第2話 爺さん、異世界に立つ 改
澄み切った青空、どこまでも続く緑の草原。
彼方には山脈の蒼い影と白く立ち上る入道雲が見える。
人が思い浮かべる懐かしい心の原風景。
その一部分を切り抜いたような景色が広がっていた。
穏やかな風が草を揺らす中に戍亥が1人立っている。
彼は第2の人生を歩むため、神の願いを叶えるためにこの地に降り立った。
無限の可能性を秘めた物語の世界が目の前に広がっている。
彼はまだ経験したことの無い未知に対して心を躍らせていた。
そして、今までの常識という束縛から放たれ、自由に生きていこうと自分に言い聞かせた。
「膝関節と腰の痛みが消えた。」
見た目に変化は見えないが確かに体が若返っている事を実感する。
関節痛、神経痛が無くなり動く事が苦でなくなった。
試しにその場で軽く跳ねると1mほど垂直に飛び上がる。
次に力一杯跳ねると5m以上飛んだ。
走れば一瞬で10mを駆け抜け、幅跳びをすれば20m以上宙に浮く。
武術の真似事をして手足を動かすと風切り音が聞こえてきた。
そしてこれだけ動き回っても息切れせず心臓も痛まない。
戍亥は嬉しさのあまりに大声で吠えた。
「さて魔法だがどうするんだ?」
マンガや小説のように「ファイア」だの「ヒール」と唱えてみるが何も変化が現れない。
気合を込めても空振りに終わった。
「現実に魔法などなかったからな。」
しかし神は力を授けたと言ったことを信じて方法を変えることにした。
「気というものがあったな。
チャクラを回して気を高める。だったかな。」
想像力を発揮して体にチャクラを思い浮かべると息を大きく吸い込み呼吸を整える。
気を風に例え、頭頂部から股下までの7つの風車を回すイメージを始めた。
「必ずできるはずだ!」
そう信じて何度か試しているうちに体が熱を帯びてくる。
熱を手の平に集めるイメージを繰り返し続けると、確かに目には見えないが力の塊を感じるようになった。
「破っ!」
掛け声と共に塊を押し出すと瞬時に10m程離れた場所で爆発が起きる。
同時にどこかで女の悲鳴が聞こえたような気がしたが気のせいだとしてすぐに忘れた。
「よし!できたぞ!なにごとも諦めない気持ちが大切だな。」
その後何度か同じ行程を繰り返し、気の発現と放出を習得する。
そして一度回したチャクラが止まらない事に気付いた。
「少し疲れたな. 休憩するか。小腹も空いたな。」
懐に手を差し込むと脳内に食べ物のイメージが浮かび上がる。
様々な種類の食べ物から平たいパンと飲み物の入った瓶を取り出した。
「これが聖餐なのか。あまり美味そうではないな。」
見た目通りの食感でパンはボソボソとして口の中にへばり付く。
それを飲み物で流し込んだ。
「なんと酸っぱいワインだ!アルコールもほとんど抜けている!」
ブツブツと文句を言いながら勿体ない精神が抜けていない故の完食をしてしまった。
「なんと!頭も体も完全に回復している!」
聖餐は空腹を満たすだけでなく、疲労した心身をも癒していた。
完全回復したことで新たに気の練習をはじめる。
ここでもイメージを働かせ大きさや形を変え効果を確かめた。
気を板に見立て障壁を作り、垂直に放った気に当ててみるとガラス板のように粉砕し気を相殺した。
丸ノコギリ型の気は草原を100mほど綺麗に刈り取る。
バランスボールほどの大きさの気は直径30m深さ3mのクレーターを作った。
「さっきから女の叫び声が聞こえるが・・・欲求不満の幻聴だな。
街に行ったら女を抱くとするか。」
太陽の傾きから午後3時くらいと見当を付けると、ここに留まり野営をするか出来る限り進んだ先で野営をするか考えはじめた矢先に視線を感じた。
「やはり気のせいではないな。何かに見られている。」
周りに身を隠せる木立は存在しない。
草はせいぜい30cmほどで身を隠すには不向きである。
グルリと見渡している最中に後頭部がチリチリと焦げ付く感覚に見舞われ、地面に伏すと雷光が通り過ぎて行った。
直ぐに立ち上がり振り向くとイオン化した空間がユラユラと揺らめいている。
そこから更に雷光が放たれ戍亥を襲う。
戍亥は障壁を展開して雷光を受け止めた。
障壁は呆気なく貫通され左腕に直撃を受ける。
肉は一瞬で炭化しブスブスと白煙を上げた。
「早速の試練か!この程度のピンチは住友物産とのミスに比べれば大したものでない!私が主人公であれば乗り切れるはずだ!」
戌亥はサラリーマン時代に部下のミスで3億の損失の責任を迫られた。
あわや辞職という段階まで追い詰められはしたものの、見事に損失を補填しさらに利益を上げ、取締役に昇りつめた経歴を持つ。
その時の興奮と高揚が蘇り自然と笑みを零していた。
「オレは絶対に勝つ!」
チャクラを全開にして体中に気を張り巡らせる。
体全体が活性化し筋力が異常に盛り上がる。
懐から棒状携帯食を取り出し口に押し込んだ。
みるみる左腕が回復し以前より筋肉が盛り上るとテカテカと輝きを放つ。
戌亥は体が若返ったことを確信した。
揺らいでいた空間が光を放ち何者かが出てくる気配を感じる。
パンッ!と音を立て割れた空間から黄金色に輝く龍が現れた。
体長は20mを優に超えている。
金色のタテガミを生やし二対の角と長いしなやかな鞭のような髭。
細長い動体に小さい手足は東洋の龍そのものであった。
黄金色の瞳に慢心は見られない。
戌亥をじっと見つめ的確に雷光を放った。
戍亥は半身の姿勢で右腕を盾に頭部への直撃を防ぐ。
しかしそれは龍の思惑通りであり、立て続けに雷光を放ち両足と胴体を消し炭に変えた。
防御・移動手段を奪うとようやく緊張が解けたのか笑みを浮かべた。
「もう動けはすまい!外なる神の眷属なれどこの勝利は未来に繋がる!
必ずや平和な世界を我は取り戻す!」
最後の一撃は確実に頭部を吹き飛ばし自分の勝利で終わる。
しかしそれは油断であり思い違いだと気付かされた。
戍亥は体の影で見えないようにしていた左腕で聖餐を頬張る。
体と気力体力を全回復させ力一杯大地を駆ける。
雷光が髪を焼き通り過ぎていった。
「なにぃぃ?!」
龍は満身創痍の戍亥が突如全回復したことに衝撃を受け、対応が一瞬遅れてしまう。
その隙をついた戍亥に懐に入り込まれ、気合の裂帛と共に拳を腹に打ち込まれた。
「破っ!」
拳は頑強な鱗を突き破り内臓に達すると同時に破滅的な力を解き放つ。
内臓の大半が消滅し龍は訳が分からないまま気を失った。
「ふう、どうやら私が主人公だったらしいな。」
戌亥は拳を引き抜き龍を見下ろす。
頭部を除き炭化した体が以前より若返っていた。
「聖餐様様だな。」
戌亥はワザと雷光を浴び聖餐を食することで肉体の若返りを企んだ。
思惑は見事に成され、頭部を覗き体は20歳台の若さを取り戻していた。
「こ奴はこのまま死なせてよいのだろうか?」
死ぬ間際に放った言葉が妙に気にかかる。
戌亥は真相を知らずにこのまま死なせてはならないと考えていた。
「うまいこと回復できれば良いのだが。」
戌亥は神を信じて祈る。
神の御力が龍を蘇生させる事のみ思い祈った。
温かな光が龍を包み込み傷口を急速に塞いでいく。
戌亥は龍の体に手を触れホッと息を吐いた。
「脈は戻ったが話を聞く余裕はないだろうな。」
龍は重い責任を抱え戦いを挑んできたように感じる。
覚醒してもまともな話し合いは不可能と結論を出した。
「目覚める前に逃げることにしよう。
縁があればまた出会うこともあろう。」
戌亥は立ち去ろうとしたが地面に散らばる黄金色の鱗を見てニンマリと笑う。
いそいそと鱗を拾い懐にしまいはじめた。
「先立つものは必要だからな。」
無駄知識がこの手のドロップアイテムは金になると伝えていた。
地面に散らばる鱗を全て回収し未だ目覚めない龍を見て唾を飲み込む。
首をブルブル振ると断腸の思いでその場から立ち去った。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
良い天気です。
初夏の風が気持ちいいです。
光合成が捗ります。
ここは聖域。
神が最初に創り上げた大地。
という事になっています。
八百万の神々が勝手に言っているだけです。
不死なんで暇なんでしょうね。
挙句、不敬にも神を名乗り
粒子から子供達を育てたのは
そんなこともつゆ知らず洗脳された子供達は神の意志とか言って、同族、異族と殺し合い虐殺をし土地を削り大気や海・川を汚すしでやりたい放題です。
いくら寛容な
洗脳されきった子供を涙ながらに絶滅させようとがんばっているんですけど、八百万の神々のやつらの介入で絶滅させることも叶いません。
必ず数名残るのでキリがありません。
ん?ピリピリします。
またなにか送り込んできましたね。
人かしら?別の星の生物?色々混ざってますね。
人でいうところの老人かしら。
珍しいわね。
いつもなら若い人を送ってくるのに。
何してるのかしら?
いったぁぁいっぅ!何したの!
八百万の神々のようなバッタ物じゃなくて本物よ!
まさかあの爺さん、神様と関係があるの?
やめてー!その
刈らないでぇぇ!
えっ、ちょっと、何貯め込んでんの!やめてよ!
ぎゃああああああああ!!
・・・・・・・・あふん。
痛みって限界を超えると快感になるのかしら。
あら、龍が来たわ。
あの龍は別の星から来訪した八百万の神です。
あらあらケンカを始めましたわ。
あら、爺さん危機ですね。
あ、殴った。
爺さんの勝ちのようです。
ええ?治療するのですか?邪魔なので殺してくだされば。
みなさん、そうしてますのに。
優しい人ですね。
興味が湧きました。
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