第8話 レッスン


「それじゃ、早速始めてみようか。まずはどんな感じが知りたいから、この台本を気持ちを込めて音読してくれ。相手役は俺がやる。後から交代でやるからな。準備時間は5分だ」

「はい」


 渡された文に目を通すと、読んだことのある物語だった。

小学生の頃に教科書に載っていた物語だ。


 一回全部読んでみる。気持ちを込めてか—————






「5分たったな。いつでも好きなタイミングで始めていいぞ」


 精一杯頑張ってみよう!




『いらっしゃい。どうされましたか?』

『どうもオルゴールの音の調子が悪いみたいで。治りますか?』

『ひとまず見てみましょう』


 ここで少し間を開けて………。

お客さんがオルゴールをカウンターに置く情景を想像する。


『ふむ、大丈夫です、すぐ治りますよ。10分程かかりますが、どうされますか?』

『そのくらいなら待っておこうかな』

『かしこまりました』

『このオルゴールとはどこで出会ったんですか?』

『昔出張に行った時にフラッと寄った店で買いまして』

   ・

   ・

   ・

   ・

   ・



 ふぅ、交代してお客さん側になってからの方が難しかったな。


「おいおい、驚いたな。なにかやってたのか?」

「学校の国語の授業での音読ぐらいです」

「すごいな。普通はもっと棒読みになるんだが……」


 これくらいはみんなできると思うけどな。

学校の音読でもみんな上手に読んでるし。


 そう思って河合さんを見てみると、少し驚いた顔をしている。


「ふむ、これくらいできるなら、簡単な仕事は入れても大丈夫かもしれないな……」

「マジですか……」

「あぁ、マジだ。社長に後で言っとくわ」


 まさかこんなに早く仕事ができるようになるとは……。

いや、気を抜いちゃいけないな。もっと頑張らないと!


「そんじゃ、さっきの台本で復習するぞ」

「はい!」




    *    *    *




 レッスンはとても楽しかった。

あんなに褒められたのは久しぶりだ。


 台本の復習が終わると、河合さんに家まで送ってもらうことになった。

河合さんの車は、影井さんの車みたいな高級車じゃないから、妙な安心感がある。


「河合さんはいつマネージャーになったんですか?」

「マネージャーになったのは5年前くらいですね」


 それにしては若く見えるな。

どう見ても20代前半としか思えない。


「河合さんって……その……何歳かお聞きしても大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。22歳です」


 マネージャーになったのは17歳ってこと?まだ高校生の時だよね。

何か特別な事情あったんだろうなぁ。


「……何も聞かないんですね」

「聞いた方が良かったですか?」

「いえ、優しいんだなと思いまして」

「普通ですよ」


 話したい時に話してくれるだろうしね。

それに、自分の人とは違う特殊な過去なんて、他人に聞かれて話したいものじゃないし。




    *    *    *




「ただいま!」


 楽しかった〜!

これからこの生活が続くなんて、夢のようだな。


「おかえり〜。ご飯にする?おふ……」

「今日のご飯はなに?」

「……親子丼よ」


 やった!親子丼は僕の大好物!


あのぷりぷりした鶏肉と卵がタレの味とからみ合って、丼から湯気がたっている所を想像するだけでよだれが出てくる。


 お母さん?いつもの事だから気にしな〜い。


「レッスンどうだった?」

「すごく楽しかったよ!先生にも褒めてもらっちゃった!簡単な仕事ならできるって言ってくれたよ!」

「すごいじゃない!確か茅野さんだったよね?あの先生は正直に感想を言ってくれる先生だから、仕事がすぐに入るかもね」


 確かに木葉さんに言っておくって言ってたな。

まぁ、そんな簡単には仕事が来るとは思えないけど。


「そんなことより重要な話をするわよ」


 お母さんの雰囲気がキリッと変わる。

なんだろう。


「マネージャーさんは変な人じゃなかった?」

「まだ言ってたの?七瀬さん」

「わ〜!ごめんごめん!もう聞かないから〜!」


 子供か!


 そういえば、お母さんは河合さんとは会ったことないんだ。

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