第6話 爺さん、院長に惚れる 改

私は夢を見ています。

イヌイ様に抱かれる夢です。


でも、私は穢れを知らぬ乙女です。

抱かれるとはどのような事をされるのでしょうか?

とりあえず知っている事を試そうかと思います。


まずは口付けですよね。

直近で口付けしたのは・・・いつでしたっけ?


ええと、お父さんはカウントされませんよね。

私、お父さん大好きっ子だったのでよくチューしました。


チューと口付けは違うのかしら?

叔父さん達はホッペでしたね。


そう言えば、あまりチューをするので、お母さんにはしたないと叱られてばかりでしたね。

でも、みんな喜んでいたので、良いことをしたと思います。


ああ、そうでした、口付けですよね。

うーん・・・。


はっ!思い出してしまいました!

昨年末に冒険者協会で年越し祝いをしていた時の事を!

酔っぱらって正気を失い片っ端からチューした事を!


それで、年明けに皆さん、微妙な顔をしていたのですね!

キャー!恥ずかしい!お嫁さんに行けない!


・・・落ち着きましょう、深呼吸します。


次です。

私は乙女ですから、何もせずにされるがままで良いですよね。


ここは恥ずかしさを全面に出して両手で乳房を隠します。

でもそうするとお股が隠せませんね。


そういえばお手入れを忘れていたような気がします。

でも、形を整えていたら、男を知っていると勘違いされるかも。

ここはあえて自然のままで行きましょう。


では右手で乳房を左手でお股を隠します。

これで準備はできました。


バッチコーイです。


優しい口付けです。

あ、舌で唇をこじ開けられました。

どうしたらよいのでしょうか?


とりあえずねぶってみます。

ちゅぱちゅぱ。


なんかおかしいですよね?


お股がうずうずしてきました。

恥ずかしいですが、ひとり遊びが大好きです。

なので感度は良いと思います。


・・・我慢できません。

一番敏感な部分、擦りつけちゃいます。

クリクリ。

イキそうです。

いっ、いぐうぅ!


「イザベラ、起きなさい。」


「ううぅん!むにゃ。」


「起きたか?」


目を覚ますと戌亥の顔を間近に見る。

体が硬直して声が出せない。

そして、戌亥の親指をしゃぶっている事に気付き、口から指を抜いた。


「起きたら身支度をしなさい。下がたいへんな事になっているぞ。」


股間が生ぬるい。

自分が潮を吹きやすい体質だと思い出し顔が引きつる。

更に戌亥に抱きつき吹いたと分かった。


「足をどかして貰えるか?」


足を動かすと戌亥の下半身をぐっしょりと濡らしている。

やらかしてしまった事実に心臓がバクバクと音を立てている。


「イヌイ様、朝食をお持ちしました。」


扉の向こうに母親の声が聞こえる。

途端血の気が引いて顔の火照りが消えた。


「赤くなったり青くなったり忙しい奴だな。」


呆れ顔になった戌亥は洗浄魔法を唱えると寝台から降りる。

脱ぎ捨ててあった外衣ガウンを拾い上げイザベラに放り投げた。


「どうした?母親が入ってくるぞ。」


「私、どうしたらいいでしょう?」


一度に様々な出来事が発生したことで脳の処理能力が追い付かない。

イザベラは思考停止状態に陥っていた。


「仕方のない奴だ。」


戌亥はイザベラを抱き上げクローゼットの中に押し込んだ。


「しばらくジッとしていなさい。」


コクコクと頷くのを見て扉を閉めた。


母親は入るなり部屋を見回す。

娘の姿がないことにホッと息をつき朝食をテーブルに並べた。


「お客様、つかぬことをお聞きしますが・・・うちの娘がご迷惑をお掛けしていないでしょうか?」


「いや何もありませんよ。」


「そうでしたか。変な事を聞いてしまい申し訳ございません。」


母親は深々と頭を下げて出て行った。


「出て来てよいぞ。」


クローゼットが開く音が聞こえる。

しばらくすると外衣ガウンをしっかりと身に着け、申し訳なさそうな顔で現れた。


「ご迷惑をおかけしました。」


「別に迷惑と思っていないぞ。それに昨晩はとても良く眠れた。

女性の添い寝は実に心が安らぐ。」


「本当ですか!なら今晩もご一緒します!

抱き枕代わりに使ってください!」


「ああ、お願いしよう。」


戌亥の同意にすっかり有頂天となったイザベラは、自分の身なりを忘れて部屋の外に飛び出す。

階下で母親の怒鳴り声が微かに聞こえてきた。


「そういえば教会に招かれていたな。」


フロントで父親と目が合い、会釈を交わす。

奥の部屋から母親が娘を叱る声が聞こえてきた。


空は雲に覆われ今にも降り出しそうな湿った空気を感じる。

戌亥は急いで教会へ向かった。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


蓋の広場を通り抜け少し歩くと閑静な住宅街が現れる。

街の権力者、大商人などが住むセレブ街である。

道の至る所で衛兵が警戒をしていた。


「職質されそうだな。」


戌亥の身なりはこの街では異質である。

念のため冒険者証を首にかけ見えるように歩いた。


「そういえば教会の場所を知らぬ。」


思い切って衛兵に尋ねると殊のほか親切に教えてくれる。

冒険者証の効力が実に有効であることを知った。



教会は孤児院が併設された広い敷地にある。

外周は鉄柵で囲われ、子供達や神父・シスターが見える。

当の教会は大聖堂と呼ぶに相応しい荘厳な建物であった。


「イヌイ殿、ようこそお出でくださいました。」


大聖堂を尋ねるとカルディナ司祭が直々に出迎えた。


「既にケビンの弔いは済ませております。

今は皆で墓の周りを整えている最中です。」


「私にもケビン君の輪廻転生を祈らせて下さい。」


「それはもう喜んでお願いいたします。」


司祭は大喜びで墓地へ案内した。



墓地に行くと少年達が墓の前に花を植えていたが、戌亥の姿を見ると駆け寄ってきた。


「祈らせてもらっていいかな?」


「ケビンは喜ぶと思います。よろしくお願いします。」


そう言うと戌亥の手を引いた。


この世界の祈りの言葉を知らない戌亥は、神道の祝詞をアレンジして神にケビンの導きを祈る。

聞いたことのない祈りに少年達は不思議そうな表情を浮かべた。


突然、墓の周囲だけが日の光に照らされる。

驚き空を見上げると雲の一部が丸く切り取られたように開き青空が見えていた。


「その願いしかと聞き入れた!」


神の声が聞こえると少年達のみならずカルディナ司祭までもが「神の御言葉が聞こえた!」と興奮して叫んだ。


「ケビン!」


天からの光柱の中にケビンの姿が見える。

振り返り笑顔でこくりと頷くと天に昇っていった。


「おお!奇跡だ!奇跡が起きた!」


カルディナ司祭は奇跡を目の当たりにして涙を流し続けていた。


戌亥の祈りに神と交流する秘密があるのではないか?

カルディナ司祭と神父達の怒涛の質問攻めを受ける。

祝詞を書き写したところで何とか解放された。


戌亥は孤児院を見学したいと申し出て快諾される。

司祭は少年達に案内を申し付けると、祝詞の解析のために神父達と大聖堂に消えていった。


「ここは街の皆さんの寄付と国の補助金で運営されています。」


フランチェスコが孤児院について説明をはじめた。


「迷宮の生み出す経済効果で毎年多額の寄付金が集まります。

ですので僕達は食べ物に困ったりボロを着せられることもありません。」


「寄付金の多くは冒険者達によるものです。

教会の癒しや回復に大金が必要なことが多々ありますので。

大怪我や状態異常の治療。時に祝福と教会の役割は大きいです。」


「院生は全員学校に通い学問や武芸・魔法を学びます。

いずれは騎士、兵士、魔術師、文官、治療師として国に仕えます。

僕のように教会にそのまま勤める道もあります。

ただ教会勤めですと結婚できませんので人気は無いですね。」


戌亥はマクシミリアンとゴリアテに手を引かれ施設内を見て回る。

なるほど院内は清掃が行き届き、すれ違う子供達は皆身なりが綺麗で発育も良かった。


食堂の入口で中年のシスターが一行を出迎えた。


「院長のネーヴェ母さんです。」


戌亥は一目で心を何かに貫かれた気がした。


「初めまして、イヌイ様、ネーヴェと申します。」


慈愛に満ちた笑顔が光を放つ女神のように見える。

戌亥は挨拶も忘れてネーヴェの顔を凝視してしまった。


客観的に見れば年相応の容貌ではあるが、若かりし頃はさぞ艶やかであろうことが容易に想像できた。


ただ容姿よりも存在そのものに運命的なものを感じる。

戌亥はそんな存在に初めて出会った。


「あのイヌイ様、私の顔になにかご不興を感じますか?」


「い!いいえ!申し訳ない!」


戌亥は凝視した無礼をしどろもどろになり詫びた。


「子供達の命を救い頂きありがとうございます。

この子達からイヌイ様のお話は兼ねがね聞いております。

とてもお強いとのこと。」


ニコニコと笑いながら戌亥の目を真っすぐに見る。


咄嗟に言葉が出ず「ああ」と気の無い返事をしてしまう自分に焦りを感じる。

緊張して会話が続かないなど何十年振りの事か思い出すこともできない。


「イヌイ様はお疲れのようですね。

私、このへんで下がらせていただきます。」


「次にお伺いする時に手土産を持参したいと思います。

ネ、ネーヴェ様のお好きなものを教えてくれませんか?」


少しがっかりした面持ちで去ろうとするネーヴェを引き留める声が裏返ってしまった。


「私にそんなものは必要ございません。

それよりもまた子供達がお世話になることがあるかもしれません。

その時はどうぞよろしくお願いいたします。

私にとって子供達の無事が何よりの願いでございます。

私の宝であり生き甲斐なのです。」


深々とお辞儀をしてネーヴェは去っていった。


「イヌイ様、振られちゃった?」


ゴリアテがぼそりと呟く。


「イヌイ様、元気出してください。

そうだ!これから毎日、孤児院で稽古してくれませんか?

僕たちイヌイ様のように強くなりたいのです。

きっとネーヴェ母さんも喜んでくれると思います!」


マクシミリアンがにこにこしながら提案してきた。


「そうだな、それもいいかもしれんな。」


半ば思考放棄で答えてしまう。


「やったー!」


子供達は大喜びで飛び回った。


(姿を見れるだけでもいいかもしれないな。)


心の中で自分を慰めた。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


神の独り言


またやってしもうた。


んん?お主!なぜここにおる!


覚醒する前じゃったとな!


さっさと己が領域に戻るがよい!


ん?転移してほしい?


戻るのは嫌じゃと。


ははは!そうか!


人の世をいてしまったか!


愉快、愉快!


今度はゆっくり楽しんでくるがよい!


よい人生を歩まれよ!

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