第7話 やったね!\(^o^)/だよ!

「──っ、っまた火球かよ!! 芸が無いなァ!」


 ──全身焼かれたけどポーションで復帰できた!!


 そしてコンガリ焼かれてる間に時間の猶予を作ることができ、僕は無事に洞窟内に辿り着くことができた。


「グルルルゥッ……ッ!!」


 狼が唸りを上げて洞窟内にいる僕を睨む。察するまでもなく噛み締められた口元から、怒りで一杯なのは理解できた。

 洞窟の入口の直径が5メートルほどで、大きさ的にも入れないが、攻撃を仕掛けてこないことから非アクティブエリア……モンスターが侵入不可になっているらしい。


 依然として狼が睨みつけてくるのは怖いし早く何処かに行ってほしいけどね……。


 僕は一息ついてスマホを取り出す。


 コメント欄はまさしくお祭り騒ぎだった。



コメント

・生き残ったァァァァァァッ!!

・すげえええええええ!!

・最後炎上(物理的)した時はもうあかんかと思ったw

・《ユキカゼ》よく持ち堪えてくれた……《¥100000》

・《ARAGAMI》一秒でもポーションを飲むタイミングがズレてたら死んでたね。運もあるけど、これはきっと生にしがみついて手繰り寄せた希望だよ。おめでとう《¥10000000》

・世界2位のスパチャ額がエグい……

・2位も認める絶体絶命をよく乗り越えたなw

・めでてぇ《¥20000》

・よくやった《¥30000》


 うん……うん。


「勿論嬉しいんだけど、お金貰ったところであんまり利がないんだよね。僕がジ・エンドした時に自動で家族の口座にレッツゴーするなら良いんだけどさ」


コメント

・お前今生き延びて調子乗ってるやろw

・そこはかとなく感じる余裕

・緊張感ないのは今更なんだよなぁ

・配信者の才能しかねぇわ


 いや、まあ調子乗ってるというより安堵と疲れでテンションがおかしいだけかな。

 自分でテンションがおかしいって自覚があるのに、どうもこの昂ぶる気持ちを抑えていられない。


「なんかムカついてきた」


コメント

・なにに?

・誰に?

・どんなことに?

・連結すな


「タイミングが悪いと思わない? まるで分かってました、はいドーン、みたいな登場の仕方でさ。おまけに手加減して舐めプかましてたし」


 僕は何を考えたのか、目の前の火を纏う狼にキレていた。

 手加減されてたことに怒ってるわけじゃない。そのお陰で生き残れたわけだし、最初から全力だったら秒で死んでる。

 

 ……生き残れたからバンザイ、なんて溜飲が下がるわけがないんだよね。せめてこのやり場のない怒りをぶつけたい。


「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!! このクソ狼ッ! 舐めプして呆気なく逃げられた雑魚! 捕食者のくせして燃やすしか能がない芸もない貧弱哺乳類! 起きた事象も理解せず思考停止する脳がダチョウッ! バーカバーカっー! ペリカンに丸呑みされろォ!」


コメント

・草

・バチクソ煽ってるやんけ

・ここぞとばかりに欠点のある動物で煽ってる……w

・意味分からんくてもキレるやろ、これはwww

・《ARAGAMI》君、好き

・世界2位にラブコールされとるwww

・《ユキカゼ》世迷くんは僕のです

・なんで張り合っとんねんw


 なんか少し鬱憤晴らしてる間にユキカゼさんから所有物アピールされてる。アラガミさんは……なんか結構エンターテイメント気質だよね。


 ──ドガァッ!


「うぇっ、なに!?」


 突如響いた轟音に僕はビクッと体を震わせる。

 音の震源地を恐る恐る見ると……


「ガゥッ!」


「怒ってるよねー、やっぱり」


 狼が顔だけを洞窟の入口に近づけながら低く唸っていた。よく見たらイケメンフェイスじゃん、やだー。

 炎纏ってる時点で減点かな。


 なんて冗談はさておき、さっきの轟音はどうやら狼がキレて火球を放った音のようだった。

 ものの見事に効果無かったみたいだけど。リスナーが言ってた。


コメント

・やっぱキレてんじゃねぇかw

・謝れ

・土下座しろォ!

・被害者が加害者に土下座するという現代社会の闇を詰め込んだ縮図……

・草

・とりあえず標的がいるんだし鑑定しとけば?データ分かれば対処できるかもしれんし


「鑑定……確かにやった方が良さそう」


 鑑定しろ、というコメントはその他にも結構あった。

 レベルと名前が分かったところで対処も何もないと思うんだけど……まあ、そこは有識者に任せようかな。


 僕は睨みつけてくる狼を注視して唱える。


「《鑑定》」


 すると、脳内に情報が刻まれる。



ーーー

《ネームドユニークボス個体》

名前 スコル

種族 陽狼ようろう

Lv.1240

ーーー


「うーーーーーーーーん……チート」


 情報を確認して改めて狼の凄まじい強さを感じた。


 その割には舐めプして捕食対象を逃がすポカをやらかしてるけどね。小物臭がすんごい。


「えーとね、ネームドユニークボス個体? の名前がスコル。種族が……なんて読むんだろ。太陽の陽に狼。レベルが1240らしい。ハハッ」


 思わず乾いた笑みを披露してしまう。

 

コメント

・ね、ネームドユニークボス個体だってぇ!?

・その反応は知らんやつや

・ネームドとユニークとボス、それぞれは知ってるけど複合してるのは知らんな

・全て強い

・五十階層のモンスターのレベルが平均68でしょ?ヤバいやん

・どう足掻いても勝ち目ゼロなんだよなぁ

・《ARAGAMI》やはりこの500階層はフィールド全体がボス部屋になっているようだ。つまり──その狼を討伐しない限り出ることは叶わない

・\(^o^)/

・\(^o^)/

・\(^o^)/


 \(^o^)/


 終わったじゃん。完全に。


 有用な情報いつもありがとね、アラガミさん。

 それはそれとして同時に絶望を突きつけてくれてありがとねぇぇ!!


「よし、寝るか」



コメント

・現実逃避するな

・したくもなるだろうよw

・逃げんなw

・レベル2の新人冒険者vsレベル1240の明らかに強そうな狼……ファイッ!

・目に見えた結果にちびりそう

・ファイッの土俵にすら立てない件

・《ユキカゼ》絶対助けに行くから


 僕が疲れとその他諸々で意識を飛ばす中で、僕は最後にユキカゼさんのコメントを見て視界が黒に染まった。


 

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