第24話 やったね!終わったよ!

 勝手に僕の本体扱いされてる中華鍋だけど、幾度となく僕の命を救ってくれたことは事実だ。

 あの時料理器具だった君は防具に。

 

 そして今度は武器へと変貌を遂げるんだ。


「中華鍋召喚!! ポーション召喚!!」


 幸いお金はたんまりとある。

 アラガミさんの有言実行のお陰で更にスパチャ貯金が貯まったからね。願わくばこれをリアルに還元できたら良いんだけど。

 僕が死んだらどうなるんだろ。

 残るなら文字通り負の遺産でしょ。


 そんなことはさておき、一先ず十個の中華鍋と十個のポーションを召喚した僕は、迫りくる足音に怯えることなく一つの中華鍋を握る。柄の部分ね。


コメント

・一気に表情が晴れやかになってやがる

・分かりやすい奴だなw

・一応『多分』うまくいくんだけどな

・前例はあるしいけるやろ

・メインウェポン中華鍋とか狂ってるwww

・何気に有能なのは認めるけどw


「中華鍋さんに失礼だろ。もっと敬いなよ」


コメント

・擬人化するな

・使えることが分かって一気に手のひら返すじゃんw


「僕は最初から知ってたよ。僕を救うのは中華鍋さん以外にあり得ない、ってね」


 僕と中華鍋さんは運命の糸で繋がってるんだ。

 恋慕はないから赤色じゃないけど、絆ともいえる糸が繋がってるに違いない。僕を救うために行動してくれる。

 ドキドキっ、中華鍋で足場作戦も、中華鍋が無ければ詰んでいたからね。


 僕と中華鍋さんは一心同体。

 絶対に僕は裏切らないし、中華鍋さんだって僕を裏切らないって信じてる。

 物にも想いは宿る。信じていればきっと叶うはずさ。


コメント

・嘘をつくな嘘を

・無知が知ってる、なんて言葉を発するわけがないだろ

・どうせ即堕ち定期

・世界一信用できない男


「今回ばかりは君たちも思い知るだろうさ。僕と中華鍋さんの絆の力をね」


 キザに笑った僕は、いよいよ現れた狼くんと対峙する。

 僕の足元には中華鍋が1ダース。

 狼くんとの距離はざっと15mほどと近い。


「グァッ、ハッ、グルァ!!」


 満身創痍という程でもないけれど、明らかに狼くんは体力、気力ともに消費していて、未だ毒に侵されていることは明白だった。

 僕にとっても都合が良い。


 この距離なら愚鈍な狼くんは──火球!!


「来たね」


 僕の予測通りに口をプクリと膨らませる狼くん。……あら、やだちょっと可愛い。

 ごほん、それは何度も見た火球を放つ前のポーズだね。

 流石の僕も何回も同じ行動を見れば予測くらいはできる。


 ────だから僕は構える。

 中華鍋さんを野球のバットに見立てて。


「せばんばんばんごうごうごう……四番、世迷よまい言葉ことは選手。右利き」


コメント

・おっとw

・世迷ってるタイム来たわ

・完全に野球やんけ

・お前まさか

・またバカなことをw

・本物っぽく再現するなよw

・無駄なところで細かい

・《ARAGAMI》うーん、これはまた狂気

・まさか打ち返すとか言わないよな


 うん、そう。

 僕は中華鍋さんを信じている。いけるいけるきっといける。多分きっとメイビー恐らく。

 

「さあ、放送席、実況の世迷と解説の言葉です。狼選手、やけに溜めが長いですねぇ。どうでしょう、言葉さん。……そうですねぇ。これまでの経験を活かして普通の攻撃だと効かないと踏んだのでしょう。狼選手は隙を見せることになりますが、世迷言葉選手にはそもそも隙があろうと攻撃力が絶望的に足りてませんからね。良い判断と言えるでしょう」


コメント

・帰ってきた世迷と言葉

・いや、それ同一人物や

・だから解説で自虐するなw

・(何で溜めの長い火球を打ち返そうとしてるんですか)

・バカだから

・なるほど納得

・《Sienna》威力高まってるのを分かって回避手段を取らないなんて。アホね。アホこいつwwwwww

・あ、6位が狂い始めた……


 うるせいやい。アホにもアホなりのやり方があるの。 


 どのみち、鍋で攻撃して中華鍋のストックが無ければ僕は無防備だ。

 早めに火球を撃たせて、隙が出来た時に畳み掛ける。それが僕の寸法……だけど、連続で火球を撃たれたらどうしようもないんだよね。そんなに体力が残ってないことを祈るしかないかぁ。


 と、作戦を練っていると、ついに狼くんが火球を吐き出した。


 その大きさは然程変わっていないように見える。

 でも……明らかに密度というか熱量が違う。


 溜めてる間に何してたんだろう、とは思うけどそんなこと言ってる場合じゃない定期。


「バッター振りかぶって…………当たったァァァ! 手首折れたァァァ!! いったァァァ!!」


コメント

・草

・本来笑い事じゃないはずなのに……こいつのリアクションが悪いwww

・当たったァァァ!折れたァァァ!いったァァァ!じゃねーのよ

・このでしょうね感

・い つ も の


「おい中華鍋ェ! ちゃんとしろよォ!」


コメント 

・即堕ち二コマ

・安定の手のひらくるっくる

・絆 の 力 w

・思考回路ショートしてんのかお前


 打ち返せもしなかったし、なんなら僕の手首が曲がっちゃいけない方向にグッキリ逝ったよ。苦痛耐性のお陰でそんなに困ってないけどさ。慣れたし。

 とりあえず火球自体は何とか逸らせたけれど。


「怪我の功名ってやつか……!」


 僕は、事前に買っていたポーションの蓋を器用に肘で空けて サクッと復活する。


コメント

・ちゃうねん

・いや、回避できてた事象なんだよw

・自らネタに走ったのはどのバカだ、こんちくしょう

・そんなことより狼くん来てるぞ


 ──っ、わっ。そうだコメント見てる場合じゃない。

 急いで視界を前方に切り替える。


 そこで、距離を詰めてこようとする狼くんに僕は戦慄した。


 その速さは、レベルアップした僕でも追いきれない程の速度で、一切の油断も手加減も持ち合わせてないことが分かったからだ。


 だからこそ僕が刹那の時間に取った行動は奇跡だった。


「────っ、どっせぃぃ!!」


 僕は、手放さずに持っていた中華鍋を前方に思い切りぶん投げた。


 くるくるくると回りながら飛来する中華鍋は────丁度向かっていた狼くんの鼻っ柱に直撃した。


「アォンッ──!?」


コメント

・痛そう(小並感)

・やるやん!w

・戦い中は謎に運良いよなお前

・《ユキカゼ》スカッとした

・《ARAGAMI》怯んだ!!チャンスだ!


 アラガミさんの言う通り、狼くんはさして威力もないはずの中華鍋の攻撃に怯んでいる。

 痛がっているというよりも……何だろう、不思議がっているような。少なくとも何かしらの効果はあるんだね。



「ふふふふふ……今までの恨みィィ!!」


 僕は足元に準備していた中華鍋を、一個ずつ丁寧に振りかぶっては投げた。


「今の僕はピッチャー世迷。……ということは二刀流じゃん。やったね」


コメント

・同じにするな

・40年前の野球界の至宝じゃんか。一緒にすんな

・やったね、じゃねーよw

・あら、良い笑顔

・世迷の笑顔→フラグ

・やめいw


 そんなわけで──投げる。


 投げる。投げて投げて投げる!!!

 ひたすら中華鍋を投げつける。

 いくら苦悶の声を上げようが、反撃しようとしてこようが僕には一切合切関係ない。

 今の僕はただひたすら中華鍋を投げつけるピッチングマシンでしかないのだ。感情も消え……いや、めっちゃ爽快感。


 無くなればショップで補充して、僕は狼くんが沈黙するまで投げつけた。


 体感で1時間が経った。


「遂にやった」


 狼くんは纏っていた火が完全に消え去っていた。

 これじゃあただの犬畜生だよ。やーい、唯一の主張ポイントを消された雑魚狼やーい。


コメント

・まじかよw

・こいつやり遂げやがった

・すげええええ!!!

・勝ったな(確信)


 僕はもう、それは有頂天だった。


「ふっふっふ。見たか。これが僕だ。生命力と気合いならゴキブリにも負けない自負がある僕だよ。知力が無くたって強大な敵に勝つことだってできるのだよ」


 

 ──僕は学ばない。

 調子に乗るんじゃなかったと叫んだ記憶はすでに遠い彼方へレッツゴー。

 


コメント

・《ARAGAMI》体に力が漲ってるかい?

・《ユキカゼ》レベルアップの感覚は

・《Sienna》死体が消えてないわよ


 上位探索者の彼らのコメントを見て。


 僕はようやく後ろを振り返った。



「────グルルルルル……ッ!!」


 満身創痍で。

 体中から迸っていた火は消え。涎をダラダラと垂らす。


 今にも死にそうな程に儚いのに。

 毒に侵され、ろくに思考が働いていないはずなのに。


 ──そこには威圧感の増した狼くんが佇んでいた。



「あ、終わっ────」


 瞬間、まるで体がバラバラになったと錯覚するほどの衝撃と痛みが襲いかかってきて────



 ──僕の意識は完全な暗闇に閉ざされた。





ーーー

謂わば第二形態

良い加減飽きてきた狼くんといよいよラストバトルです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る