僕の青春は光合成だった

譜久村 火山

第1話

 慣れ親しんだはずの部屋が、まるで他人の家のように感じられる。窓には厚いカーテンがかかっていて、届くはずである真昼の光をほとんど遮っていた。

 昨夜残したカップラーメンの発する匂いが、キッチンの方から微かに漂ってくる。

 遠くの方から、車のクラクションが定期的に聞こえて来た。

 五百木はリビングにあるテレビの横に飾られた、トロフィーにそっと手を伸ばす。それは小学生の頃、ダンス大会で優勝したときのものだ。冷たく固い感覚が指の腹を刺す。

 このトロフィーになんの意味があったのだろうか。

 どんなに愛おしくトロフィーを撫でようとも、なんの感情も湧き上がってこない。

 また、携帯の通知音が鳴ったような気がした。

 五百木はさっき、携帯を叩き割っている。画面は粉々になり、もう光を発することはない。分かっているのに、ずっと忌々しい幻聴が頭を離れない。

 たくさんの人の声が聞こえる。みんな叫んでいた。怒号の波が何度も何度も襲いかかる感覚。数えきれないほどの、言葉という仮面を被った悪意。それらが繰り返し、五百木のこころを抉る。

 どうしてこうなってしまったのか。何を間違えたのだろうか。私にはまだまだやりたいことがあったはずなのに、それはもう闇に溶け込んで見えなくなってしまった。もう一度手に入れようともがいてみても、なんの手触りもない。それはまるで海の中で塩を掴もうとしているようなものだった。

 そんなところから抜け出そうと、エアコンの下に向かう。正確にはそのすぐ横の壁に打った太くて長い釘に用があった。そして、足元にあった分厚い縄を手に取る。ザラザラとした表面が妙に心地悪かった。

 五百木は四人がけのテーブルから取ってきた椅子に乗り、縄を釘に巻きつけた後、残りの部分で輪を作る。そして、その輪に自らの首を通した。その間もずっと、糾弾する声は消えなかったのである。もうどうでも良かった。早く静かな場所に行きたい。疲れた。嫌だ、何もかもが。五百木を呪う声が大きくなる。でも彼女は知っていた。入り混じる怒声の中で轟く、一際大きな叫び。

 それは彼女自身の声だ。

 五百木のことを一番許せないのは彼女自身だった。自分を責める声と、自分に対する疑問が渦を巻くように五百木の周りを囲う。

「なんのために生まれたの。何をしてきたの。人生になんの価値があったの。何を残せた。何が変わった。何がいけなかった。なぜこうなったの。どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうしてっ‼︎」

 五百木は思いっきり、椅子を蹴った。強い衝撃が足の裏に走ったのも束の間。体重をさせるものが縄だけとなり、首が締め付けられていく。大きな力によって首がちぎりもがれそうになって初めて、彼女は後悔した。

 しかし、過ぎた時間は戻らない。

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