第4話 フィアラは温かいお風呂と美味しいごはんをもらう

 侯爵邸の中へお邪魔すると、よろよろと杖をつきながらも真摯なピシッとした服を着ているご老人が出迎えてくれた。


「元執事長のジェガルトと申します。今はこの屋敷で余生を過ごさせていただきつつ、新たな執事長のサポート役を務めさせていただきます。以後よろしく」

「フィアラと申します。お世話になります」

「ジェガルトよ、ひとまず彼女に休息を与えたまえ。仕事関連は明日からとする」

「承知いたしました。それではフィアラ様、こちらへついてきてください。お風呂にご案内しましょう」


 思いのほか、かなりの高待遇を受けてしまっている気がする。

 これではある程度仕事をこなさなければ逃げ出すこともできないではないか。

 だが、そもそも逃げる必要があるのだろうか。

 今までとは違い、本当に休んでくれという優しさを感じているのだ。


 私は昨日から全く寝ていないし、今までの疲労もかなり溜まっている。

 ここはお言葉に甘えて、お風呂と睡眠をいただくことにしよう。


「ありがとうございます」

「いえいえ、これから大変な毎日になりますゆえ、今はゆっくりとお休みくだされ」


 あぁ……。やっぱり私の考えは甘かった……。

 とはいえ、久しぶりのお風呂の誘惑には勝てない。


 ゆったりと湯船に浸かり、大きく深呼吸をしてリラックスしていた。

 風呂から出ると、新しい服が用意されていたため、それを着て脱衣所の外へ出た。

 執事長のジェガルトさんが外で待機していたようだ。


「お疲れさまです。サッパリしましたか?」

「ありがとうございます。生き返った気分です」

「それは良かった。食事の準備もできていますので、食べますか?」

「良いのですか!?」

「もちろんですよ」


 ジェガルトさんは、ほっほっほっと笑いながら私を食卓へ案内してくれた。

 出されたメニューはかなりの量だ。


「これは侯爵様のお食事では?」

「違いますよ。すべてフィアラ様に用意したものです」

「こ……、こんなに」

「もちろん、食べられる分だけで結構です。無理に詰め込む必要はございません」


 こんなにたくさんの量を食べた経験がない。

 そもそも、満腹になるまで食べたことがないのだ。

 今までの私の食事はデジョレーン子爵たちが残したものを私がいただくという流れだった。

 もちろん、スープは冷めていたし、わずかに残っていた肉も硬くなっていたものばかりである。


 ところが、今用意されているものは、湯気が出ている熱々のスープ。

 焼き立てのパン、新鮮そうなサラダ。さらに贅沢にも焼き立ての肉まで用意されていた。

 全部食べ切れるかどうか……。


 だが、私の食欲は止まることを知らず。

 全てペロリと食べ尽くしてしまった。


「ごちそうさまでした。こんなに食べたのは生まれて初めてです」

「大袈裟な……。それでは今後使っていただくフィアラ様専用の部屋へご案内いたします」

「あ……ありがとうございます」


 お風呂や豪華な食事をいただいてしまったうえに、部屋まで用意してくれていた。

 今後私が使うという部屋に入ってみると、決して広くはないものの、一人で時間を過ごすには十分な広さであった。

 しかも、ふかふかのベッドまで用意されている。


 これはもう、私はどんな過酷な任務を背負わされたとしても、逃げ出すわけにはいかない。

 私の身体が保つ限りは、ガルディック侯爵邸に仕えるしかないだろう。

 それにしてもこんなにふかふかのベッドで寝れるなんて夢にも思わなかったな。


 一度ミミのベッドでコッソリとごろんとしたことがあったが、そのときは運悪く義母様に見つかってしまい大目玉だったっけ。

 ベッドに入ると、さすがに不眠だったせいもあり、すぐに目を閉じて意識を預けた。

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