俺の書いたラブコメ漫画を、隣の席の1億年に1度のクール系美少女に見られた〜翌日、彼女はヒロインと同じ髪型の、ツンデレキャラになっていた〜

時雨

第1話 漫画を見た葉桜さん

 最近の俺の趣味は、ラブコメ漫画を描くことだ。

 昔からイラストを描くのは好きだったけど、最近はそれだけじゃ物足りなくなってきた。その結果書き出したのが、ラブコメ漫画。甘々な男女は見てるだけで楽しいし、美少女は癒しでしかない。

 で、話を戻すと、俺はハマりすぎて、時間さえあれば漫画を描くようになっていた。特にツインテールのツンデレヒロインは俺の大好物で、ほんとによく描いている――そう。たとえ時間さえあれば、授業中でも。


「これ、水無月みなづきくんが書いたの?」

「は、い……」


 ……だからこんなことになったんだろうな。絶対そうだ。授業真面目に聞かなかった罰だ。

 ダラダラと背中を冷や汗が流れる。


「水無月くん、絵を描くの上手なのね」

「……ありがとうございます」


 褒められて嬉しい。嬉しいが、それよりも絶望が勝つ。

 なぜならこの漫画を読んでいるのは、オタ友でもなく、男友達でもなく、隣の席の女の子で、しかも1億年に1度の美女と呼ばれていて、品行方正、容姿端麗、才色兼備を地でいく学校中の高嶺の花――葉桜 月乃はざくら つきのだからだ。

 

 そして1番問題なのが、その立ち居振る舞いからして、葉桜さんは確実にオタクではないこと。

 普段あまり喋らないし、無表情だから分かりくにくいけど、確実にオタクではない。雰囲気からして俺はそう思う。

 そんな葉桜さんが、俺の甘々なラブコメ漫画を見てどう思うか。そんなのキモイの一択に決まってるだろ……!


 クソっ。俺はなんてことしてしまったんだ!

 授業中に漫画を描いていたのは百歩譲っても、授業終了後に落としたのが間違いだった。あんなことさえしなければ、葉桜さんが拾い上げて読むことはなかったのに。

 

 葉桜さんに嫌われて、これから侮蔑の目で見られるなんてことになったら俺もう学校通えません!


 心の中でえぐえぐと泣いてると、最後まで読み終わったのか、葉桜さんは呟いた。


「水無月くんは、こういう女の子が好きなの?」

「まぁ、はい……」


 ちなみにこの漫画のヒロインは、ツインテールのツンデレな女の子だ。俺が1番好きな属性の。

 およそ現実にはいないタイプだし、葉桜さんからしたら余計にキモイと思われるかも。

 でももう、手の打ちようがない。

 俺は絶望しながら頷いた。


 葉桜さんはふむ、と頷くと漫画を俺に差し出す。


「読んでしまってごめんなさい。あまりに絵が上手でつい……でも本当に、面白かった。ありがとう」


 おそるおそる表情をうかがってみると、葉桜さんは少し微笑んでいた。あまりに無表情すぎてよく分からないけど、ほんの少しだけ。

 どうやらキモがられているわけではなさそうだと気づき、安心する。


 まぁ明日からは絶対、学校で漫画描かないけどな。



 



 翌日。

 登校してきた葉桜さんに、クラスのみんなの目が釘付けになる。


 なんと葉桜さんは、ツインテールをして学校に来たのだ。

 普段はそのサラサラな黒髪を下ろしているから、絶望的に印象と合わない。


「ちょっとどうしたの葉桜さん!」

「い、イメチェンとかいうやつ……?」

「に、似合ってると思うよ。は、はは」


 みんなの反応は様々だが、たぶん全員が思っている。

『いや、マジで何があったんだ……!?』


 だって葉桜さんは絶対にツインテールなんてしないような人なのだ。そもそもこんなに高いツインテール、しているような子が学校にいない。


 葉桜さんはみんなの注目を集めつつ、席に着いた。そして一言、言い放ったのだ。


「な、なんでもないんだからね……!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る