第2話 なんだあれ

 レジに入っていた時こんなこともありました。

「堀ちゃーん!」

 高校時代の友達の加藤です。

 スキー部でいっしょでした。

「加藤、こっちのレジに並びなよ!」

 僕がレジを打ちました。


「堀ちゃーん」

 大学の友人の羽黒です。

 彼は卒業後、早稲田の大学院に行き証券会社の法務部にいます。

「羽黒、こっちのレジに並びなよ!」

 僕がレジを打ちました。

 

 他の社員さんもいますから…

 ちゃんと打ちますよ…ちゃんとね。


*****


 見知らぬ初老の男性がレジを回っています。

 お金を触っています。


 また違うレジに寄ってます。

 またお金を触っています。


 よく見ると1万円札を触っています。

「なんだ…危ないやつだな…」

 僕は警戒心いっぱいの不審者を見る目で彼をにらみました。


 また違うレジに近づいてます。

「なんだあいつ!」


 同じレジにいて袋詰めをやっている人事の金子さんに訊きました。

「なんだあれ! 部外者が金触ってるぞ!」


 金子さん、僕の肩に手をまわし、耳元でささやきました。

「堀さん…」

「何…! 」

「銀行からこの前来た…」

「はぁ…?」

「新しい財務部長です…」

「知らないよ…! 」

「次回の朝礼で紹介の予定です…」

「システム室に挨拶も来ないし…」

 財務部長が東京の本社から埼玉のシステム室まで来るはずもないけれどね。

「行かせるようにします…」

 勿論来ませんでした。


 レジのお金はちゃんと渡しました、はい…。

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