第27話
~ 糸巻落ちた糸巻落ちた 一緒に落ちた牛が落ちた 汚れたから波で洗った
りんごが落ちたりんごが落ちた 葉っぱも落ちた葉っぱも落ちた 汚れたから波で洗った
落ちた落ちたパンが落ちた 王様汚れて海で洗った ~
「子供の頃の遊び歌だよ。手を繋いでしゃがんでいくんだ」
「確かそれ、続きがありますよね?」
「そうなんだ?」
「えーと。確か…」
~王様汚れて海で洗った 海からお宝ざくざく出てくる
「じゃなかったですか?」
「そうなんだ、知らなかった」
「ばーちゃんがマーレ島出身なんですよ。小さいころ遊びに行ってて、よく歌って遊びましたよ」
図書館で、禁書を読んだが、王島に伝わる神話しか載っていなかった。
後は、とビオラが考えていた、子供の遊び歌だ。
マーレ島の遊び歌をその場にいたルークに歌ってもらった。
図書館で偶然聞こえた総務省の役人が、続きがあると言って歌ってもらったのが先ほどの言葉だ。
「惜しい、良い所を突いているのに!」
「これがどうかしたのか?」
「ルスレグ団長さん、気づきました?海に着水している島の順番ですよ、これ」
「!!」
糸巻は、布を作っているロウハ島。
牛はそのまま、エライン島。
リンゴはカルポス島。
葉っぱは、ボタニカル島。
「汚れたから波で洗った、海に漬けるという意味ですかね?」
ビオラは、簡単にメモを書く。
「あら、パンは洗わないのね?」
「そういやそうだな。洗ったらなくなるからか?」
ルークは子供の頃を思い出しながら疑問に思った。
「ウィート島は落ちないのかしら?その次は、王様汚れて、王島ね」
「海からお宝ざくざく出てくる…魔石のことか?」
「うーん、順番がわかっただけかあ」
ふと、ビオラが気づく。
「そういえば、カテドラル島って、島っていうけど独立して飛んでいないわね?」
「言われてみればそうだな。どうしてだろう?」
「知ってますか?」
総務省の役人に聞く。
「さあ、そういえばそうですね。長官ならご存じかもしれません。役所に戻りますか?」
「そうしましょう」
ビオラ、ルーク、ルスレグ団長、総務省の役人は、図書館を出た。
「ああ、形式上だと聞いたことがありますよ」
モーガンは、書類を分けながら話す。
「形式上?」
教会はつまり宗教は政治と分離しているという意味らしい。
「大聖堂のある敷地をカテドラル島という認識ですね」
「なるほど」
「だから、歌に出てこないのね」
ふーとビオラはため息をついた。
わらべ歌は大人の言いたいことを含んでいることが多いはず。
後は、やっぱり神話の違い。
「ルスレグ団長さんは、生まれも王島ですか?」
「ああ、そうだが」
「開祖神の神話って内容を覚えていらっしゃいますか?」
「覚えてはいないが、子供に読み聞かせている本の内容は…」
---
この世界は二人の神が作った。
兄の神は海の上に島を作ったが、妹の神は水に濡れることを嫌がり、空中に島を作った。
だが、生き物を創造したとき、水がないことに気が付いた。
兄は雲を作り雨を降らせれば水を得られると教えた。
海というたくさんの水があるのにも関わらず、面倒な水の作り方に怒った女神は、地上に雷を落とし、兄の島を砕いた。
砕けた島の一部は、女神の怒りを浴び、淀んだ島となってしまう。
その淀みから、黒い闇を持つ魔物が生まれてしまった。
島が欠け、生き物に害をなす魔物が生まれたことに兄神は悲しみ、涙を流した。そして海は塩辛くなった。
---
「こういう内容だな」
「あれ、マーレ島とちょっと違うな」
「でしょう?ルークから聞いた時、ちょっと違うなって思ったの」
「マーレ島の神話はどう伝わっているのだ?」
「ああ、それは」
---
この世界は二人の神が作った。
兄の神は海の上に島を作ったが、妹の神は石をそらに浮かべて島を作った。
水はこんこんとわき出でて海へ流れる。
楽園を作った女神は海へ降りることを忘れた。
兄神は寂しくなって女神に言う。
「いつまでも島は浮かばない。私がひっぱるからだ」
島が空に浮かび続けるには、神力のある石が必要となった。
それは兄神が、島々が無限に飛び続けることができないようにしたためだ。
勝手に海へ落ちることを決めた兄神に、妹の神は怒り、地上に雷を落とし、兄の島を砕いた。
砕けた島の一部は、女神の怒りを浴び、淀んだ島となってしまう。
その淀みから、黒い闇を持つ魔物が生まれてしまった。
島が欠け、生き物に害をなす魔物が生まれたことに兄神は悲しみ、涙を流した。そして海は塩辛くなった。
---
「ちょっと違いますね」
総務省の役人が聞いて驚く。
「ちなみに、ボタニカル島に伝わる話は」
---
この世界は二人の神が作った。
兄の神は海の上に島を作ったが、妹の神は水に濡れることを嫌がり、空中に島を作った。
だが、生き物を創造したとき、水がないことに気が付いた。
兄は雲を作り雨を降らせれば水を得られると教えた。
女神は面倒な事をしたくないので、島を浮かべる石を使い水を湧き出でさせた。
面倒な水の作り方を教えた兄神に怒った女神は、地上に雷を落とし、兄の島を砕いた。
砕けた島の一部は、女神の怒りを浴び、淀んだ島となってしまう。
その淀みから、黒い闇を持つ魔物が生まれてしまった。
島が欠け、生き物に害をなす魔物が生まれたことに兄神は悲しみ、涙を流した。そして海は塩辛くなった。
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「あれ?これまた微妙に違う」
「あ、俺エライン島出身ですが、そのお話と同じですよ」
「え?」
他の人の話も聞き、この3通りの話がほとんどだった。
「まとめるとこんな感じかな?」
王島、ヴィート島、ロウハ島→雲から水を作り、面倒な事を教えた兄に怒る
エライン島、カルポス島、ボタニカル島→石を使い水を作り、面倒な事を教えた兄に怒る
マーレ島→水は湧き出る。勝手に海へ落ちることを決めた兄神に怒る
「女神様が話していた内容からするに、マーレ島が近いのかな」
「ビオラ、女神様と話をしたの!?」
「ええ!どんな感じでしたか!?」
しまった、とビオラは思ったが、かなり皆に食いつかれてしまった。
騒ぎをいつもは止めるモーガン宰相ですら、眼鏡をくいっと上げている。
興味津々というわけだ。
「他言無用ですよ?」
女神の夢を話した。
みんな、内容に驚いている。
しかし。
「ほー、殺されているとは」
「でも、意識はあるのですから、肉体は別にどうってことないんですね」
「道を繋ぐってきっと「物」的じゃないですよね」
「魔王は、ビオラさんに何を準備させようとしているんですかね?」
「島を引き寄せることはできているから、それ以外の事だな」
「女神が自分を倒そうと知っていて、対抗策をビオラにお願いするとか?」
「なら、指令を出すだろう?あれ取って来いとか」
そうだ、魔王の言葉は。
『まだだ。まだビオラの準備ができていない』
「なぜ、具体的に言わなかったんだ?」
さすがは、トップクラスの役人!!
頭の回転が違いますね!!
失礼ながら、筋肉脳のルスレグ団長、ルークとの会話とは違う。
みな、仕事そっちのけで謎解きに突入してしまった。
「それで、ビオラさんは、昔から伝わる子供の歌と神話に目を付けたんですね?」
「ええ、そうです。違いがあったので、鍵があればと思ったんですが」
「でも違った」
「ええ」
「と言うことは、他に鍵があるんですよ、きっと」
うん?みんな、心なしか楽しそう…
「あの、お仕事忙しいから。大丈夫ですよ?」
「いえ!いつもお世話になっているビオラさんのためです!」
「一肌でも二肌でも脱いじゃいますよ!」
「学生が助っ人にくるから大丈夫よ」
「いつも世話になっているんだ。この位なんて事はない」
モーガンが書類をトントンとまとめている。
「脳ミソを使うのが俺たちの仕事だ」
チラとルークたちを見た。
「確かに、俺には無理です。モーガン殿」
ルークは頭をかいた。
「私は、まあ、どちらかと言うと体を使う方が得意だからな」
ルスレグ団長は気まずそうに説明する。
みんながくすっと笑った。
そこへ、ルークを探しに竜騎士が来た。
団長が呼んでいるらしい。
「戻らないとダメか」
「ルスレグ団長さんがいるから大丈夫よ。みなさん、ありがとうございました」
「可能性のありそうな事を考えておくよ」
「ありがとうございます」
「こんな面白い謎解きは初めてだな!」
長官!!
確かにそうです!
その場にいたもの全員が鼻息荒く、そう思っていた。
3人は総務省の廊下に出た。
「今日いけないけど。ビオラ気をつけてな」
「ええ、帰りもヘンリ―様と一緒に戻るから大丈夫よ」
心配をするルークは、ルスレグ団長には寂しがり屋の子犬のように見えた。
ふっと笑う。
「ヘンリー卿と一緒なら大丈夫だろう。安心して職務につけ、ルーク」
「はい」
「大丈夫よ。ルークも気を付けてね」
「おう」
ルークは両手をビオラの顔に添えて。
「行ってきます」
軽く口づけをかわす。
「行ってらっしゃい」
もう大丈夫とビオラの目が言っていた。
わかったと返事をする代わりに、ゆっくりとまばたきをする。
ルスレグ団長に敬礼をして、竜宿舎に戻っていった。
「君たちは不思議だな」
「え?」
「無事に王島竜騎士になったのだから、早々に結婚してしまえばよいものを」
ええっ!と真っ赤になるビオラをルスレグ団長は笑って見ていた。
総務省のみんなも部屋の前でうなずいている。
「目の毒よねー」
「また絵になるんだよな。今日なんて二人とも制服だったし」
「ルークさんのビオラは俺のものだ!っていうのがほとばしっていますよね」
「ビオラを横取りする奴なんているのか?」
「ビオラさんを好きになる=ルークと決闘。が待っているもんね」
「…本当にすみません」
心苦しくなって、ビオラは小声で謝った。
「まあ、以前からイカレた奴って言われていたからな」
モーガンの言葉に、ぶはは!と総務省の役人みなが大爆笑だった。
教皇が心配なので、と二人は教会へ足を運んだ。
教会の扉を開けた瞬間、怒号が飛ぶ。
「ビオラっ!!」
やっぱり。
ルスレグ団長の大きな体の後ろに隠れる。
「無理をするなとあれだけ言ったじゃろうが!」
「はい…」
「ちゃんと出てこんか!」
しゅんとして、ビオラは怒り爆発中の教皇の前に進み出た。
笑って、ルスレグ団長は一番前の長椅子に腰かける。
お付きの司祭たちも笑っている。
「何じゃあ、売られた喧嘩は買わなければとは!子女のいう言葉ではないわ!」
確かに、と先ほどの廊下を思い出してまたくすくすとルスレグは笑った。
「王妃様も王妃様じゃあ。必ず勝てとは」
「それでこそ我が真珠、とお褒めの言葉をいただきました」
「ほめとらんわい!ばか者!」
助けてという目をビオラは司祭に向けた。
「教皇様、あまり大声出されると倒れますよ?」
「ビオラを見ている方が倒れるわい!」
「確かに」
その場にいた全員がうなずく。
「護衛についていたものからも報告を受けております。教皇様、これだけの喧嘩を吹っ掛けられたのですから、勝たねばなりませんぞ」
ルスレグも助け船を出す。
「…ふん、わかっておるわい。それも倍にして返してやるわい!」
「怖いですな」
「王島騎士団ほどではないわ」
はははと二人は笑った。
ビオラはほっと胸をなでおろす。
「ビオラ。もうわしなどかばうな。いいな」
肩に手をおいてしみじみと教皇はつぶやいた。
「心配で眠れんかった。この年寄りに心配をかけさせるな」
「ごめんなさい」
ビオラは泣きながら、教皇に抱き着いた。
うんうんと背中をぽんぽんと優しく叩いた。
みんなもほっとする。
「教皇様、さっさと彼女と竜騎士ルーク殿を夫婦にしてやってください」
「えっ!」
「ほう、そりゃまた急がせるの」
「独身者や恋人がいない者の目の毒です」
わはははっ!と教皇と司祭は大笑いした。
「それは一緒になっても、変わらんじゃろうな」
「あちこちで口づけされても確かにこまりますな、ビオラ殿?」
「し、司祭様…」
ビオラは真っ赤になった。
教皇はくるりとビオラに向いた。
「では、近いうちに行うかの?日を選んで」
教皇は意味ありげにビオラを真剣に見つめた。
『そうなったら、もう逃げられんぞ。あやつは忘れろ。覚悟は良いのか?』
ビオラも意味をくみ取った。
――仕方がないのです
「仕方がないとはなんじゃい」
「言ってませんよ、そんなこと」
「目が言うておる」
目が涙で潤んでいた。
「ばか者め」
くしゃっとビオラの髪をしわしわの指がかいた。
「?」
「まあ、王妃様にご相談して日を決めようかの」
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