身をえうなきものに思ひなして

 伊勢物語の東下りのこの文が胸に刺さる。

「昔、男ありけり。身をえうなきものに思ひなして、京にはあらじ、東の方に住むべき国求めにとて行きけり」

 結局、「住むべき国」はないのである。

 自分のことをつまらない人間だと、在原業平が本当にそう思ったかどうかはおいておいて、京にいられなくなって、親しい人数人を連れて「住むべき国」を探す旅に出た彼は、結局のところおぼっちゃんだ。そもそも旅に出ること自体が贅沢だし、京を思い出して泣きくれるあたり、自己陶酔型の貴族のぼっちゃんである。


 ただこの「身をえうなきものに思ひなして」というフレーズは耳にこびりついて離れない。「身をえうなきものに思ひなして」消えてしまいたいのだ。

 脳内で、「身をえうなきものに思ひなして」がぐるぐると回る。

 わたしは在原業平じゃないから、「住むべき国」は探しに行かない。

 そんなもの、この世のどこにもないと知っているから。

 貴族でもなんでもないし、ここで生きていくほかないのである。


 しかし、この炭素体にはなんの意味があるのだろう。

 エラーが出ているのに、消滅しない。

 自動消滅しないことに、何か意味があるのだろうか。

 意味など考えているから、エラーが起きるのである。

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