燃えろ!男の出会いは狐色!!・2
――「だから、それを応用すればやりようはある」
「てことは、その時は魔物の死体を使って欠けた腕の肉を錬成したのかい?うわあ、それ絶対本人に言わないほうがいいね。普通の女の子が聞いたら泣くよ」
「ああ……。訊かれるまで黙っているつもりだ……」
「触れたものを別物に変換する……か。便利な魔法だな」
「ネロの魔法のようなパターンだと、そうはいかないが」
「でもパンを金に変えられたんだろ?すごいよねえ」
「出来上がったのはパン一斤ぶんと同じ質量の小さいインゴットだ。こんなだぞ、こんな」
「あ、そっか。一年生の頃に少し習ったかも。ネロ、覚えてる?」
「俺は編入生だ」
「そういえばそうだった」
昼時の喧騒のなか、ジーク、ネロ、キョウの三人は食堂のカウンターに三人並んで、コーヒー片手に、今朝がたの睨み合いをすっかり忘れて、談笑に興じていた。
お互い敵意むき出しで相対していた数時間前も何のその。恐らくザラがこの場にいれば、『男の子ってわからない……』と頭を抱えていたことだろう。
「ますます気に入らねえ」
ネロが空になったカップの底をテーブルに叩きつけた。
「何でテメエみてえなヤツがコソコソ女のケツなんざ追っかけてんだ。さっさとウチに正式に入学しろ。そして俺と毎日勝負しろ」
「そんな地獄の学園生活はご免被る」
「あはは。ネロなりの誘い方だよ。ジークのこと気に入ったみたいだ」
ネロとキョウを信頼に値する人物だと判断したジークは、自分の生い立ち、そして今いる状況をなるべく真実に近い形で打ち明けることにした。それを知ったネロとキョウもまた、ジークへの警戒を解き、今に至る。
話してみれば、ネロは自分の感性に素直で、聡明な熱い男だった。キョウは第一印象と変わらず、穏やかだが、同時に強かな考えを持つ男だということがわかった。
人間界に来てからこっち、忙しくて人と交流することもままならなかったジークにとって、二人は初めての人間の友人になりそうだった。
「そういえば、キョウがさっき言っていた特殊戦術指南とは何のことだ?」
「ああ。コイツ、表向き留学生だけど、本当はなんとか隊ってヤツで来てるエリート魔導士なんだってよ」
「紹介するならちゃんとしてよ……。幽鬼調伏部隊ね。こっちにはまだ余り居ないアヤカシ系やグウェイ系の魔物の討伐専門機関に所属してるんだ、俺。それで、早めに対策を打つ為にって、魔法庁から選抜されて、色んなとこで対アヤカシの戦術を教えてる」
「じゃあ、ここで教えてるのか?」
「ううん。俺はたまに騎士団の演習に行ったりするけど、ヘルメス魔法学校ではまだ導入を検討してる段階なんだって。とりあえず俺の実力とかを見て判断したいからって、学費免除で通わせてくれてるんだ」
「学校側は、お前を輩出したって実績が欲しいだけだろうけどな」
ネロが嫌味に笑うと、キョウも似たように皮肉っぽく言う。
「ネロと逆だね。この人、自慢したいってだけの理由なのに、実家が学校にたくさん寄付してるから首席を名乗ってもいいって許可されてるんだよ」
「自慢じゃなくて箔がつくからだ」
「お父さんが将軍なんだから、十分じゃないか」
「それだと七光りだろ」
「うーん……やってることはそんなに変わらない気もするけど……。ジークは理解できる?」
「言わんとすることは分かる」
ジークも父親の威光を背負う立場だ。結果というよりも、早い内から“そういう権利を俺は使えるんだぞ”と誇示するのが大事だという信念は、わからなくもない。
「ほらな!テメーだけだ、ノンキな頭してんのは」
「もースグそうやって俺のことアホ扱いする!」
言い合いをするネロとキョウを横目に、ジークはどこか安堵したようにため息を吐いた。
魔界の友人たちのことを思い出す。みんな元気にしているだろうか。
普段ザラを守ることは苦痛ではないし緊張ばかりでもないが、やはり歳の近い、気の置けない友人知人というのは、どこか浮ついていたジークの気持ちを解きほぐしてくれた。
温ぬるくなったコーヒーを流し込んで、ふと時計に目をやると、大分話し込んでいたことに気づく。
そろそろじゃないか、と口に出そうとして、その間を馴染みの無い声に盗まれた。
「ようグリュケリウス」
一人の男子生徒が、三人が座るカウンターを力強く叩いた。衝撃が、近くにあったネロのカップを揺らしていた。
隣でキョウが露骨に慌て始める。
「わ、ちょっとちょっと。ここで絡むのはやめなよ」
男子生徒が制止するキョウを一瞥する。ジークはキョウが固唾を飲む姿を見逃さなかった。争いを嫌う気質なのだろう。
「あとで旧校舎に来い」
「ハア~??来てくださいお願いしますネロ様だろーがボケ」
この状況でもそれかよ。ジークとキョウの心がシンクロした瞬間である。
しかし、相手の男子生徒は挑発に乗らなかった。偉そうに足組みするネロに苛立った素振りも見せず、
「……俺は呼んだからな」
ただそう冷たく言い放つと、背を向けて去っていった。
「……なーんかマジっぽいよ。どうするの」
キョウが呆れたように肩をすくめる。
「仕方ねえな。今日は機嫌良いから行ってやるよ」
マジっぽい、とは。あの男子生徒の“怒り”であろうことは、三人とも察しがついていた。ネロに向ける感情は、殺意すら篭っていたからだ。
「三人で行ってもいいのかな?」
「知らねェ。いいんじゃねえのか。特になにも言われなかったし」
「じゃあジークも行こうよ。オヤツ持って」
――それ故に、こんなやつに憤りを覚えなければならないなんて、あの男子生徒も不憫だなとも思うジークであった。
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