第12話 新島悟志



 転移で宿屋まで戻ったあと、窓から高速飛行で外に飛び出した。


 世界地図の機能であるマーカーを調べながら飛ぶと、高級そうな宿屋から反応があった。



「あいつ、こんな高級宿に泊まっているのか?煽てられていい気になってたし、稼ぎもいいんだろうな」



 部屋の窓から、解錠スキルで侵入に成功。酔っ払ってグースカ寝ている新島を叩き起こした。


「おい、起きろ。新島、起きろよ」


「う~ん、もう飲めないよ٠٠٠」


 埒が明かないと思い、水魔法の解毒でアルコールを抜いた。直後に水魔法の給水ウォーターで頭から水を被せた。



「ぶ、ぶはぁ!なんだ?なんだぁ?」


「お?起きたか?新島」



 風魔法の温風で乾燥させながら話し掛けた。



「俺はクラスメイトの赤城だ。お前を日本に帰す為に迎えに来たんだ。もう夢の時間は終わりだぞ」


「は?赤城?あの、女神様に辺境に送られた卑怯者の?」


「誰が卑怯者だ!あれは女神が俺をハメただけだ。言っても信じないだろうがな。それよりも日本に帰りたくないのか?」



 突然の状況に、胡散臭そうにジロジロとこちらを見てきた。何かを思い付いたのか、馬鹿にするような視線を向けてきた。


「お前が俺を日本に帰すだって?はっ!笑わせんなよ。クラスでも陰キャだったお前がか?俺は斧聖だぞ?お前とは身分が違うんだよ!それと口の利き方に気を付けろよ?何をタメ語で喋ってんだよテメー」


 どうやら素面でも酔っ払った状態でも、傲慢な態度は変わらないみたいだ。急に力を持ったことで、調子に乗ったパターンってやつだな。


「同級生にタメ語で話して悪いのかよ?力を持って調子に乗るのはいいけど、陰キャだなんだと言われる筋合いは無い。どうでもいいが、お前は日本に帰りたくないってことでいいか?」


 ちょっとムカついたので、喧嘩腰に煽り返したら、ベッドの横にあった斧を担いで威嚇してきた。


「٠٠٠テメー死んだぞ?斧聖の俺様に対して舐めた口を利いたんだ。腕の一本は覚悟してもらうからな!」


 そう言うと、斧を俺に向けて袈裟懸けに斬りかかる。いや、それ腕の一本どころか普通に死ぬよね?殺す気か?頭沸いてんのか、こいつ。


 軽く体を引いて躱すと、今度は斬り上げてきたので、それも一歩下がって躱した。その時に壁を破壊してたけど、後でこいつに弁償させようと思った。



「ほらほら!逃げてばかりじゃねーか!どうした?最弱職のお前には真似できないだろ!オラァ!」



 新島は床や壁や家具を破壊しながら、嬉々として斧を振り回す。鑑定をすると、確かに斧聖の職業とスキルを持っている。しかし、レベル差が大きいのか遅く感じる。


 力の差を解らせた方が早いと思い、斧を横から殴りつけてみたら、粉々に砕け散った。


「な!なんだそれ!ず、ずるいぞお前!」


「何がズルいんだ?斧が砕けたら斧聖も終いだな。で、どうする?俺の話を聞くか?ん?」



 部屋の外から人の足音が集まってきた。新島が散々暴れたからだろう。ここで騒がれるのは良くないので、急いで装備や金を全部ストレージに回収。怯える新島を連れて街の外に転移した。


「ここなら邪魔も入らないな」


「お、お前、いや、赤城。俺をどうするつもりだ?いや、ですか?」


 急に手のひらを返したような口調になった。小者臭バリバリの新島は、このまま帰すと、ろくなことをしないだろう。然るべき処置が必要だと感じたので、雷魔法の麻痺をかけた。


「あががっ!じ、じび、れ、だ٠٠٠」


「いいか?お前はこの異世界に毒され過ぎて、少々危険だと判断した。よって今からお前の力を消すから。スキル強制消去!」


「や、やめ٠٠٠」



 新島の言葉を聞くことなく、新島の頭に手を置いてスキル強制消去を発動した。これは危険な思考、もしくは行為をしたクラスメイトがいた場合の、対処法として作ったスキルだ。


 効果は名前の通りで、対象のスキルを強制的に消去できる。


 誰しも力を持ったら試してみたいとか、復讐してやるとか、色々とやってみたくなるもんだ。


 そのような連中の中でも、常識外れなヤツが、一定数は必ず存在するものだ。そんなヤツを日本にそのまま帰すとか危険過ぎる。なので今回は新島がそれに該当したとして、スキルを消したのである。



「更に、『レベルリセットドリンク』を飲ませてあげよう。ほら、あーんして」


「あがぼ、がぼぼ!」


 体が麻痺しているので中々に飲みにくそうだったが、強引に鼻を摘まんで飲ませた。


 このレベルリセットドリンクは、レベル100ドリンク等を作った時に、併せて作った飲み物である。高いステータスも危険なので、こういう処置をしておかないといけない。



「これでお前はレベル1になった。スキルも無い。ステータスを確認したらわかるだろ?もう平和な日本に帰れ。普通の日常に戻れ。お前にも心配してくれる人がいるんだろ?解ったら頷けよ。それぐらいは出来るだろ?」



 新島は恐怖を感じたのか、必死に顔を縦に振っている。これなら後は話を擦り合わせて帰せば大丈夫だろう。


「じゃあ日本に帰ろうか。次元空間魔法『次元転移』」





 光に包まれたあと、日本にある我が家の部屋に転移した。新島は俺の部屋を見て、帰ってきたのを確認するかのように、キョロキョロしていた。


 光魔法の状態回復をかけて、麻痺を治してやった。動けるようになった新島は、手をグッパと握り、体の感触を確かめていた。



「ここは日本の俺の部屋だ。明日の朝、お前を家に帰すからな。今日は泊まってもらうけど、妙な気は起こすなよ?」


「わ、わかってるよ。お前には逆らわないから」


「それならいいよ。一応、服はこちらで用意してあるから。それと、話を合わせてもらうぞ」


「話を合わせる?どういう意味だ?」



 新島に現在の状況を簡単に説明した。大事件になってるので、記憶が無いで押し通すように強く言い含めた。


 新島は「インタビューに応えちゃダメなのか?」とか、アホなことを言ってたから呆れてしまう。



 クラスメイトの中には、秘密に出来ないヤツも出てくるだろう。けどその時は仕方ないと考えている。


 仮にクラスメイト全員が同じ証言をしたところで、異世界に行ってたと発言しても、集団催眠とか洗脳を疑われるだけだ。頭がおかしくなったと思われるだろう。



 新島との話を打ち合わせ終わったので、さっさと寝ることにした。敵対してきた新島と、これ以上話すことは何も無いしな。ちなみに結界魔法で結界を張ってから寝たよ。





 翌朝、制服に着替えた新島を家の前まで送った。家族と再会しても、新島は「大袈裟だなぁ」としか言ってなかった。


 母親は泣いていたのに、親の心子知らずとは、この事かと思った。



 新島には先に帰ったクラスメイトの事は何も話していない。余計な事をしそうな気がしたからだ。これから先も第二、第三の新島が現れそうで気分が滅入りそうになった。


 そういえばと気付いた事がある。



「あ、演技スキル渡してないや。まぁ渡しても悪用しそうだからいいか。それにしても今回は大変だったな。本当に記憶を消した方が良かったのかもしれないな。٠٠٠作るか?いや、けど倫理的にダメだろ。いや、しかし٠٠٠」



 今後の為に、記憶消去のスキルを作ろうかと悩む。小一時間悩んだ末に、その時に決めようということにした。



 そして異世界テラフィアにまた転移していった。





以下、新島悟志のステータス



サトシ・ニイジマ


人族 16歳 男性


職業 斧聖


LV 32→1


HP 1580→180

MP 210→50



力  220→50

体力 220→50

速さ 105→20

知力 38→10

精神 110→30

魔力 210→50

運  260→100


スキル



称号

女神の戦士、元斧聖



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