第16話 フィアラはダインのことが心配になる

 侯爵様とダイン様が朝食のため食堂へ入ってくる。

 私はいつもどおり、入ってきたと同時に深くお辞儀をして挨拶するのが日課だ。


「おはようございます。本日は採れたての野菜サラダと、産みたてのタマゴを使った卵焼きでございます」

「うむ。キミが作ってくれた食事のおかげで、今日も元気に王宮で任務ができそうだ」

「お褒めのお言葉、心に刻んでおきます」


 侯爵様は毎朝この調子で褒めてくださる。

 おかげで私の使用人生活も楽しくできるわけだ。


 いっぽう、今日のダイン様はどうしたのだろうか。

 顔色が悪いように見えるし、終始無言のままだ。


「ごほっごほっ……すまん、今日は食べられそうにない……」

「体調でも崩されてしまいましたか? 大丈夫ですか?」

「心配はいらない。食わずとも今日のタスクくらいはやれる」

「ダインよ、無理をするなと言いたいところだが、今日の任務に関してはどうしてもやってもらわねば困るのだよ……」

「わかってます。ごほっごほっ……」


 ダイン様はかなり辛そうだ。

 いつもの雰囲気とは明らかに違うし、このまま仕事となれば身体にかなりの負担になってしまうだろう。


 あれ、そういえばダイン様の仕事って、元お父様と同じような仕事をしていたような気が……。


「あの、ダイン様。もしやデジョレーン子爵と同じ業務をされていますか?」

「さぁ。俺は父上のアシスタントとして書類のチェック等をやっているが」


 私は侯爵様にふたたび同じことを聞いた。


「デジョレーンのやつ、最近仕事のミスが目立つようになってきたのだよ。おまけに提出期限も守らんようになった」

「あぁ……それは」


 実は今まで私が仕事を押し付けられてやっていましたと、言いづらくなってしまった。


「今回も遅れて提出してきおった。念のためにあいつが提出してきた書類をダインに再度確認してもらっているのだ。しかも今日の書類は国にとってもかなり重要なものでね。まったく、デジョレーンめ。大金を手に入れて浮かれているのだろう……」


 大金で浮かれているのは間違いないと思うが、それだけではないだろう。


 私に仕事内容を教えてきた数年前は、むしろ仕事ができるお父様という認識があった。

 おそらく、何年も仕事をサボったせいで癖になってしまったのだろう。


「侯爵様……、もしも許可をいただければですが。ダイン様の書類チェックを今日だけ私がやってもよろしいですか?」


「いくらキミが万能に仕事ができるとはいえ、さすがに見たこともないやったこともない業務を任すわけにはいかぬよ。ダインのことを気遣ってくれる気持ちはありがたいが……」

「えぇと……、書類チェックの内容ですが、今の時期だと報告書の不備や誤字確認。政策案に関しては総合的に判断して不適合なものではないかどうか。民間人からの税関係の処理などですよね?」

「なぜ知っている!?」


 デジョレーン子爵には申し訳ないが、今はダイン様の体調を優先したい。

 それに、仕事をやっていることは黙ってろと命令されてはいたが、やはりいけないことを黙って見過ごすのもどうだろうか。

 私は侯爵様に仕事の件はすべて白状した。

 今まで無理やり仕事をさせられていて、やっていたのはほとんどが私だということを。

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