第34話【Side】それぞれの末路
「コードネームベラよ、今回の作戦は大儀であった」
「ははっ! ありがたきお言葉。デジョレーン子爵という者が間抜けだったおかげで簡単に機密情報を手に入れることができましたよ」
ベラは偽の資料を手にしながら自信満々に喜んでいた。
完璧な偽物であるために、裏組織の幹部の誰もが本物の情報であると勘違いをしていたのである。
「さっそく金銀財宝の眠る屋敷へ潜り、全てのお宝を回収してくるのだ」
「警備がまったくないとは……。貴族たちの警戒心も薄れているのでしょうね」
「ここ最近は我々も静かにしていたおかげでもあるだろう。だが、これも作戦だ。我々が解散したと思わせておき、一気に強奪をはかる。まさに完璧な作戦だ」
「その作戦にまんまとデジョレーンバカ子爵が引っかかってくれたおかげでもありますがね。ではさっそく」
ベラたち裏組織は、準備を万全に整えたうえで真夜中、廃墟された屋敷へと向かった。
♢
ベラたちが廃墟された屋敷へ難なく侵入した直後のことである。
「捕えよ!!」
「「「「ははっ!!」」」」
「「「「「な!?」」」」」
ベラを含む裏組織全員があっという間に騎士団によって拘束された。
これにはベラもなにがなんだかわからず唖然としていた。
「いったい……!?」
「まさか警備をはじめた当日に訪れてくれるとは予想外だったぞ。おかげで時間をかけることなく済んだがな」
「どういうことだ?」
「子爵家から機密情報を持ち出し、それを頼りにここへ来たことはすでに把握済みだ。観念するのだな」
「く……。まさか子爵のやつらに騙されてしまうとは……」
「いや、子爵もまんまと騙されていたぞ。今回の目的はあくまで子爵が不正を働かせ、部外者に機密情報を漏洩していないかの調査だったのだからな」
「むしろ俺は余計になさけない……。く、返す言葉もないわ。とっとと連れていけ」
騙すことに成功したと思い込んでいたベラは、自分自身も騙されていたことに気がつき、抵抗する気力すらも失せていた。
翌日、今まで国の脅威となっていた裏組織はあっけなく壊滅したのだった。
♦︎
「貴族剥奪ですって!? いったいなにをしたのですかぁぁぁぁああああっ!!」
マルレットは我を忘れたかのような態度でボルブの胸ぐらを掴んだ。
ボルブはなんの抵抗もできないまま、放心状態だった。
「俺は悪くないんだ。悪いのは使用人として雇ったベラが元凶だ」
「ほら、言ったじゃありませんか。あの人なんだかこわいって……」
「いや、ミミは見た目で考えていただけだろう? そうではなく、中身もクズだったんだよ。あいつは俺たちを裏切ったんだ」
「そんなことはどうでも良いんですよ! 私のスローライフの夢はどうしてくれるのですかぁぁああ!!」
「俺だってスローライフをしたかったのだぞ! 全力で努力してきた。だが、侯爵のせいでダメになってしまったのだ」
ボルブは自分が悪いなどとは決して思わず、これは周りの環境が悪すぎたからこうなったのだと思い込んでいた。
だがマルレットは、全ての責任はボルブにあると判断した。
だからこそ、怒りがおさまらなかったのである。
「そんな言い訳など聞きたくありません! 私だけでも子爵夫人として生き残って……」
「無理だ。すでに家も家財も全て没収されてしまう状況なのだから。それにフィアラを取引した金も全て……それどころかそれ以上の賠償金まで国から請求される」
「なんですって!? じゃ……じゃあ私たちは……」
「貴族追放されたうえに当面の間肉体労働でタダ働きだ……」
絶望しながらボルブがそう言った。
マルレットもその場でしゃがみ込んだ。
ミミだけは今も状況を掴めていない。
「いつもの元気はどうしたのですか? これから頑張ってお金持ちになって楽しい生活をしていけば良いでしょう?」
「そうもいかんのだよ……。おまえもこれからは地獄の毎日を送ることになる」
「え?」
「ミミは孤児院での生活になる。俺たちとはしばらくお別れになる」
「そうなんですかー」
「もっと悲しくなったりしないのか? 俺とマルレットと離れ離れになるのだぞ」
「だって、お金なくなっちゃうんでしょう? だったらお姉ちゃんと一緒ですよ。一人で頑張りますー」
「「な……!?」」
ミミにまで見捨てられた二人はさらに愕然となり、その場で茫然としたまま時間だけが過ぎていった。
ミミもこの先厳しい現実が待っていることをこのときはまだ知らなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。