第24話 見えぬ絶技(そして唐突な“ふじこ”)

(なんでこんな事になったんだろう……)

 

 降りかかる威圧に身を小さくしながら、そんなことを思う。

 いやわかっているのだ。これは自分が悪い。予想できていたリスクを無視し、身勝手な感情の発露を行った。全てとは言わないが、身から出た錆であることに違いはない。

 だから耐える。悪意の波に攫われないように閉じ籠り、黒い風が心の窓を叩く音に反応しないようにする。


【ざわざわざわ——】


 自分を囲んでいるのは三人……いや、四人だっただろうか?

 曖昧だが、そのぐらいだった気がする。まあ、今の自分にとってはあまり意味のない情報だが。

 体を抱く腕に力を込める。

 大丈夫。自分は大丈夫だ。この程度の威圧なら何度も受けたことがある。

 気にしていない。気にするほどのことではない。何も感じない。


【ざわざわざわ——】


 感じていないんだ。本当に感じていないから、だから落ち着いて。

 相手は自分に何もできない。危害を加えられることはない。お願いだから静まって。

 怒ってない。怖がってない。不快じゃない。辛くない。だから、だからだからだから——!


【ざわざわざわざわ——】


 ああだめだ、ざわめきが大きくなっていく。

 相手の苛立ちと、自分の動揺が、を刺激していく。

 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!

 傷つけたくない。壊したくない。困らせたくない。

 なのに、自分じゃ何もできない。を止める力もない。

 それを理由に傍観する自分が、私は大っ嫌いだ。


【ざわざわざわざわざわ——】


 ざわめきが一際大きくなる。


(もうだめだ……)


 諦めと恐怖に目をギュッと瞑った私は——


「何をしている」


 ——ざわめきが、治まった。





     †††††





 少々入り組んだ人の気配が届かない場所に、ルヴィの案内に従って辿り着く。

 まず見えたのは背の高い三人の背中。その向こうに俯いた小さな人影が見えた。

 三人が一人を見下ろし、一人は黙って耐えている。状況的にはそんな所だろう。

 これはつまり——


(陰キャ狩り!? まさか伝説の陰キャ狩りがこんな所で!?)


 俯いているのはどうやら女性のようだが、その周囲には陰の者特有のオーラが感じられた。

 目立たないように身を縮める仕草。目を合わせないようにする俯き。震えそうな体を抑える動き。

 間違いない、彼女は自分と同類である。真宵はそう確信した。


「うえティーチャー、茜」


 一刻も早く彼女をあの邪智暴虐な外道行為より助け出さねば。

 そんなわけで協力を仰いだ真宵に、うえと茜は決意の声を上げる。


「わかったわ、今回は真宵ちゃんを信じて待ってる」

「ええ、私達は見つからないようにするわ」

(えぇっなんでぇ!?)


 困惑する真宵だが、その表情は動かさない。内心は大変そうだ。ワケガワカラナイヨ!

 見つめられた二人は、“わかっている”と頷きを返した。何もわかっていない。


「(影響力の強い)私達が姿を見せると、(片方に加担していると)勘繰られるものね。真宵ちゃんだけなら(初めて見るから)大丈夫だわ」

(うえぇ? 陰キャわたしと一緒だとぼっちの仲間と勘繰られるけど、私だけならまんまぼっちだから大丈夫……ってことぉ?)


 なんと残酷な正論だろうか。全く以てその通り。反論の余地もない。

 三段コンボが真宵の心をハートブレイクしたアァッ! ダウーンッ!! 起き上がれないッ!

 真宵に耳に終了ゴングが鳴り響き、大きく“KO”の文字が見えた気がした。


「……そういうことだな。……では、行くとしよう……う」

「だ、大丈夫? なんだか元気なさそうだけど」

「あ、ああ、全く問題はない。万事任せてくれ」

(そりゃーさー。私と一緒にいるの見られたら嫌だろうけどさー。そんなはっきり言われたら、ぼっちだって傷つくんですーっ! まあ、当然のことだから仕方ないか。はぁ……)


 真宵の自己評価は全人類の中でも最低レベルである。なんならペットやロボットを含めても、ぶっちぎり最低値を記録するだろう。ルヴィがいなければ申し訳なさから即座に自殺を敢行するぐらいには、真宵は自分のことを評価していなかった。マイナス評価ならばアホほどしているが。

 他人から疎まれた程度のことでは、反骨心よりも“当然だ”という気持ちの方が勝る。

 そのくせいちいち落ち込んで、後でルヴィに慰められなくてはやる気パラメーターが減少する所が、わりかしめんどくさい人間だ。

 そんな感情を抑え込み、妹から叩きこまれた堂々とした歩きで現場へと歩を進める。

 誰かが来るとは思ってもいないのか、真宵に気付く人間はいなかった。

 真宵はありったけの勇気を振り絞り、深く吸った空気で喉を震わせる。


「何をしている」


 慌てたように振り向く三人と、おずおすと頭を上げる女性。


(あ、かわいい)


 女性を囲んでいる三人は地獄の鬼にしか見えないが、女性だけは違う。

 どことなく庇護欲をそそる仕草。何処か暗い色を感じる瞳。繊細なバランスで成り立つ容貌。

 綺麗ではあるが華々しいとは少し違う。やはり的確に言い表すならば“可愛い”ではないだろうか。


「お前は……日本支部の奴だったか?」


 三人の中でリーダー格に見える男が、多少の警戒と共に口を開く。やはり日本支部というだけで、警戒に値するのだろう。


「…………」


 真宵は答えない。


(に、睨まれてるよぉ。陰キャだって見抜かれたらリンチされちゃうし、何話したら良いのですかぁ?)


 というか、怖くて喋れない。

 軟弱者ぉ! 陰キャ魂を見せてやれぇ! と、当然そんなことができるはずもなく、奇妙な沈黙が僅かばかり続いた。

 そもそもこの状況で逃げないだけで偉い、と真宵の本当の性格を知る者ならば言うだろう。特に妹達あたりならば尚更のこと。なにせ真宵は筋金入りの“自己肯定感持てない病”患者。ついでに“自分より他人が優れて見える病”患者でもある。

 それでも下がらない。助けると決めたのならば助ける。

 普段の気弱で惰弱な精神とは裏腹に、一度目的が定まればやり通すことのできる人間性。

 自分では気付いていないそれこそは、真宵の放つ“人の輝き”だ。


「「「っ!」」」

 

 全身全霊の勇気を込め、真宵は一歩を踏み出す。

 三人は思わず体を強張らせた。真宵自身は焦燥感に掻き立てられた行動でも、警戒している三人には威嚇に映る。


「実力行使か」

「違うわ。偏ラングレー波は感じない。解放力者ではないはずよ」


 三人の中の女の言葉に、他の二人は幾分か緊張を解く。


「ならティーチャーか。随分若いが、新入りか。こけおどしとは涙ぐましいな」

「俺たちは、何の問題も、起こしては、いない」


 真宵は反応しない。ただ囲まれている女性を見て、凛々しい無表情を貫く。

 と、真宵は何の前触れもなく、口を開いた。


「こちらへ来い」


 いきなりの要求、誰もがすぐに反応できないでいる。

 それを焦ったく思ったのか、真宵はさらに言葉を続けた。


「君だ。確か、メリュ・フォーサイスといったな。あの陽キャオリヴィエの近くに居れば良いものを、リスクを無視するのは感心できないが……今はこちらへ来い、早くハーリー


 ここまで言われては固まっているわけにもいかない。メリュはおずおずと真宵に近づく。三人も真宵の空気に呑まれ、止めることはできなかった。日本支部の人間には逆らいずらい、というのもある。


「下がれ。……彼らに助けを求めろ。君の言葉ならば必ず応えてくれる」


 最後の囁きに一瞬目を見開いたメリュだが、すぐに前を向き駆け足で離れて行った。


(いやー、これでうえさんと茜も動いてくれるよね。あんな美少女だし確実に)


 自分を美形だと認識していない真宵。聞く人間が聞けば怒り狂うだろう。

 しかしこれは仕方のない事だ。何故ならば真宵は鏡はおろか写真に写った自分を三秒見つめるだけでも、ゲシュタルト崩壊を起こしまともに認識できないのだから。

 加えて自己評価が最低なせいで、自己認識が上手く行えないという症状。もはや精神病の一種だが、表には出さないため診断を受けたことはない。

 そのため真宵は自分の容姿を平均値程度だと認識している。子供の頃は私だって可愛かったもんっ! とか言っている真宵に、妹がイラっとしたと同時に悲しんだのは、無理からぬことだった。

 いやあの……こいつの過去割とハードじゃない? ギャグ担当のくせに重いんだよ。


「あいつを逃したつもりか?」


 男が真宵を嘲笑う。


「その程度予想していないとでも思ったか。あいつは逃げられない、手はもう打っている」

「一人で来たのは間違いだったわね。新米ティーチャーじゃ張り合いがないわ」


 実に小物臭溢れるセリフと、見事なフラグ建築。

 テンプレートを忠実に守る、舐め腐った人間の鏡である。


「ならばこちらも言おう。手はすでに打ってある。逃すだけが理由だと思ったか?」

(この為の推奨人数三人だったんだよね。あれだけの美人に頼まれたらもうすぐ来るでしょ)


 増援を信じて疑わない真宵は、余裕たっぷりに言い返す。

 何故だろう。心の声は小物なのに、口から出た言葉は強者にしか見えない。

 三人も同様に見えたのだろう、表情を険しくした。


「増援か」

「いえ、偏ラングレー波は感じない。近くに増援は居ないわ」

(え?)

「解放力者以外がいる可能性は」

「機械類の、電磁波は計測されて、いない。可能性は、低い」

(はい?)

「またこけおどしとは芸がない。メリュ・フォーサイスイギリスナンバーズ10は今頃捕まり、魔術師オリヴィエは干渉しない。ここでお前をどうにかすれば、何も問題はないな」

(ナンデぇぇぇえ!?)


 あんな美少女に頼まれても、ぼっちと一緒にいるのが嫌だったのか! そんなにぼっちを助けるのは嫌か!?

 悲しきかな、うえと茜が助けに来ることはなかったようだ。

 70メートルほど離れて真宵を信じ見守っている、という事実には思い至らなかったらしい。どちらにしろ、助けに来ないことに違いはないが。


「スティンガー、

「わかった」


 少し吃った喋り方をする男が、真宵に向けて手を向ける。


「全部、忘れろ」

【忘れるのを拒絶します】

「忘れないそうだぞ」

「っ……わす、れろ」

【彼はヤロミール・エベン。解放戦力は『精神均衡破綻マインドセットスティンガー』、快感ホルモンの分泌・取り込み不全、過剰分泌を引き起こし、同時に不快ホルモン優位にします。ですが私がいる限り効果範囲に貴方は含まれません】

(なんかよくワカランけど、ルヴィ様ありがとうぅ)


 とんでもなく優秀な脳内AIに感謝しつつ、失った余裕を取り戻した真宵は胸を張る。短絡的。

 直接手を出されるとか全く考えてもいない。実に平和な思考である。


「ヤロミール・エベン。『精神均衡破綻マインドセットスティンガー』は私には意味はない。もう終わりにしないか?」


 焦り。

 名前が知られている。解放力が知られている。ならば自分達のも知られているかもしれない。何処と繋がっているか程度ならばまだ良い。まで知られているならば、自分達はもう終わりだ。

 だが頭の冷静な部分では焦燥とは別の考えが浮かぶ。

 状況からみて情報を握っているのはこいつだけ、あるいはコマンドティーチャーぐらいのものだろう。それに未だ自分達が無事なことを考えて、早々に密告される可能性も低い。手札を晒したは、こいつ自身が無力な証。個人でいるのは独断で来た証拠。ならば記憶を消してしまえば、表沙汰なる時間稼ぎくらいはできるだろう。


【足元のボタンを拾ってください】

(あ、これか)

「っ!?」


 突然しゃがんだ真宵の頭上に、男の腕が空振る。

 慌てて下がった男の目に、立ち上がる真宵が映った。


(な、なんかとんでもないスピードで動いてなかった?)

【彼はティム・サーサ。解放戦力は『強化身体インハンスボディ』。好きなものは“ベーオウルフ”。嫌いなものは“アーツ”】

(えーと、身体能力を向上させる解放戦力だったっけ? それと未だに“アーツ”が何かわからん。解放戦力とかとんでもファンタジーだし)

【解放戦力は科学的に証明できます】

(知ってるけどさぁ、私的には判断つかないし)


 緊張感の薄いコンビである。真宵は現実感が薄いのだろう。ついこないだまで引きこもりだったのだ、無理はない。

 対してティム達は緊張を高める。

 相手はただのティーチャーのはずだ。なのにAランクの攻撃が避けられた。不可解が過ぎる。


(遅すぎたか? いや、これ以上速くしたら。くそっ、針なし注射器ニードルレスだったら!)


 ティムが右手に隠し持っているもの。それは記憶を混濁させる薬の入った、小型の注射器。しかもその薬は本人の自覚を阻害する効果もあり、時間稼ぎならばもってこいの一品だ。


「君はティム・サーサだったな。それでは私は——」


 言葉の途中で気が付く。


「——すまない。もしやこれを返した方が良いだろうか?」


 何を言われているのかわからなかった三人は、真宵の差し出した手の上に乗るものに注目する。

 少し大きめのボタン。良く見れば『WL』と刻印されている。そしてティムは知っていた、『WL』とは『狼の如き軍団Wolfish Legion』の頭文字を取ったものであるということを。

 状況を理解した三人は、顔を青くする。

 まさか、ありえない。そんな動きはなかった。体制的にも腕を伸ばせるようには見えなかった。手段はないはずだ。

 だが現実として、認め難い事実が目の前に突き出されている。

 ドクンドクンと嫌な鼓動が聞こえる。見たくないと考える。

 しかし、視線は自然とティムが着る上着の袖に吸い寄せられる。


「っ!!!」


 右手首の袖には、二つあるはずのボタンが一つしか付いていなかった。


【目の前の女性、ルアナ・フィッタが転びかけた際に腕がぶつかって取れたようです。磁力で付くので、支障はありません】

(あー、磁力式なら問題ないね。穏便に離れられそう)


 この場を平和に離れられると思っているのが自分だけだと、まことに気付いた方が良いと愚考いたします。

 どうしてこうも能天気なのか。誰の血が影響しているのやら。

 そんな真宵とは対照的に、三人は動揺と恐れを抱いていた。

 目にも見えぬ手段で奪われた右手首のボタン。それはつまり、相手は一瞬の内にティムの右腕を如何様にもできたということに他ならない。いやそれどころか、首を取ることだってできたかもしれない。

 手段はわからない。それでもその気があれば“殺せた”ことは、紛れもない事実だ。

 体を満たすのは恐怖。自分の理解できない存在に出会ったならば、恐怖しないのは想像以上に難しいことだ。それは実戦を経験している三人も変わらない。なまじ命のやりとりを経験しているからこそ、尚更身近に感じられる“死”の気配に、恐れるなとは言えないだろう。


「ソナー……!」

「感じない……何も感じないわ……! 彼女は解放力もアーツも使っていない……!」


 ティムの焦った声に、ルアナも動揺を隠しきれない声を返す。

 ポーランドナンバーズの一人であるルアナ・フィッタの解放戦力は『偏ラングレー波感受計測PLWソナー』。解放力を機能させる際に発生する偏ラングレー波、解放力者が無意識に出しているそれらを感知する能力だ。類似する解放力は意外にも少なく、特に彼女はアーツの機能的な波動も感じ取れる点で、他とは隔絶する評価を受けている。

 だが、ルアナの解放力を最大限活用する場合、一種の“薬”の摂取が必須となる。索敵を任された、今のように。


「ではこれは返しておこう」


 内心ビクビクと、見た目凛々しく、若干早足でティムへと近づく。

 投げて寄越せば良いのだが、実は大企業の御令嬢で育ちの良い真宵には思いつかなかった。それ以上に“他人に石を投げられる”という概念に忌諱感を覚える陰キャの鏡なので、無駄な気遣いを発揮したという理由もあるだろう。

 そんな“気の毒だから返してあげよー”とか地味な善性をポンコツ気味に発揮する真宵に対し、ティム達は恐ろしいまでに大きくなる動悸すら気にならない緊張状態だ。

 心臓が痛い。手足が冷たい。呼吸が乱れる。視界が狭まる。

 アーツの高スコアを長時間維持するように、不調が抑えられない。

 だがそれ以上に、恐ろしい。目的もわからず近づいてくる真宵が、悍ましい怪物に見える。


(な、なんか体調悪そうじゃない?)

【気のせいでしょう。むしろ貴方の動悸が激しいです】

(陰キャ狩りが怖くないわけないじゃん!)


 来るな、来るな、来るな来るな来るなッ!!

 しかし残酷にも化け物は近づく。一歩一歩、恐怖が近づく。

 動かなければ大丈夫? そんな保証は何処にもない。

 先に手を出したのはティム達だ。化け物に最悪の口実を与えたのは、他ならぬ自分達だ。


「ひっ」


 目の前まで来た真宵バケモノが、ティムの胸元へと手を伸ばす。

 あと僅かで触れるという所で、ティムの恐怖が限界に達した。


「ノーアーツっ!」


 仲間の声は認識されない。狭まった思考には、状況打破の行動だけが残る。

 何故ならば、ティムは戦闘要員オペレーターであり、鍛え上げられた戦士ウォーリアーだからだ。

 真宵の首元を狙い弧を描いた腕が——


「なっ!?」


 ——さらに踏み込んできた真宵に避けられる。

 腕に収まり、ティムの胸元に密着する真宵。

 ティムの解放力は『強化身体インハンスボディ』、このまま真宵を抱き潰すことも可能だろう。

 だができない。熱くなった首元に感じる冷たさが、行動を許さない。

 手が当たっている、首に触れられている、すなわち殺傷与奪を握られている。

 つまりは何か行動をするより早く、真宵はティムを殺せる。


(くぁwせdrftgyふじこlpッ!?!?!?!?)


 なんかめちゃくちゃ使い古されたネット古語が聞こえた気がする。なんでやねん、真宵お前それ知らなかったやろうが!


【言語化不可能の未知の概念列を取得しました】


 これは凄い。世界最高の知性でも知らない概念があったようだ。古のネット民は偉大なり。

 わからない人は“ふじこ”で検索しよう。


「確かに返した。私は失礼する」


 シュバっとティムの腕から抜け出し、真宵はクールに背を向ける。若干早足であった。

 残された三人が固まる中、通信を知らせる通知が来る。


「……なんだ」

『ああ、やっと繋がった! すいませんフェアリーは捕まえられませんでした! 聞いたこともない妖精でめちゃくちゃにされて、通信も行動もできないまま延々と——』

「それ以上はいい、後で聞かせろ。もう切る」

『はい! すいませんで——』


 三人の間に、またしても沈黙が降りた。


「見逃された……か」


 ポツリと零れた言葉が、熱された空気に消えていった。

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