第9話【Side】デジョレーン子爵家に使用人が来たのだが……
侯爵家に長年勤めていた使用人二人が、デジョレーン子爵邸にやってきた。
ボルブはさっそく二人に無理難題な仕事内容を命じた。
だが、使用人たちは自らの仕事量がどれほどできるか把握している。
彼女たちはすぐに首を横に振った。
「申し訳ございません。主人様のご要望ですと、あと二人は人員が必要になります」
「ばかな……。今までこれだけの仕事量を一人に任せていたのだぞ……」
「よほど優れた使用人だったのですね。しかしながら、私どもの力では一日でできるものではございません」
使用人たちははっきりと断った。
それを聞いたボルブは信じられず頭を悩ませていた。
「仕方がない。やってもらわないと困るからな……。できる範囲で良いからやってくれ」
「かしこまりました。最善は尽くします」
ボルブは不安になった。
もしかしたら、この使用人たちは無能なのではないかと疑う。
今までフィアラに対して無理な仕事量を押し付けているのが当然だと考えている彼には、そう判断することしかできなかったのだ。
だが、ガルディック侯爵や執事長のジェガルドも彼女たちの仕事量は認めていた。
フィアラがどれだけ時間をかけて仕事のみに尽くしていたかは言うまでもない。
♢
食卓には野菜サラダとスープ、それから肉料理が用意されていた。
ボルブたちは口をつける。
すると……。
「なんだこれは!?」
ボルブはを声を荒げながら使用人に物申した。
続いてミミも今までとまるで味が違うことに気がつき、本音をそのまま告げてしまった。
「おいしくないー! おねえちゃんの作ってたごはんがいいー!」
「ミミちゃん! なんてことを言うの! あんなゴミの作ったものなんかより今のごはんを食べなさい!」
ボルブは食にうるさかった。そのため、フィアラに無理難題で少しでも美味しくなるよう徹底的に料理を研究させるよう命じていた。
ミミも、おいしいものを食べることが幸せなため、たとえフィアナの作った料理でも美味しければそれ相応の評価をしていたのだ。
いっぽう、マルレットは食べられれば何でも良かった。ミミがフィアラを評価する発言がどうしても許せなかったのだ。
使用人たちはマズいものを作ったわけではない。
貴族界の中でも彼女たちの料理の腕は評価されている。
しかし、フィアラが作っていた料理に慣れすぎていた彼らにとってはおいしいなどとは思えなかったのだ。
「申し訳ございません。お口に合わないものを作ってしまい……」
「やはり人手不足で料理に時間をかけられなかったのだろう! 仕方あるまい。美味いものを食べるためにも、お前たちの言うとおりに二人追加させるしかないか……」
「ちょっとボルブ様……。本気でそんなことを言っているの? 私はこの味でも問題なく食べられますわよ」
「いや、マルレットは味覚音痴だからわからないかもしれんが、明らかにあいつのほうが美味かった……。これは認めるしかない。このままでは俺もミミも美味いものが食べられず辛いのだ。ならば金をかけてでも料理に時間をかけさせても良いと思う」
使用人たちはそうではないと言いかけたが、ボルブは一方的に決断を下した。
「お前たちにはもう一度期待しておく。人数を望みどおりに増やすのだから、二度と文句は言わせないぞ」
使用人たちは後悔していた。
これほどの屈辱を受けてもこの家に仕えていくべきなのだろうかと悩み始めていたのだった。
なおデジョレーン子爵家にとっては、使用人を四人にしてしまうと、せっかく手に入った大金の大部分を失ってしまうことになる。
マルレットはこんなことになるならば、フィアラを除名しつつ調理だけはさせる道具として残しておいても良かったのではないかと疑念を抱きはじめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。