転生したらペリカンに乗って飛んでいました。力でねじ伏せていきます!

しゃち子

第1章 ボタニカル島

第1話

広さは東京ドーム10個分くらいかなー?意外と広い畑…

はあ?とうきょうどーむってなに?

いや、仕事の後にビール片手にヤジ飛ばすのは最高なんだって!

…わたし、こどもですけど。

え、え、ちょっと待って!

なんで私…

鳥に乗って飛んでいるのかなあ!?

「うぎゃーーー!」

叫び声に、乗っている鳥がびっくりして羽ばたくのを止めた。

はばたくのをやめた。

やめた?

「ぎゃわあぁーー!」

一人と一羽は真っ逆さまに地面に落ちた。


「タヒんだ…」

その言い回しもどうなのよ?

あなた誰?

私は誰?


目が覚めると、知っているベッドの上だった。

え?知っている?いや、正確には見覚えのある、といった方がいい。

でも鏡に映る姿は知らない女の子だ。

栗色の髪に紫の目、小さい子供…


私がはっきり覚えているのは日本名は日和見すみれ。建設会社に勤めていた27歳。

バリバリに働いていた最中、確か頭上から鉄骨が落ちてきて…

労災よね。両親に少しはお金が残せたかな。

恋もキャリアも一つも成し遂げられなかったなぁ。

そして、はやりの異世界転生かい!

パソコンの広告でよく入っていたな、転生もののゲーム。

子供に転生かい…はあ、とため息をついた。

悪役令嬢転生とかじゃないのかな。

いやーゲームは全然やらなかったからなぁ。

体は、今のところ痛みなしだし。思わず頭をさする。

本当に子供になっただけだね。

その時、がたっと扉が開いた。

様子を見に来た女性が、声を上げて扉を開けたまま、走っていってしまった。

えーと、どなたか説明をしていただけると嬉しいのですが。

ドンドンと床が抜けるほど人々の足音がした。

「ほら!」

「あ、あ、良かった」

「目が覚めたかい?7日間も熱を出していたんだよ」

抱き着く家族に戸惑っていると、家長であろう年配の男性が言いにくいことを向こうから話してくれた。

「君はビオラじゃないよね?」

小さく私は頷いた。

申し訳ございません。私はその名前ではないのです。

それはつまり、元の女の子、ビオラがいなくなるということ。

「ごめんなさい」

「いいんだよ」

そう言って、小さな体の私をベットに横にさせてくれた。

どこから話そうかね、つぶやいて、ぽつりぽつりと語ってくれた。


話をまとめると、私の名前はビオラート・スコットリア。8才。

この世界は、町が島となっていて、空中に浮かんでいるらしい。

一番下は、海が広がり、島がいくつかある。

空中に浮かんでいる島は、国王が治めていて、国王がいらっしゃる島が「王島」

アルバルニア王国という。

他に浮かんでいる島はたくさんあって、それぞれ作物を作っているそうだ。

小麦とワインをつくる島、ウィート島

教会がある、カテドラル島

服や日用品の島、ロウハ島

牧場の島、エライン島

果物の島、カルポス島

そして、私がいる、野菜畑の島、ボタニカル島

あと、国は違うけど、竜のみが住んでいる島、竜王国があるみたい。


窓の外を見ると、確かに遠くに浮かんでいる島が見える。

王島を中心に周りを各島が点在しているらしい。

「なんか飛んでる」

島と島を行き来する乗り物は色々ある。

私が最初落っこちたときに乗っていたのは、ペリカンだった。

前の世界と同じ、そうくちばしの大きいあの鳥。

「俺の仲間だぜ。隣の島くらいはひとっとびさ」

「へえ、トト凄いのね!」

素直に凄いことだと思って、ほめたのだが、この単純なペリカンは胸を張った。

「この翼は大きくしなやかで、羽一本一本に歴史とペリカンの精神が刻まれている!よく覚えるように渦巻人!」

「はいはい」

ごくまれにこの世界に、違う世界から人が現れることがあるらしい。

その人のことを渦巻人うずまきびとと、と呼んでいるらしい。

大抵、竜巻のような風と共に現れるらしい。

何せ島が浮かんでいるのだ。

物理的に間違ってるのに、前の世界とこれ以上色々違っていても驚かない。

「ほら、偉そうな奴がきたぜ?」

トトが窓の外を見た。

畑に似合わない馬車が、家の前に止まった。

後ろでは、トウモロコシがざわざわと揺れていた。

「おいしそう…」

一人と一羽は、偉そうな人たちに目もくれず、でトウモロコシで頭がいっぱいになった。

「トト、偉そうな人じゃなくて、偉い人よ、きっと」

はあーと喉を震わせながら、トトは嘆いた。

「前のビオラはそんな難しいこと言わなかったのに」

悪かったわねと、トトの自慢の羽を逆方向にさわった。

あ、何しやがる!とぼさぼさになった羽をくちばしで丁寧になでつけた。こちらに飛ばされて3日目、最近こうやってふざけあいを楽しんでいる。

ビオラに兄弟はいるけど、なんとなく話しにくい。

中身が変わったというのもあるけど、めったに表れない渦巻人うずまきびとが兄弟になったのだ。

そりゃあ、何を話してよいのだろうというのもわかる。

ドアをノックする音がした。

「あの、町から島主様と司祭様がきたの。下に来てくれるかな?」

恐る恐る言葉をかけたのは、一番上の姉シャーロットだった。

来年から、王島にある学校に通う予定だ。

「はい、ありがとう姉さん」

「!」

薄気味悪い、という言葉を飲み込んだ顔をした。

前のビオラートはこんな受け答えはしなかったのか。

だってどうしても、朝から現場に出勤のハードワーク業界からきた会社員(大人)なんだもの!

社員研修もみっちりやったし、書類作成も電話対応もお茶入れもこなしてきたのよ。

おじさんたちをあしらい、若手新入社員を叱咤激励。

一現場終わるごとに打ち上げで、飲み明かすほどの女よ。

それが、8歳の女の子に生まれ変わり…

「仕方ないよねぇ」

ドアを開けながらこぼした言葉を聴きのがさなかった。

「俺は嫌いじゃないぜ、うずまき。いつか話していた焼き鳥とビールを飲ませてくれ」

カカカと笑って先に階段を飛び跳ねて降りていった。

慰めてくれているのは十分に伝わった。一人だけでもわかってくれる人がいてくれればいい。

人じゃないけど。

緊張が少しほぐれた。

口元が少しほころんだ。


積み上げてきた仕事がダメになった悔しさはまだ捨てられない。

元の世界に戻れない悲しさは流すことができない。

慰めも憐みも戸惑いの目も慣れることはできない。

ないないづくしで、心がボキボキに折れているのがわかる。

同じような青い空、白い雲なのに。

トウモロコシは前の世界と同じ味で、パンもジャガイモも同じようなのに。

でも違う世界。

何のためにここへ来たのか。

理由はあるのか、ないのか。

こんなにやるせない気持ちは初めて。

一つ深呼吸をした。

でも、ここで生きていくしかないんだ。

「あるもの」に目を向けよう。

心の整理はまだまだつかないけど。


「やあ、ビオラート、久しぶりだね」

広い食堂兼居間のテーブルに腰かけていた島主のジョージさんが笑顔で立ち上がった。

「こんにちは」

「緊張しているかな?」

「は、はい」

前の世界の時代で言うと、中世ヨーロッパの田舎といったところか。

機械はもちろんないし、ワインも瓶詰めではなく、小さな樽だ。

確か島主は貴族だったはず。

上下関係はかなり厳格だったはず。下手なことをしたら、投獄、処刑だわ。

「…」

それっきり口を閉ざしたビオラートに、笑いながら頭を撫でた。

「大丈夫、大体のことは聞いていますよ。それより突然見知らぬ世界にきて、あなたが一番不安なはずだ。何か困った事がありますか?」

ここへ来てから、初めて心配された。

「まだ、何が何だかわからないというのが正直なところです。でもみなさんとても良くしていただいて、住むところ食べるもの着るもの、何も困ってはいません」

ここの島主ジョージ・ハーバーランド氏に正直に答えた。だが、その答え方がまずかったみたいだ。

後ろで、はうっと息を飲んだのは、私の家族たちだ。


最初に目覚めたとき、ビオラートの父親が話してくれた。

上二人に構っていて、ビオラートに時間をあまり費やさなかったこと、下が生まれてからは小さな赤ん坊に手がかかりやはりまた時間をさけなかったことを。

結果、ビオラートはおとなしく本を繰り返し読む子供になった。

この国では、7歳から13歳までは島にある学校で学ぶ。その後は、必ず王島の学園で寮生活を14歳から18歳まで送ることになっている。

必ず、というのは、ある程度の年齢になると結婚相手を探さないといけない。島にこもっていると出会いがないから、学生のうちに相手を見つけよ、との国の慈悲なのか強制なのかわからない法律だ。

18才の卒業と同時に結婚、がこの国の主流だ。まあ、たまにしない人もいるらしい。

ただし、家業を継ぐものは島を離れて結婚してはならない。それ以外なら婿入りもオッケーだ。

意外と長男長女は家業を継ぐのかと思いきや、婿入りして他の島にいくことも多いそうだ。パイナップルを作る家の女性が、小麦を作る島に嫁いだり。家長が向き不向きを13歳までで判断するそうだ。

だから島の学校に行くことはとても大切なこと。

ビオラートがペリカンに乗っていたのは、島中央にある学校に行くため、それも妹が乗りたくないというから一人乗りだった。


島の学校では礼儀作法はほぼ教えない。

年上に対して丁寧な言葉づかいもしたりしない。

それなのに、ビオラの姿をしたこの少女はおじぎと年上に丁寧な言葉で会話をした。

無口で影のようにたたずむビオラートからはとても想像できない姿だったから、家族は驚いたのだ。

「なるほど。面白いですね」

「面白いってヘンリー卿。彼女にしてみれば、かなりの問題なんですよ?」

たしなめるように島主が声をかけた人がいた。

「うっ…」

「ほうほう。確かに魂の色が違うね」

金髪、スカイブルーの瞳。

かなりの美男イケメン

顔が熱くなるのがわかった。きっと真っ赤になっているんだろうな、とビオラは恥ずかしくなった。

「たっ魂の色って?」

手で近すぎる美男を押しのけながらビオラは叫んだ。

「失礼したね。私は教会からきたヘンリー・グレッグソンだよ。ヘンリーと呼んでくれ」

ニコニコしながら、軽くおじぎをした。

絶対にかかわったら面倒な部類の人種だ!

私の直感が叫んでる!

ビオラはバクバク音がする心臓をさすって、一つ深呼吸をした。

「ビオラート・スコットリアです。よろしくお願いいたします」

後ろに下がっておじぎをした。

近くは良くない。絶対に距離を取らないと。

「…」

「嫌われたかな?」

ヘンリーという男性は、島主に心配そうに聞いた。

距離が近いんです、とこほんと軽く咳をした。

「渦巻人は、魂が重なって見えるんだよ。今、僕に見えているのは薄い緑色と濃い紫、うーん、赤がはいいているから赤紫色かなーとにかく、二重の色が見えるんだ」

へえ、とビオラは素直に驚いた。

「あ、では父がビオラじゃないと最初に言ったのも、色が重なって見えたから?」

「いや、普通の人には見えない。彼がそう言ったのはおそらく、髪の毛と瞳のせいだろう。違うかな?」

ヘンリーは父に声をかけた。

あ、はいと返事をする。

ビオラの元の髪の毛は金色、瞳は茶色。父親と同じだ。

寝込んでいる間に、髪の色と瞳が変化したのだ。

それは昔から言われていた渦巻人の特徴だ。

なるほど、そんなに変化していたら、ビオラートとは言えない。

「さて、大切なのはこれからだ」

ヘンリーはビオラに提案をした。

一つ目。このまま13歳まで島に滞在、ただし監視付き。14才になったら王島に移動。

二つ目。王島に行き、飛び級で魔法学校に入学、能力を磨く。

三つ目。王島経由カテドラル島に行き、聖女としての訓練を受ける。


「あまり自由な選択はない気がしますが」

「めったにない渦巻人だからね。一応王国の庇護ひご下に入るんだよ」

「少し考えさせていただけませんか。何もかもで混乱しています」

「もちろん!私は町の教会にいるし、島主のジョージのところでもかまわない。決まったら連絡をくれるかな?」

「ありがとうございます」

「後は大人の話だね」

子供たちはみな自室にいるように言われた。

さて、とビオラは先ほどの提案を考えていた。

あの二人は味方といっていいだろうな。

この8歳の身分だと大人の庇護が必要だ。

しかし、どんな能力を持っているかわからない。

能力、そういえば。

「よくゲームであったな。攻撃、回復とか」

ふむ、と部屋を見回して、クローゼットを開けてみた。

「…」

ここに来てから、何か引っかかって仕方がない。

自分の部屋もある。洋服もある。

だが、ビオラの趣味はこのようなものだろうか。

それに洋服のサイズが合わない。まあ、お下がりをもらっていると考えればいいか。

病み上がりだから、栄養失調気味なのもわかる。

裕福ではなさそうだから、栄養不足はあるわね。

細い腕。青白い顔。

明るい部屋。きれいなカーテン。

なんだろう、この落ち着かなさは。


呼ばれる声がしたので、階下に降りると、みなで見送りの時間だったようだ。

「では、またねビオラ」

「わざわざ足を運んでいただき恐縮でございます。お時間をさいていただきありがとうございました」

また丁寧に礼を述べたのだから、家族はびっくりだ。

その様子を見て、ヘンリーはビオラにこっそり耳打ちをした。

(何かあったらすぐに鳥を飛ばしなさい)

はい…?といぶかしんで小さく返事をした。

馬車は空を飛ぶことなく町の方へと帰っていった。

しばらくビオラはその道を眺めていた。



「それで、どうするの?」

姉のシャーロットがすぐに口を開いた。

「王島で面倒みてくれるならいいじゃない。魔力あるの?」


この世界は魔法もある。そして、動物よりも恐ろしい魔物もいる。

海の上にある島の一つに魔物島がある。

噂によると、魔王がいて島を支配しているらしい。

島が浮いているのも、魔物からとれる魔石を島中央にうめこんでいるためだ。

魔力を生まれたときから持っているのは、ごく一部の貴族や人。

庶民の場合は、王国管轄の魔法省預かりか、女性の場合は、女神の力を受け持つ可能性があるため、教会預かりとなるそうだ。


この世界は二人の神が作った。

兄の神は海の上に島を作ったが、妹の神は水に濡れることを嫌がり、空中に島を作った。

島が空に浮かび続けるには、魔石と呼ばれる魔物から取れる石が必要となった。

それは兄神が、島々が無限に飛び続けることができないようにしたためだ。

なぜそうしたのかは伝えられていない。

そして魔王の話も噂の領域を超えてはいなかった。



「さあ?暴発しても困るし、確かめるにしてもここでは」

とビオラが話したとき、ダン!と強烈な音がした。

「何を言っているんだ!ビオラは13まではこの島にいる!その後は王島にいくしかないけど、それまではここにいるんだ」

激しく声を荒げながら父は叫んだ。

「いいな!シャーロットは来年王島にいくんだし、トーマスも勉強をちゃんとしろ。ビオラ!」

「は、はい?」

「この国のきまりだ。13歳まではこの島で勉強をしてから王島にいくんだ。家の手伝いもしてもらう。いいな?」

「監視付きですけど、いいですか?」

はっ!と全員の顔がこわばった。

「…」

やはりおかしい。

気難しい職人たちと数々の修羅場をくぐっていた前世の大人の感だ。何を隠している?

すぐにはわからない。でもビオラ本人のためにはっきりさせないと。

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