第9話 正確無比な変態射撃(偶然)
「だらっしゃああぁぁぁぁああッ!!!」
絶叫、そして突貫。
攻撃こそが最大の防御。猛獣にとって最も信頼できるのは己の牙と爪、そしてクソ度胸と経験だ。だからこそ、一撃に全力をかける。目に映るのはクソ生意気な澄まし顔。それ以外はどうでもいい。周りに気を配る必要すらない。んなもんは本能と根性でどうにでもなる。
ただ前へ、ひたすらに前へ。
いつものように獲物がそこらじゅうにいるわけではない。今感じられるのは、明確な敵一人。
にいっと口角が上がる。感情で意識が高まる。心の昂りのままに体を動かす。
打ち破れ、敵は強大。だが履き違えるな。敵とはいえ、こいつは餌だ。
ここからは余裕なんざいらない。全霊を出せ、限界を考えるな、足りないならば振り絞れ。数分なんぞいらない、数十秒あれば十分だ!
これだ、これこそがアラヤの豹、神谷ミアの戦闘スタイル。
ミアが最高峰の適正を持つ、解放戦力を身体能力に変換する外装アーツ。それを使い解放力者でも反応できない速度で相手を叩き潰す。圧倒的なフィジカルは、ただそれだけで多くの敵にとって脅威となる。
まして、本当は戦闘オペレーターでさえない真宵が対応できるものではない——
【右へ体を倒しながら飛んでください。その後、前方に移動】
——真宵一人ならば、だが。
「チィィッ!!」
全速力で突貫していたミアは即座に軌道修正しようとするが、脆い材質では力を受け入れきれない。床を削ったはいいが、多少スピードを殺すことしかできず、指一本分真宵に届かない。銃口を向けようとするが、その時点で真宵は射線から外れていた。まるで、最初から行動全てがわかっていたかのように。
(ッ! 考えんな!)
障害物や柱を破壊しながら止まったミアは、即座に真宵へと体を向ける。
【後ろへ向かって2発発砲。右の壁裏へ。適当に発砲】
(ふわっとし過ぎっ!)
ミアの視界に入ったマズルフラッシュ。本能のままに体を低くした直後、左腕に衝撃。撃たれたことを悟ったミアだが、痛みを無視して地面を抉る。
視界の端に映った壁の向こうに消える真宵。速度を落としつつも勢いよく壁を追い越したミアを、再びマズルフラッシュが照らした。
「ガッ!?」
脇腹を抉るゴム弾の衝撃。
痛みに対し反射的にミアの体が動く。ジャケットの下に着ていたベストのベルトを引っ張り、胴体を締め上げた。それは染みついた止血行為。本来ならば安全を確保してから行うべきだが、脇腹を抉られたのならば即座に圧迫しなければ致命傷になりかねない。
しかしこれはゴム弾を使った訓練、相手に隙を晒す止血行為は無駄とも思える。事実、真宵が撃てる十分な隙ではあった。
「……」
だが、真宵は銃を構えたまま、ミアが体勢を整えるのを待つ。
「……なんのつもりや」
明確な隙を前にしながら、それを無駄にする。いつもならば怒り狂いそうになる行為だが、今は何故かそこまで腹は立っていない。ただお互いの呼吸を読み合う行為が、全力を出した後の休息として心地良い。
だが、何故見逃したのか。これだけは聞いておかなければならない。それが不愉快なものであれば、ミアは即座に襲いかかるだろう。
真宵は少しだけ間を空けてから、以前とは違いゆっくりと言葉を並べる。まるで、自分でも上手く処理できていないかのように。
「ベルトを引く時、わざわざ銃を持っていた右手を使っていた」
確かに、ミアは止血に右手を使った。空いている左手を使わないという、非合理的な行動を取った。
その理由は極めて単純。
「左腕を撃たれたんや。当たり前やろ」
腕を撃ち抜かれた。それならばもう左腕は死に腕だ。
ゴム弾だからとか今は傷ついていないとか、そんなことはミアには関係ない。これは実践式訓練。“実践”を謳うからには、死に腕を使うのは道理に反している。それが数多の修羅場を経験し、
「使っていればその行為をしても、私を撃ち抜けたかもしれない」
「んなことするかい。実戦でクソ役にも立たん意地張って、そんで勝って何を得れるんや?」
「今も、左腕を下げている」
「死に腕使えんのは常識や。そんなすぐに使えるようならへんわ」
「そうか……。いやだからか?」
真宵は少しだけ首を傾け、納得の色を滲ませる。
その姿に、ミアは僅かに頬を歪ませた。ああ、それでいい。考えろ。自分が感じたものを、自分の内で生まれたものを、考えて理解しようとしろ。
ミアの心の動きには気付かずに、真宵は言葉を紡ぐ。
「その姿を見て、止まるべきだと思った……のだろう」
「……ほーかい」
ミアの口元が、ニイッと動いた。
(なんや思ったより、おもろい“心”隠しとるやんか)
今はそれでいい。いつかもっと深く理解できるようになったならば、お前は本当に自由になれる。自分の中にある信念に従い、自分を表現できるようになる。
自分で自分を決められるようになるには、“心”という部品が必要だ。酷く脆くて簡単に形を変えてしまう、だが確かな力の源泉となる、決して無くしてはならない部品が。
そんな心を真にカタチあるものにできた時、人型の器は紛れもない“人”に成れるだろう。
尤も、まだそこに至るには程遠いようだが。
(そ、そんなに痛いのかなぁ? うぅ、強がって笑ってるのが、こう、申し訳ない)
【一旦仕切り直しましょう。40メートルは離れたいです】
(いやぁ、怪我人のそこまで求めるのは……)
【彼女はこの状態でも貴方の頭蓋を握り潰せますが】
(全力で離れよう。うん、そうしよう)
……なんかミアが気の毒になってきた。
このポンコツに深い意味を求めた時点で、ある意味彼女は敗北していたのだろう。南無。
「提案がある」
「乗った」
真宵の言葉に、ミアは即座に応える。
僅かに眉を動かした真宵に、ミアはさっさと言えと視線で促した。
「互いに40メートル離れ、そこから再開しよう。合図は……」
「いらん。40メートル離れたらすぐさま再開。お前もそんぐらいできるやろうが」
(え、この人もルヴィみたいなの持ってる?)
合図を使わず、距離を正確に知覚してみせるという宣言に、真宵は思わず
【純粋な技術です。鍛えれば大多数が修得可能です】
(ほえー、すごい)
【貴方が修得するには約一年が必要だと結果が示しています。神谷ミアは一週間で修得しました】
(マジで!?)
めちゃくちゃ凄いじゃん! 真宵の頭ではこんな小並感しか出てこなかった。語彙力は低くないはずなのだが、いかんせん思考が残念である。
当然、40メートルもの距離を正確に測る技術は、並大抵の努力では修得できない。むしろ一年で習得できると太鼓判を押された真宵は、かなりの才能を保証されたようなものである。
ミア? 彼女は才能と努力の天才であり、戦闘に関連する技術においては変態だ。
「ああ、決まりだな」
二人は視線をぶつけると、同時に背中を向け合った。
両者にとっては目で見て距離を測る必要すらないということだ。片やあらゆる答えを示してくれる謎AIで。片や膨大な経験と研ぎ澄まされた感覚、そして人外じみた勘で。
“知”の異常を突き詰めた真宵と、“動物”として高みにあるミア。この二人に“普通ならば”という言葉は似合わない。
【残り23メートルです】
歩を進める動作に躊躇いも澱みも見られない。
先手を取られるという恐怖はなく、また自分が遅れるという状況を不安に思うこともない。相手が言葉に反し背中を撃つことも考えてはいないのだろう。
不意打ち騙し討ちが様式美である
【残り15メートルです】
不思議なことに二人を繋いだ直線上には、障害物や穴が仕組まれたように存在しなかった。
ミアは考える。この状況すらも真宵の思惑の範疇であり、自分はその手のひらで踊っているだけではないかと。
だが同時に思う。それの何がいけない。自分が弱かった、ただそれだけではないか。
それに——
(——あの戸惑いと言葉は、嘘やあらへんやろ)
だったら問題はない。最低限の種は蒔いた。あとは時間をかけてその種を育て、スカした面をぶち壊すぐらい大きな“心”を根づかせればいい。それが教育者としての在り方だ。
(40メートル離れたら……)
【2発撃ってください】
(あ、はい)
もう銃を撃つことへの忌避感とか全くない。
なんでこんな状況になっているのか思考が追いついていないが、とりあえず従わないと後が怖いので、真宵は内心ビクビクしながら指示に従う。正直怖いし動きたくないし意味わかんないし、でも自分で動くと碌なことにならないのはわかっているし……いやまあ、ルヴィも時々とんでもない状況に追い込んでくるが。それはそれとして、自分よりルヴィの方が絶対信用できる。ワタシ、ダメナ子。
しかしそんな真宵だが、歩き姿は堂々としたもの。昔から周りを意識して生きていたので、自分を取り繕うことのレベルがとんでもない。
一年前まで寝る時以外のほとんどを作り物の自分で生きてきた彼女にとって、心と体を切り離すことなどお手のもの。左右へのぶれも姿勢の乱れもない歩み姿は、過酷な訓練を受けた人間のものと比べても遜色ない。頭など一切揺れないので、まるで地面を滑っている錯覚さえ覚える。妹達の教育は完璧だったようだ。
【7メートル】
二人は示し合わせたように、歩幅を小さくする。なんてことはない。“その時”を前に一息入れるためだ。
【6】
ミアは全力で心を昂らせる。体温が上がり汗が滲み、瞬きさえ許されないかのように目を見開く。だがそれでも呼吸だけは意識の管理下で、40メートルに達した瞬間、最速で動けるように調節していた。
これが猛獣の臨戦体勢。行き過ぎた興奮でのミスなど考えない。今度こそは間違いなく一瞬によって全てが決まる。
鼓動がうるさい、が、今はただひたすらに心臓の回転を上げていく時だ。
およそ常人が生み出す心拍数を超えても、ミアの指示を受けた心臓は限界まで高鳴り続ける。そして脈が早くなる毎に、彼女の意識は遅い時間へと入り込んでいった。
これは解放力ではない。ただ体感時間を減速させていくという、純粋な技術である。あくまでも体感する時間を引き延ばしているだけであり、実際に時間が遅くなっているわけではないが、それでも驚愕すべきものには違いない。
ミアが戦闘オペレーターとして積み上げたあらゆる経験と、中近距離戦闘において卓越した才能、それら全ての果てにある絶技。正真正銘
【5】
真宵は冷静に心を落ち着ける。冷たい肌は冷たいまま、呼吸さえも一定のリズムから外れることはない。特筆すべきは、ミアと会い戦闘が始まってからも鼓動がほとんど一定であることだろう。
敵がいようがいまいが関係ない。ここで何をするにせよ、ルヴィの指示をこなすことだけを考えていれば良い。
真宵自身は知っている。自分がこれから何をして何を感じようが、このやや遅くも感じられる脈が最適解だ。興奮はミスを生む、リズムが乱れれば初動が遅れる、それらは間違いを誘発させる。
真宵は自分をただの“道具”と定義する。全てを委ねるに値する“最高の知性”が望みのままに全てを動かせるように、自分はルヴィの従順なる手足となる。不満はない。むしろ至福・光栄ですらある。
感じるのは“寒さ”だ。本来生物は運動の準備のために体温を上げるが、真宵はその真逆を突き進む。そして真宵の意識は、波紋ひとつない静寂へを導かれていた。精神が肉体に宿る本能を超越している。これもまた、一種の驚愕すべき技能だろう。
【4】
動物的生得性を突き詰めたミアと、生得的な衝動を削ぎ落とした真宵。対照的ながら、二人の在り方は何処か似ている。
両者とも超人的な精神性の末に、備わった機能を最適化してみせたのだ。
【3】
ミアに迷いなど最初からない。
真宵は迷いを自らから切り離した。
猛獣と道具。昂りと落ち着き。熱さと寒さ。
【2】
もう待ったはない。
積み上げたものと持ちうる全てを以て、決着をつけよう。
【1】
辿り着いたこの瞬間が——
【0】
——その時だ。
「ガァぁぁぁあああッ!!」
変わらない。彼女は、神谷ミアは何も変わらない。
身を削るのではないかと思えるほどの叫びと、無謀とも言える突貫。その心に揺らぎはなく、常に最強の
始まりの焼き直しにも見える光景だが、明らかに違うものがあった。
疾い。
地面を蹴る、足を前に出す、全身を躍動させる。それらが以前とは桁違いの疾さなのだ。常人の目では捉えられない、音速にすら肉薄する化け物じみたスピード。構造の面でも耐久の面でも、およそ人間に許された速度の限界を超えている。だがそれを可能にする解放力者の専用兵装こそ、『解放戦力変換型身体強化外装・アーツ』である。解放学の粋を集めた知の結晶、その効果は“身体能力の強化”という単純な言葉で言い表せるものではない。
だが、ミアの上昇率はそこらのアーツを使える解放力者を超えている。これは一体どういうことか。
(スコア4! こんでダメなら打ち止めやッ!)
アーツには『スコア』と呼ばれる段階が存在する。スコアが上がるほど、解放力の変換率と効率は上がる。スコア1の時点で、そこらの子供でも100メートル10秒台はかたい。スコア2のならば、足場次第で大抵の障害物は踏破できる。
アラヤに所属する戦闘オペレーターの標準スコアは2。そこから先、スコア3まで至れる人間は限られている。まして、スコア4という高みに至れるのはほんの一握り。世界中を探してもほとんどいない。
故にこそ、それを迎え撃った一撃は、同じく埒外の領域に踏み込んでいた。
「————ッ!!」
右肩を掬い上げるように狙った一射。
ミアが体感時間を引き伸ばすという一種の“ゾーン”を体現し、アーツの副次効果で反応速度が上がっていたからこそ反応できたそれは、直前まで完全に意識外の方向からの必殺であった。
ミアの目に映る真宵はまだ振り返る途中、視線はまだミアを捉えていない。しかも右回転の効果で右手が先に出るとはいえ、銃口すらも間に合っていない。
……いや違う。銃口がミアを捉えていないのも、斜め下に向いているのも、単なる初動の遅さ故ではない。今この時この状況を狙ったのだ。捉えることすら難しいミアに、障害物に当て軌道を曲げられた弾丸が迫るよう、全てを予測して。
速度、角度、ポジション、タイミング……何か一つ狂うだけでも、この一射は役に立たなくなる。
なんという神技。なんという絶技!
それをなす精神性、それをなそうとする狂気。Sランクという規格外の評価に相応しい狂技である。もはや人間をやめているとしか思えない。
だがしかし、その曲芸に対応できないほど、ミアは生易しくなかった。
「ぐあど————ッらっしゃああああ!!」
床のコンクリートを左手でぶち抜き減速。続けて上体を捻りながら足を使い床を陥没する威力で蹴り飛ばし、その勢いで左腕を抜く。人体の限界に挑むかのような無茶苦茶な負荷を、天性の柔軟性で受け流し、明後日の方向に飛ぶ体を壁を突き破ることで止める。
その決断、そのクソ度胸。やはりミアもまた狂人の部類であった。
即座に起き上がり真宵を狙おうとしたミアは————直後に体を貫く苦痛に動きを止めざるを得なかった。
「カハッ!!」
ドクドクと不揃いな脈が全身を駆け巡る。カヒューカヒューと頼りない呼吸が零れる。バキバキと全身が軋む感覚が苛む。
心臓と肺が痛い。息が、満足にできない。内臓と脳は燃えるように熱いのに、体の末端は氷のように冷たい。
極限の集中が解かれたことにより、ミアはアーツのスコア4を使い強大な力を得る代償を認識した。
(はっやすぎやろ……まだ時間はあったはずやぞ。がーぅあー、クソッタレっ!)
ミアは気付いていない。真宵という“未知”を前に、自分が無意識に自らの限界に限りなく近い変換を行なっていたことを。
いつもならば違う。彼女はスコア4に至るにしても、野性の勘に身を任せ変換効率を落としている。さらにはスコアを自在に変化させ、負担を減らす曲芸さえ披露してみせる。それに、多少の苦痛ならばゾーンに入ったことで得られる極限の集中により、動きを鈍らせることはないだろう。
だからこの状況は、さまざまな要因の上に成り立った限定的な例だ。
ミアが真宵を警戒し過ぎたこと、余裕がなく加減ができなかったこと、窮地に陥りアーツを酷使したこと、無理な体勢で壁を突き破った痛みでゾーンが解けたこと……。
ここ数年で、ミアがここまでのヘマをしたことはない。
(こら当分は安静やな。……やけど今は、死んでもやったるわ)
スコア3に落としながらも、ミアは苦痛を受け続ける。
確かに増える負担は減った。だが積もった負担は消せない。心臓と肺は血液が肉を突き破らないか心配になるほど痛く、指先の感覚は戻ってこない。
ふわふわして思考が定まらない頭で、ミアは必死に周囲を把握し、体に命令を送る。
(大丈夫かこれ? 真っ直ぐ歩けとるよな? くっそッ! 気張れや心臓、踏ん張れや頭。まだ血も流しとらんぞっ)
これがスコアを上げることの弊害だ。
そもそもアーツが変換している解放力——正しくは解放戦力——とは何かであるが、正確には『解放戦力』は“機能”であって“エネルギー”ではない。 解放力者の持つミクロとマクロ、時に次元の壁さえ超えて訴えかける機能、それこそが解放戦力。それは半世紀かけて科学的にも証明されている。
アーツはその機能を限定的な機能に変換する
アーツの役割は簡単。解放力者ならば誰もが持つ自身を『個人という波の一種』と規定する機能を利用し、解放戦力分の機能によってその個人という波を増幅させることで存在規模を拡大させるというそれだけ。スコアはどれだけ波を増幅させるか、という規格である。
だが、個人の存在
いくら個人の観測するスケールが拡大しようが、4次元時空に存在する個人が増大するわけではない。
その差異を埋めようと修正力が働き、結果として装備者の肉体と精神を傷つける。これこそがミアが苦しむ要因だ。
「随分と苦しそうだな」
「はあぁあ? コホッ、カヒュー、そう、見えるんかいな」
(え、え? 本当に大丈夫? なんか今すぐに倒れそうに見えるんですけど。病院行った方がぁ)
体を引きずりながら戻ってきたミアを、真宵はドン引きしながらも本気で心配していた。
「終わりだな」
(そんな状態で意地張っててもいいことナイヨー。早く休まないと……)
「待てやッ……確かにお前のおかげでボロボロやな」
(え、これ私のせい?)
衝撃で愕然とした真宵は、自分が何かやっただろうかと考える。特に思い当たることはなかった(マジかよ)。
せいぜい大きな音にびっくりして引き金を引いてしまったぐらいのものだ(それだよ)。
「そんでや……今度は、好き勝手するわ」
「ああ、そうしてくれ」
(無理せず休んでね)
真宵の答えに、ミアは無理矢理笑みを浮かべた。
「ああ、あんがと。やったら……スコア4ッ!!」
ミアの口から放たれた、文字通り身を削る言葉。
両者の距離はほとんどない。真宵がいかにSランクでも、反応すら許されない……はずだった。
「ウグゥンッ!?!?!?」
ミアの顎を下から撃ち抜いた弾丸は、その意識
(…………はい?)
大声にびっくりして引き金引いたら、なんか相手が倒れた、まる。
意味がわからん。銃口は下を向いていたぞ。
そう、加速しようとしていた人間を、跳弾で仕留めたのだ。変態か?
【おめでとうございます。一つ目の大仕事、『猫の討伐』は終わりました】
混乱する真宵の頭に、ミアが語りかける。
(あ、ルヴィ。これからどうすれば?)
一周回って冷静、もとい現実逃避に走った真宵は、ルヴィに助けを求める。丸投げ丸投げ。
と、床に降りると共に、こんな真宵に声をかける者がいた。
「見事だったよ。流石はSランク、格が違った」
振り返った真宵は、続々と上のパイプの天井から降りてくる者達を視界に収める。
「僕達は君につくことにした。どんな命令にも従おう。だから、僕達に頂を見せてくれ」
彼らの瞳には憧れと興奮の熱と、畏怖と不安の冷たさが入り混じっていた。
だが、その瞳にただの一人として欠けていないものがある。
それは“希望”だ。新たなるカリスマに夢見る、刻み込まれた光そのものだ。
(え、なに? こわ)
ただ一人、希望を向けられる側だけが、状況についていけていなかった。
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