第3話 15歳の就職、何故か増える勘違い

「え、なんて言った?」


 三日月真宵、今年で15歳は、現在強い困惑に襲われていた。

 猫の案内でとんでもない目に遭いながら着いた我が家。これでやっと休めると玄関を開けると、そこには満面の笑みを浮かべた妹二人と、珍しく家にいた母が待ち受けていた。

 ここ数年全く見た事がないほどご機嫌な三人に嫌な気配を感じた真宵は、とりあえずお風呂に入ることを選択した。現実から逃げたとも言う。まあ、一時的に目を背けただけだが。当然、コソコソ部屋に逃げようとした真宵は、お風呂場の前で待機していた妹達にリビングへとドナドナされてしまう。

 脱走しないようにソファーの両脇を固められた真宵は、体を小さくしながら告げられた情報に目を丸くした。


「『アラヤ』って知ってるでしょ? まさるさんも関係あるとこで働いてるのだけど」

「いや、知ってるけど……。知らない人の方が少ないし」


 『アラヤ』。正確には、解放戦力研究機関『アラヤ』。

 半世紀前に現れ始めた超常的能力、『解放戦力』を持った人間を教育、研究、運用するための組織だ。

 研究機関と言いつつも、それこそ猫探しからテロの鎮圧まで、さまざまな依頼をこなしていることで知られている。

 

「そこの偉い人が是非真宵にって」

「内容がなくて何が言いたいのかわからないよぉ」


 知ってはいたが、自分の母親のフワッフワ具合に頭を抱える真宵。

 そんな彼女を、両脇にいた妹達が撫でたり抱きしめたりして慰める。その実、ただ単に触れたかっただけであるのは秘密である。


「姉さん、昔よくわからないテスト受けたでしょ。トロッコ問題を複雑にしたようなシュミレーション。それがアラヤの適正検査だったんですって」

「そんでだなぁ、あまりに優秀だったんでスカウトってわけだ。やったな姉ぇ!」

「それってつまり、事務……じゃないか。あのテストから測れるのは判断力。つまり……」

指揮官コマンダーとしての採用でしょう】

「こ、こまんだー……」


 考えをルヴィに肯定された真宵は、徐々に血の気の引いた蒼白な顔へと変わっていった。

 アラヤの指揮官。それが何をする仕事かは知っている。

 実は真宵、以前授業で指揮官コマンダーに関して調べたことがあるからだ。特段珍しいことではない。どの時代でも良くある『人気の職業を調べよう』の一環でしかない。

 軽く言うならば、アラヤの指揮官とは、アラヤに所属する戦闘員や補助要員を指揮する存在である。しかもうろ覚えのテスト内容を考える限り、かなり危険な状況を任される人員であるのは明白。当然、その責任は一般で生きていく人とは段違いに高いだろう。


「む、り……無理ムリむりむりぃぃ……!」


 こちとら一般人だぞ! どれだけ言われても人の人生背負えるか!

 と心の中で叫び自室に逃げようとするが、当然両脇を固められた状況で逃走するスキルなど真宵にはない。しかも二人の内片方は格闘技で海外にまで飛んだことすらある、正真正銘フィジカルギフテッドなのだ。もう片方がいくら運動音痴とはいえ、逃げられる確率はルヴィに聞くまでもなく皆無である。


「落ち着け姉ぇ。話はこっからだ」

「そうです姉さん。占いでは酷い結果は出てませんっ」


 妹二人に押さえつけられる姉。一年前まであった威厳など影も形もなかった。元より薄氷もかくやという仮面だったが、今ではそんなものすらない。現在家庭カーストの最底辺にいるのは、何を隠そう真宵なのだ。

 ついには抵抗する気力すらなくなった真宵は、大人しくソファーに着くしかなかった。かなしみ。

 

「あらあら、何の実績もない真宵ちゃんに、コマンダーなんて任せると思う?」

「そ、それは確かに」

「あちらも小娘にそんな重要なこと、任せるわけないでしょう?」

「こ、小娘」

「それに向こうも、指揮官適性指標コマンダーテキストだけで判断しないわよー。総合的素質を見てくるわ。真宵ちゃんに何ができるのか、正確に測って来るのよ」

「は、はいっ」

「(お母さん、何だか絶好調よね)」

「(かあさんも姉ぇをいじるのが好きだからなー)」


 いつの間にか前傾姿勢になっていた真宵の後ろで、妹達が何か言っている気がするが、そんなことよりも真宵は母の言葉に集中していた。

 母の語りが絶妙なのもあるが、何よりも真宵が乗せられやすいが故だろう。妹達はここにいない末妹も含めて、常日頃から真宵が騙されるのではないかと話し合っていた。そこらへん信用のない真宵である。


「だから、真宵ちゃんはまず『ティーチャー』になりますー。パチパチ」

「それなら安心……え?」

「ほら、パチパチー」

「「パチパチー」」

「ほら、真宵ちゃんも」

「パ、パチパチー……。じゃないよっ!」


 一瞬乗せられかけた真宵だが、流石に雰囲気だけで流される年ではない。まあ、一瞬乗せられるあたり、残念さが見て取れなくもないが。それはまあ、一年も引きこもっていればそうなることもあるだろう。思考が鈍いというのが総評だ。


「ティーチャーって何!?」

【アラヤにおけるティーチャーとは、教師陣と言われる職の中でもカウンセラー兼補助役としての面を持つ、最も一般に開かれた職です。その性質上カウンセラーのみを行う場合と、担当を持って補助も行う場合が確認でき、基本的に新人はカウンセラーの一人という状況が多い傾向にあります】

「……ごめん。今理解した」


 即座に入る的確な説明。こういう時強制的に自己完結してしまうのが、ルヴィの良いところでも悪いところでもある。

 どんなことも疑問に思った瞬間、ルヴィの采配で説明が入るのだ。それが良い影響しか齎さないわけがない。相手が知ってほしいこと、知られたくないこと、それを分け隔てなく暴く行為は、相手を時に不快にさえしてしまう。


「出たよ、姉ぇの自己完結型謎理解」

「頭の中に電極でも入っているのでしょうか」

「あらあら、そんなことしてないわよ? 真宵ちゃんは可愛いが詰まってるもの」


 しかしまあ、家族も慣れたものである。

 母に至っては一部真宵でさえ理解できない謎理論が出してきているが、それも慣れたもの、妹達は反応しなかった。そして母も特に残念がりはしない。これが三日月家の日常なのである。


「可愛いが詰まってるってなに? 頭空っぽって意味なの?」


 唯一、真宵だけは真面目に反応していた。普段引きこもってコミニケーションしない弊害とも言える。


「あらー、久しぶりにむぎゅっとしたくなったわ」

「言葉を変化球で投げてこないでよぉ」

「いやいや、どっちかっていうと真上に放り投げてんだろ」


 相変わらずフワッフワな母に頭を抱える真宵だが、妹が指摘する通り、これを“変化球”で済ませるあたり真宵もやはり三日月家である。なまじ引きこもっていただけに、余計常識が抜けていたのだろう。


「それで、私がティーチャーって。他にも優秀な人がいるでしょう?」

【日本でのティーチャーは普通教育機関の教職より30倍困難な職業とされています。そのため、毎年希望の六割が落とされているとか。基本的にティーチャーになるのはサブティーチャーとして経験を積んだ人が多い傾向にあります】

「毎年希望の六割が落とされてるし、私はサブティーチャーとして経験を積んでもいないし、無理だよ。というか無理です。勘弁してつかさぁい」


 最後には嘆願になったが、何とか言い切った真宵は手応えを感じていた。

 ルヴィから与えられた情報が正しいのならば、これは何かの手違いで自分が推薦されたに違いない。かなり厳しい基準であろうティーチャーという仕事、それを何の経験もない真宵が任されることがあるだろうか。いや、ない。反語である。

 しかしそんな真宵の心内など関係ないとばかりに、真宵の母は困ったように頬に手を当てて決定事項を告げた。


「う〜ん、もう了承しちゃったのよね」

「はい?」

「それに、わざわざ日本のアラヤで一番偉い人が頼んできたもの。SNSで上げちゃったわ」

「は、は?」

「ほらー見て見て。すっごい盛り上がってるわよー」


 母が突きつけた端末には、確かにアラヤの統括長にスカウトされた、という旨の言葉が綴られていた。しかもすでに拡散されているのか、相当数のコメントが寄せられている。


「なんで何でナンデなんでぇ……!」


 実はそれが真宵の母が運営していて、なおかつ個人を特定することが不可能なように対策してあり、しかもダミーの情報源が作られていることに、真宵は気が付かなかった。ルヴィで確認することが思い浮かばないほど気が動転していたこともあるだろう。しかし、どちらかといえば母の細工が完璧過ぎて、真宵が違和感を抱かなかったという方が的確か。


「会社の人にも自慢しちゃったのよー。これでも一応会社の代表だから下手なことは言えないんだけど、真宵ちゃんが可愛くって自慢しちゃった。ごめんね」

「納得できないっ!」

「ならないの?」

「ならない!」

「どうしても?」

「どうしても絶対に!」


 真宵が勢い良く言い切ったのを見て、母はあらあらと言って笑みを深めた。ゆるふわっとした柔らかな笑み。街中で見せれば空気が緩みそうなほどだ。

 しかし、妹二人は戦慄を隠しきれずに肩を振るわせていた。

 

「ヤベェ、姉ぇがかあさんに反抗してる」

「しっ、こっちまで標的にされる」


 母はゆったりと端末を操作し、ある情報が記された画面をテーブルディスプレイに表示した。

 グラフと細かい数字が載ったその情報が何を示しているのか、真宵は即座に理解することができなかった。だが、無意識が何やら仕事をしたのか、反射的に逃亡を試みる。


市雨しうちゃん。玉木たまきちゃん。拘束してくれる?」

「「イエス・マム」」


 当然それを予想していた母と、母に逆らえない妹達によって、真宵は体が動かせないように取り押さえられた。


「わ、私は長女だぞ! うら若き少女をどうするつもり!?」

「あらあら、これが何を示したものか、本当にわからないの?」

「碌なものじゃないのだけはわかるよ!」


 反射的に危機感を覚えるものなど、どうせ見ても仕方のないものだ。そうだろう。きっとそうだ。そうであってくれ!


「これ、真宵ちゃんが引きこもっている間に膨らんだ生活費だけど」

「うぐっ」

「あらー、勝手にお金使って、これは何? 睡眠薬? 罪悪感で眠れなかったのかしらー」

「そ、そそそそ」

「ついでにこれは、プログラム類が大量ねー。これは凄い金額だわ」

「あぐぐ」

「これ、どうやって返してもらおうかしら。働かないといけないわねー。真宵ちゃん、今から働くにはどうすればいいと思う?」

 

 真宵はまず混乱に顔を青くし、その後赤くなり、そして土気色になってしまう。

 そして幽鬼のような表情で立ち上がると、母に向かって土下座を敢行した。


「ヨ、ヨロコンデ、ハタラキ、マス」

「一週間後にはアラヤに行ってもらうからね」

「うう〜、はい」

「それまで市雨ちゃん達にみっちり仕込んでもらうから」

「うえ?」


 妹組二人は真宵を囲むと、魅力的な笑顔で迫った。


「まずは、姉ぇのその情けねぇ面からだな」

「では、私は占い術と礼儀作法ですね」

「いや、その胡散クセェ占いはいらねえよ」


 そんな二人とホワホワな笑みを浮かべる母に、真宵は現実逃避すら許されず覚悟を決めるのだった。





     †††††





「ご機嫌ですね。支部長」


 ティーチャーである樽井たるいうえが解決した任務を報告しに来てみると、統括長室には久方ぶりに穏やかな顔をした男性が座っていた。


「ああ、うえ君。そう見えるかい?」

「ええ、ここ一月で一番優れています」


 そうか、と支部長は頬をなぞり、確かに自分の表情筋が力んでいないことを自覚した。


「いやなに、優秀な人物を勧誘できてね。本人には会えなかったが、即戦力として期待できることは確かだよ」

「そんなに凄い方なんですか?」

「ああ、ソロモン・ツリーが唯一無二とまで評価した逸材だ」


 うえはその情報に驚きを露わにした。

 アラヤの誇る世界最高峰の演算機構、つまりは計算機、それが『ソロモン・ツリー』だ。その性能はやろうと思えば世界中の人間の情報を精査し、未来の情報すら正確に演算できるほどのもの。尤も、その閲覧権限と操作権限は一部の者にしか与えられていないのだが。それでもその性能は疑いようもない。

 そんなソロモン・ツリーが人類の中で唯一無二とまで示したなど、ナンバーズレベルの逸材と言って間違いないだろう。


「そんな人物が、これまで隠れていたなんて」

「いや、実力は前々から確認されていたよ。さまざまな方面で凄まじい記録を残している。ただ、注目されていなかったがね。そしてその真髄は指揮能力。……彼らの穴を埋められるだろう」

「支部長……」


 苦々しい表情で付け加えられた最後の言葉に、うえは納得する。

 記録が残っているということは、その人物はすでに何処かに所属していたはずだ。それほどの人物、簡単に移籍させられるわけがない。なのにどうしてその人物を勧誘したのか。決まっている、一月前にあった事件に起因しているのだろう。

 元より数が少ない日本支部の指揮官コマンダー。それが何人も失われた任務があった。うえ自身も参加したその任務、その悲惨さは良くわかっている。

 その被害の大きさを誰よりも憂いたのは、他ならぬ支部長だ。だから直接動いてまで、その貴重な人材を勧誘しに行ったのだ。


「まあ、あまり暗くなっても仕方がない。彼らの意志は我々が受け継ぐ。そして前を向くしかないさ」

「そう、ですね」


 うえだってその思いはある。だが、まだ支部長のように受け入れ切れるものではなかった。まだ若輩ということだろう。


「それで、任務の報告だったかな? 何でもドールが使われたとか。まあ、ナンバーズである茜君が出たのだから心配はしていないよ。それに、今回はサポートも完璧だったからね。しかし直接報告とは、なかなか珍しい」


 何の心配も憂慮もないその言葉に、うえは少しだけ詰まってしまった。

 サポートも完璧、確かにそうだろう。

 ナンバーズである東堂茜は勿論のこと、同じく任務にあたった楠門真くすのきかどま山本やまもとアヤメもそれぞれBランクとAランクの解放戦力者。索敵と拘束を行える優秀な人材だ。並大抵の存在が彼らに叶うとは思えない。

 しかし、ショッピングモールで事件を解決したのは謎の少女。彼女がいなければ、任務にあたった彼らでも危なかったかもしれないのだ。

 赤外線探知にも引っかからない迷彩能力を持ったドール。当然可視光でも発見は困難。しかも、その能力で他者すら隠すことが可能だったらしい。実際、門真の解放戦力『俯瞰視点アップ・アイ』でも見逃していた。

 ここまで高性能なドールはそうそうあるものではない。だからこそ、彼らもうえも油断してしまっていた。その油断を突かれれば、少なくとも一人は犠牲になっていただろう。


「ああそうだ。途中でマドレーヌを買ったのだが、一人で食べるには多くてね。良かったら貰ってくれないかな。うえ君も好きだろう?」


 その僅かな沈黙をどう受け取ったのか、支部長は傍にあった箱を指して言った。


「……ええ、貰います」


 うえは頭の中で自分を叱咤した。

 自分のせいで犠牲が出るかもしれなかったところは、当然反省すべき点だ。だが、それに引っ張られすぎて次へ進めないのは、ただの愚か者に成り下がる行為。そう、前任からも言われただろう。

 支部長の机はかなりの大きさだ、何かを受け取るには横に回らなければならない。腕を伸ばせば届くだろうが、箱から選ぶのならばやはり回った方が合理的だろう。


「ありがとうござい——……」


 マドレーヌを三つ受け取りお礼をしようとしたところで、うえの目に支部長が見ていたであろう画面が飛び込んできた。正確には、顔写真だ。

 思わず目を見開いて言葉を止めたうえを訝しげに見た支部長は、その視線を追って「ああ」と声を漏らした。


「後で伝えようと思っていたが、うえ君にならば良いだろう。三日月真宵。彼女が新しく入ってくる逸材だよ。若いだろう? だがその能力は折り紙付きだ」

「三日月、真宵」


 画面に映ったその顔は、間違いなくショッピングモールにいた謎の少女のものだった。

 しかし、そこに記された情報に、うえは更なる驚愕を覚える。


「Sランク、ですか」

「まあ、そうだね。彼女は色々と特別なんだけど、その評価に相応しいことは間違いない。ただその未知性が強い、というより難しいと言った方が良いかな」


 少しだけ歯切れの悪い支部長の言葉も、今のうえには気にならなかった。その代わりに、見つからなかったピースがハマったかのように全貌が見えてくる。

 任務後、茜達は少女——真宵のことを訓練を受けた解放力者であると予想していた。それは正しかった。それも、予想を遥かに上回るほどの大物。

 支部長は言っていた、『サポートも完璧だった』と。あれは門真やアヤメのことを言っていたのではない。三日月真宵のことをこそ言っていたのだ。

 彼女は支部長直々に命を受け、危険な可能性があったあの場所に送られた。おそらくそれは、試験も兼ねていたのだろう。そうして少女はその力を示した。完璧に、完全に、圧倒的に。

 しかも支部長は言っていた。彼女の真髄は指揮能力だと。つまり、あのショッピングモールで見せたあれは、彼女の本気ではなかったのだ。

 想像するに、少女の本領は指揮官と戦闘員両方をこなす多人数戦でこそ発揮されるに違いない。

 その圧倒的な力は、Sランクという評価が物語っている。

 Sシルバースターランクには枠制限が設けられている。誰も彼もがなれるランクではない。そこまで辿り着くには積み重ねられた究極の努力か、圧倒的なまでの才能、時にその両方が求められる。

 多くの解放力者が平均Dランク、良くてCランクで終わるといえば、その凄まじさがわかるだろう。

 そんな人物を引き抜く。支部長が気を抜いていたのも無理はない。


「凄いですね」

「ああ彼女は新たな希望と成り得る」

「いえ、支部長がです。もしかして、最近忙しくしていたのはこれも関係あるのでしょうか」


 支部長は苦笑いすると、画面に目を落とした。


「……まあそうだね。みんなを早く安心させてあげたい、なんていうのは傲慢かな?」

「まさか。支部長の頑張りは、多くの人が知っています。さらにはSランクですよ? それを傲慢だなんていう人はいません」

「はは、だといいのだけどね」


 その表情を見て、うえは尊敬の念を強めた。


「それでは失礼します。マドレーヌもありがとうございました」

「おや、任務の報告は……もしかして私を見にくる口実だったのかな」

「結果はわかっているでしょうに」

「確かにね」


 うえは部屋を出ると、静かに息を吐いた。


「あれが、統括長としてあるべき姿……」


 これほど身を粉にしてくれる上司がいるのならば、自分はまだまだ頑張れる。

 その足取りは、部屋に入る前よりも軽かった。

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