんっていう方から連絡が行くかもしれないのでその時は宜しくお願いします、ぐらいなら構わないですよね?」


 え? あ、まあ、構わないけど。

 ありがてぇけど。ま、それくらいならいっか。

 Eさんはとっととメッセージを送り、N先生からもすぐに返信がきた。

「ご紹介ありがとうございます。了解致しました」

 みたいなやり取りがサッサと行われていた。


 Eさんの素早い行動力に唖然としながらも、大切な話だし俺なりに色々調べて色々と考えた。

 どういう手順で、どう働きかけていけばいっかな?

 頭の中はその事でいっぱいになった。

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