ほんのり怖い
常
第1話 くらいところと狭いところ
昔から、暗くて狭いところが苦手なんです。
例えばそれは、押入れだったり、公園のタコの形をした大きな滑り台のトンネルだったり。折角かくれんぼで入っても耐えられずにすぐ出てきちゃう。
入るまでは楽しいんですけど、入った途端にざわざわする。
入り口が消えて、真っ暗闇になるんじゃないかって嫌なイメージが足元から這い寄って、ぐらぐら身体を揺らしてくるから。
理由は幾つか考えられるんですが、決定打は多分、小学校3年生くらいの時の夏休み。
お盆で、蝉が、煩く鳴いていました。
私達姉妹と従兄達は、それぞれの親に連れられて、鬱蒼とした深い山の中にあるお寺に向かいました。
先祖のお墓は大きくて、大人2人がかりで入り口の階段を動かすと中に入れるようになっていました。一つ上の従兄と私は大人達がお墓の周りを清める間に、カブトムシを探したりアケビを見つけたりして遊んでいました。
お墓は伸びた蔦で覆われていて、綺麗にするのにだいぶ苦戦しているようでした。
やがて、線香の匂いがし始め、漸く私達は誰かに呼ばれていることに気がつきました。親戚の叔父さんらしき人が手招きしていて、私達が行くと、蝋燭を持たせてくれました。
お墓の階段はどけられていて入り口がポカッと開いています。
「今なら中に入れるから見ておいで」
そんなことを言われて、私と従兄は恐る恐る言われた通りに入りました。中にも階段があり、低いドーム型の天井が薄っすら見えた気がしました。奥に何かありましたが怖くなってしまって見られませんでした。
「もう出よう」
どちらともなくそう言って振り返ると、入り口がまさに閉まっていくところで、私達は蝋燭を取り落とし必死で小さな階段を登りました。真っ暗闇と遠ざかってしまった蝉の音に足元がぐらぐらと揺れて、自分の手さえも見えないことがただ怖くて、怖くて。
……結局、すぐに助け出されたのですが、私は声もなく震えて父に抱かれて山を降りました。従兄も泣いていたと思います。
不思議だったのは、あの時お墓にいた親戚の男の人は、父含め3人。でも確かに外に出た時に4人いたのです。にこにこ笑っていた4人の男の人。4人目の人。誰だか、考えても分かりません。
もう随分昔のことだし、アレは見間違いだったのかもしれない。叔父さんや父の単なる悪戯だったのかもしれない。あとから他の親戚がきたのかもしれない。
そんな風につとめて考えてみても、足元から冷えていくような嫌な感じは残っています。
私は暗くて狭いところがいまだに苦手なままなんです。
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