第5話 受け継がれるもの、なお偶然の模様

 第1実践訓練場に着いた真宵は、そこが確かに廃墟そのものといった外見であると感じた。

 真宵はこれまでの人生、廃墟といったものは画像の中でしか知らない。外壁材のない建物ですらほとんど見たことがないのだ。それなりに発展した都市の、さらにその一部にしか行動範囲がなかったため、彼女の常識の中に“廃墟”というものはないといっても良い。そんな彼女ですら、その建物群を廃墟だと認識した。その荒廃具合はかなりのものだ。

 さて、そんな廃墟の隣に建つ、廃墟とは正反対に綺麗な建物。真宵達はまずそこに足を運んだ。

 うえについて中に入り少し歩くと、モニターがいくつもある部屋に着く。


「ああ? なんやお前ら。って、うえやんか。しかも番付きとBのトップまで連れよって。お前らもバトル見に来たんか?」


 一人がうえに気付き、親しげに声をかける。

 気の強そうな吊り目が特徴的で、豹柄のジャケットを着た、なかなかにロックな女性だ。

 少なくとも、真宵はこのタイプの人間を全くといって良いほど見たことがない。

 

「違うわミアちゃん。指令で新しく入った子の試験をね」

「試験ったって、ここはこれからバトル始まんぞ」

「その試験に、この子を入れて欲しいの」

「は?」


 ミアと呼ばれた女性は“何いってんだコイツ”といった目でうえを見た後、胡乱な目を真宵に向ける。


(え、なに? この人視線で人殺せそうなんですけど)

【神谷ミア。ここでは『コーチ』と言われる役職に就いています。彼女の了解が得られなければ、試験を受けられません】


 威圧感ある視線に覚える真宵に、ルヴィが的確に告げる。

 

「これから始まんの混合実践式戦闘訓練フルランクバトルやぞ? 試験ゆうことは新米やろ。入れたら死ぬぞ」

「実はこの子は……」

「問題ない」


 うえの言葉を遮り、真宵は毅然と言った。

 ミアはそれを聞き、目を細める。


「ほおー、自分が何ゆっとるかわかっとるんか? 戦闘バトルゆうのはな、過信しとるヤツから死ぬ。そういう人間をアホほど見てきた」

「それで?」

「お前みたいなんが死ぬゆうてんのや。試してみよう、なんて考えてんならさっさと帰れ。死体袋なんざ見たくないわ。……覚悟ないガキが、世界舐めんな」


 ミアが頬を釣り上げる。その表情は鋭く、そしてあまりにも獰猛だった。

 いつの間にか部屋中の視線を集めた彼女に、多くの人間は凶猛な大型ネコ科動物を連想する。彼女を知る人間ほど、より強烈に。


「——ふ……」


 しかし次の瞬間。その視線は僅かにずれることとなる。


「誰が、死ぬと?」

(え、私死ぬの?)

【死にません】


 薄氷のような、薄い笑み。

 目をほんの少し細め口角が僅かに上がっただけで、眉が動いたかさえ定かではない。それだけなのに、目を離せないほどに惹きつけられる。

 間近で見たうえ達が息を呑むほどに、不敵で絶対的な微笑。

 そしてその場にいる人間は気が付く。その口から溢れる言葉の一つさえ、胸に刺さるほどの『力』を持つことに。ともすれば、ミアに比肩……否、超えるかもしれない威圧。意識は否応なしに奪われる。


「何を勘違いしている?」


 彼女に対抗できる人間が、ここにいるか?


「何が勘違いや。言うてみろ」


 いる。猛獣の如き笑みを浮かべた、アラヤ日本支部きっての中近距離戦闘指導員コーチたる彼女が。ただ一人、呑まれることなく対等に睨みを効かせる強者が。

 両者は下がることなく視線を交わし、その姿を見た周りの意識は一歩下がる。この場を支配しているのは、間違いなく真宵とミアだ。他の人間は口を挟むことさえ許されない。

 真宵は微笑を浮かべたまま、自分の意思を告げるために口を開いた。


「私が死ぬことはない。私が死ぬ状況ならば、全員が死んでいる。仮に私だけが死ぬような時があれば、アラヤはあまりにも危機管理能力が足りていないだろう」

「言うやないか。不意打ち以外はどうにでもできるっちゅうわけか?」

「違う。そもそも前提から間違っている。私が“戦闘”をすることはない」

「なんやと?」

(私はティーチャーだよ。現場に近いところにいても、最前線には出ないし)


 真宵の発言を測りかねると、ミアは疑問を滲ませる。

 その顔に何を思ったか真宵は目をさらに細め、ほんの僅かに力を抜いた表情を浮かべる。まるで、当たり前のことを解さぬ相手を諭すように。

 言葉も含め、ともすれば嘲りにも取れる行動だが、ミアはそうは受け取らない。ここまでのやり取り、相手が並の人物だとは思っていないためだ。少なくとも、自分に張り合うだけのは備えている。あとは他者を下に見られるだけの自信、それに見合う実力があるかどうかだ。

 しかしまあ“戦闘”をしないとは、実は非戦闘員だったりするのだろうか。

 いや、それはないか。それならばここに来るはずがない。ここは『第1実践訓練場附属指令監督室』であり、補助役に関しては別のモニタールームに行くのが普通なのだから。つまり、うえが真宵を連れてきたということは、混合実践式戦闘訓練フルランクバトルへの参加を求めるためだけだということ。そもそも、この訓練ではDランク以下の者にしか補助はつかない。必然、安全のためティーチャーなどの補助はベテランに限られてくるわけだ。

 まあ、今のミアにとってそんな思考はどうでもいい。ただ目の前に少女が何をほざくのか、鋭い目で待つのはそれだけだ。

 ……実は本当に非戦闘員だとは、その眼光でも見抜けなかったようだ。

 そんなことは夢にも思わない真宵は、人の前で喋るという状況にストレスを感じながらも、なんとか口を開く。思考が狭まっている事実には気付いていない。


「私はこれまでの人生“戦い”を行ったことがない。ああいや、チェスだの喧嘩だのといった話ではない。対等、あるいは私を上回る相手と張り合ったことがない、という意味だ。取るに足らない戦いならば知っているし体験した。人間として当然だ。そして私にとって、これまで感じた様々な戦いの中で“戦闘”は最も縁遠いものでな。目を離せば終わっていた、ぐらいの認識しかない」

「……マジか?」

「大いに真実だ。失望させてすまないが、私に戦闘をさせる人物はこれまでいなかったよ」


 先ほどまでなかった眉の下り方、ミアはそこに“自嘲”の色を見た。同時に、“安心”と“諦観”も。


(戦闘をしたことがない、だあ? つまりコイツがこれまでしてきたのは……“蹂躙”っちゅうわけか。しかもこの言い草やったら、ただのイッパンやないな。少なくとも諦観覚えるぐらいに経験積んどる。……ほんま、何者や?)


 当然事実とは違う。真宵の表情は安心の顔を無理矢理制御しようとしたが、結局表に漏れ出した結果である。

 妹達から『表情変えるな』と厳命されているため意識的に制御しようとしているが、実のところ真宵は意識的にするより自然に固まった表情の方が強固だったりする。本人は全く知らない情報なのだが。


「私は試験がしたいだけだ。時間も押しているはず。実力は示そう。心配はいらない、

「言うやないか。そんなん信じられると思っとるんか」

「うえティーチャーが私をここに連れてきた。それでは足りないと?」

「……せやな、ちょいと足りんかもしれんなぁ」

「そうか。……だが信じる必要はない。ただこれからを思うのならば、私に未来を見たいのならば、試験を受けさせてくれ。信頼など要らない、ただ期待してくれればそれでいい。心配だから鍛えるし、心配だから躊躇う。貴方の心はわかる。それでもなお、私は手に入れたいものがあるのだ。……それも貴方ならばわかるのではないか、神谷ミア」


 ミアは目を見開き、そして唇を振るわせる。信じられないものを目にしたような表情に、部屋の人間は息を呑んだ。

 神谷ミアという人間は、獰猛かつ鋼の女傑として知られている。迷わず、曲がらず、動揺すら見た者はいない。だが、今彼女が浮かべている表情には、明らかに動揺を見てとれる。真宵の言葉の何処にミアの心を動かす要素があったのか、周りにいた人間にはわからない。しかし、両者の間だけで通じる何かがあることだけは、誰もが理解した。

 その動揺は長くは続かない。ミアは一息吐くと、平常の表情を戻す。

 だがその表情からは、先ほどまでとは違い角が取れていた。


「……いいわ、認めてやらあ。さっさと準備してかんとな」

「感謝する」

「いらんいらん。ただそこまで言ったんや。当然、どえらいことしでかしてくれんのやろ?」

「最大限努力しよう」

「そんなら……おい、どいつかコイツに案内せや」

「それなら——」


 ミアの声に真っ先に反応したのは、うえの隣にいた茜だった。


「番付きかい。まあいいわ、案内頼んだ」

「すいません。それと別に頼みたいことが」

「ああ? なんや」

「私も参加させてください」


 部屋にどよめきが走る。うえと門真もこの状況は予想していなかったのか、驚愕の色が濃い。

 そんな中ミアはスッと目を細め、茜の言葉の意図を見定める。


「自分がなにゆうとんか、ほんまに理解しとるんか? これは訓練、間違っても蹂躙の場じゃありゃあせん。心折るだけの地獄やないぞ」

「わかっています。ですがこのまま始めると、。それをミア先生はわかっていません」

「言うやないか。番付きがいたら訓練が成り立たん。それよりも酷いことなるゆうことか?」

「はい。私が入ってやっとバランスが取れる、というのが現実かと。先生が思っているよりも、彼女ただ一人を追加するのは危ういことです。……正直、私ですら勝てるかわかりませんから」


 ミアの目が短く真宵に移り、また茜に戻る。

 茜はその眼光に体を緊張させていることを悟られないようにしながら、堂々と胸を張った。自分の言葉に間違いがないことを、彼女に示すために。


「それは、ナンバーズの一員としての言葉、と受け取っていいな?」

「はい」

「それに足る根拠も、当然あるんやろうな」

「あります」


 茜の決して引かない意志を感じたミアは軽く目を伏せ、そしてすぐに視線を戻す。

 僅かに生じた無言の間は、部屋にいた人間に重くのしかかる。だが、長くは続かない。


「……ふー……良いわ、許可出したる」

「ありがとうございます」

「さっさと行かんかい。開始時間は止めといたるから、準備して廃墟入れ」


 頭を下げる茜に雑に手を振り、ミアは部屋から出ていくように促す。


「それじゃあ、まずは装備室に行きましょうか」

「装備? そんなものが必要か?」


 真宵の口から飛び出た言葉に、その場の全員が驚きを覚えた。

 茜は呆れたように眉を傾けながら、不思議そうな雰囲気を醸し出す真宵に向き合った。


「これは規則よ。直接出るんだから、万が一が起こったらいけないもの。……それに、今回は私が出るから、その余裕はやめた方がいいわよ」

「直接……。ああ、そういうシチュエーションか。それならば急がねばな」

「……」


 忠告が無視されたことに腹が立ったのか、茜は苦々しい表情を浮かべる。

 しかしすぐに表情を戻すと、真宵を先導するために部屋を出た。


(この子もティーチャーだったんだ。ほへー。それにしても現場にいるって……まあ、そういう状況もあるかぁ。まあ訓練だし、ルヴィに頼めばいいか)


 本人がこんな能天気なことを考えているとは考えもしなかっただろう。


(それにしても、試験受けられて良かったぁ)


 そう、真宵の言動は外から見れば毅然かつ冷静。とあるコーチから見れば、“力を試すためにこれほど良い場はない”と勇む姿に見えたとか。

 当然、勘違いである。

 実際は何がなんでも試験に参加することしか考えていないのだが、周りからそれが気取られることはない。真宵の仮面は俳優顔負けのもの、それを見破れる人間はそういないからだ。

 とはいえ頭が特別良いわけではないので、無表情以外はなかなか上手く行かない模様。そして基本能天気だ。

 そんな彼女だから気付けなかった。この先に待つ、地獄のような危険な状況に。

 それを目の当たりにするのは、そう先の話ではない。





     †††††





「んで、詳しく聞かせてもらえるんやろ?」

「ええ、もちろん」


 ミアの言葉に、うえは頷く。

 この場において三日月真宵という人間の知っているのは、うえと門真のみ。そして立場が上であり、なおかつ支部長から話を聞いている身として、説明するのはうえの役割だ。

 部屋にいる誰もが彼女の言葉を待つなか、うえはまず最も重要であろう情報を口にした。


「彼女は、三日月真宵ちゃんは、Sよ」

「「なッ!!」」


 Sランク。その一言だけで、部屋は騒然とした模様を見せる。

 当然だろう。解放戦力というものに関わる以上、そのランクの希少性は身に沁みていて然るべきなのだから。この場にいる過半数が教師陣とはいえ、いやだからこそ、Sランクという最上級の傑物を夢見る。なまじ『ナンバーズ』という存在を知っているだけに、力量を想像できてしまうが故だ。

 まして、日本に七人しかいないナンバーズ、その一人である東堂茜に勝てるかわからないとまで言わしめる少女。驚くなと言う方が無理難題というもの。


「……そんなもんが外部いたんは……まあこの際どうでもいいわ。そんで、誰が連れてきた。一人で来たわけやないやろ」


 しかしミアは驚きの表情を浮かべない。感じていても表情を変えるほどではない、ということだろう。むしろ、当然のことだと思っているようにすら感じる。


「支部長よ。直接出向いて頼んだらしいの。決まったのは一週間前ね」

「ま、そうやろうな。大方、七月の痛手を手っ取り早く埋めるためやろ。損失補って余りある戦力、腹立つけど最善手やな。正直文句のつけようもないわ」


 ミアの言葉にほとんどの人間が頷く。特に教師陣は苦々しい表情を隠さない。

 七月に起こった事件は、それほどまでにアラヤ関係者の胸に強く刻まれている。26人もの死傷者を出したその事件は、将来に渡り語り継がれることだろう。その事件を起こしたと考えられる犯人のコードネーム、『ガンパレード』と共に。

 だがミアだけは、それとは別の事をに意識を向けていた。


「聞きたいのは、そんなヤツ


 その発言に、周りは確かにその通りだと納得した。

 Sランクの戦闘オペレーター、その価値は計り知れない。一国のトップが雇うべき人材と言っても、なんの違和感もないほどだ。

 しかも戦闘を経験しているということは、ただ強力な解放力を評価されただけではなく、それが許される環境に身を置いていたということに他ならない。それも、世界最大の解放戦力機関であるアラヤではない組織でだ。

 優れた能力を持ち、若く将来性があり、しかも戦闘経験もある。そんな人材をアラヤ日本支部のトップが直接訪れたからといって、簡単に手放すことなどあるだろうか。いや、確かに1ヶ月もの奔走あってのものではあるだろうが、その程度の日数で決まったのが奇跡に近い。アラヤ的にいえば、ナンバーズを差し出すことに等しいのだ。何を対価にすればそんなことができるのか。

 Sランクの人材とは、金は勿論並大抵のものでは代えられない最上級の至宝と言える。ましてやそれが絶対数の少ないアラヤ以外の組織ならば尚更のこと。何がなんでも手放してはいけないというのは、どのような地域組織であろうとも共通の認識だろう。

 であるならば、三日月真宵という少女が以前所属していたのは一体何処なのだろうという疑問は、抱いて当然のものだ。


「それは……確かなことは支部長と本人以外知らないの」

「それもまあ、当然のことやろうな。Sランク隠せる組織の情報なんざ、簡単に明かすわけないわ」


 ミアの言葉は、周囲の心の内そのものだった。

 当然のことだ。解放力が強力なだけならば、それほどおかしいことはない。日本のナンバーズも年若い者で構成されている。次世代の解放力は旧世代に比べより洗礼されていっているからだ。しかしあの若さで外からもわかる程の完璧なまでの冷静さ、それを齎した経験の厚みは推して知るべし。真宵という少女の風格は並大抵の経験で得られるものではない。そんな彼女が所属していた組織の情報が容易く得られることはないと、この場にいる全員が思っている。うえの言う通り、直接出向いた支部長か、それこそ本人しか知らないだろう。

 だがうえと門真の真正面にいたミアは、二人の表情から揺らぎを見出した。

 伝えたいが、言っても良いのかわからない。伝えることで起こることが、良くないことかもしれない。

 そんな感情を示すように、うえの眉間には皺が寄っていた。


「んでも、ヒントはあったやろ? どうせ不愉快な噂が立つんや、その前にある程度方向性ぐらい決めとかんとな。責任は取ったるからさっさと吐けや」


 ミアの言葉は一見すると傲慢で、どこか無責任にすら聞こえる。しかしそれはえうの悩みを敏感に感じ取った上で、自身のキャラクター性すら利用して相手のやりたい事をさせる、それもうえがやらなければ良かったと思うことがないように。そんな思いやりあふれる行為だった。尤も、本人は決して認めないだろうし、長い付き合いであるうえもわかっているだろうが。

 ミアの言葉にうえは決意が固まった表情を浮かべ、迎えに行った時に見た真宵の行動を述べた。


「真宵ちゃんを迎えに行った時に、彼女が最初にしたのが。それも、かなり慣れた様子だったわ」


 再びざわめきが部屋を走った。

 挙手の敬礼、あるいは挙手注目の敬礼。つまりは自衛隊や警官などが行うことの多い敬礼だ。

 つまりそれを自然に行なったということは……


「……なるほどな」


 ミアの呟きには、なんともいえない感情が含まれていた。まるで、過去を懐かしむような、あるいは苦々しく思うような。

 目を瞑った彼女の脳裏には、一人の女性の姿が浮かんでいた。

 迷彩柄の装備を身につけた、精悍な顔立ち。しかし発される言葉は柔らかだった。……たとえそれらが痛みに歪み、腹部に血が滲んでいても。


『だが信じる必要はない。ただこれからを思うのならば、私に未来を見たいのならば、試験を受けさせてくれ。信頼など要らない、ただ期待してくれればそれでいい。心配だから鍛えるし、心配だから躊躇う。貴方の心はわかる。それでもなお、私は手に入れたいものがあるのだ。……それも貴方ならばわかるのではないか、神谷ミア』

『信じなくても良いわ。ただ彼らを思うのだったら、彼らの未来を大切に思うのなら、私に任せて欲しいの。信頼しなくていい、ただ良い報告を期待するだけでいいのよ。守るために反抗して、守るために託さない。そりゃあ貴女のことはわかるわ。それでもね、私は守りたいの。……そんなこと貴女ならわかるでしょう? ミアちゃん?』


 過去の声が、先ほど聞いた声と重なる。

 違う声質、違う抑揚、違う表現、違う状況——だがしかし、似通った言葉達。


「……ほんま、因果なもんやな。こんなとこで受け継がれとったんかいな」


 目を開けたミアは「よっしゃ!」と言って体を伸ばし、出口に向かって歩を進めた。


「ミ、ミアちゃん? どうし——」

「うえ、悪いけど監督任せたわ」

「え、それは良いけど、ミアちゃんは何処に行くの?」

「ああ、なんか血が騒いできよってなあ——」


 振り返ったミアの顔には、笑みが浮かんでいた。まるで期待で胸がいっぱいの子供のような、しかしそれにしては獰猛過ぎる、餌を前にした猛獣のような笑みが。


「——ちょっくらバトってくるわ」

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