第33話 唱えよ! 神聖魔法「ホーリー・ライト」!

「GwoaGH!」


 漆黒の巨人は洞窟の壁に叩きつけられて、地面に倒れた。

 その背中にWO-2の雷撃がつるべ打ちで突き刺さる。


 苦痛に身を捩りながら巨人が上半身を起すと、WO-9が飛び込み、魔人の上あごと下あごに両手を掛けた。


(オーバードライブ2!)


 10倍の加速で動かされる腕が、巨人の口を上下に引き裂いた。


「WoaaaAA!」


 暴れる腕をOD2で掻い潜り、WO-9は巨人の肩にまたがった。


「これでも食らえ・・・!」


 右手のレイガンを巨人の口深く突き入れると、脳髄に向かって極大レーザーを浴びせた。


「BoaAAA!」


 レーザーは脳を焼き切って、後頭部から天井に向かって突き抜けた。


 どさりと力を失って巨人が倒れ伏した。


「ひゅー。やっと終わったか?」


 空から降りたWO-2が肩を竦めた。


「ブラスト、それはフラグという奴だよ。念には念を入れて置こう」


 WO-9はレーザー・メスの要領でレイガンを使うと、背中の切り口から手を突っ込み巨人の魔核を取り出した。


「これさえ外してしまえば、復活することもないだろうさ」


 WO-9は魔核を見せながら、WO-2の許に歩いて来た。


「へっ、甘いぜ、スバル。念を入れるってのはこういうことだ。『白熱流』!」


 まばゆい城に光り輝く溶岩が、波のように巨人目掛けて押し寄せた。魔核と共に魔力の抜けた巨人の体は、瞬く間に炎を上げて溶岩に飲み込まれてしまった。


「魔力さえ無くなれば、こんなもんさ。ごみの焼却より簡単だぜ」


 魔人やこの巨人の異常なまでの防御力は、体に魔力を帯びさせてのものであった。同じように魔力を制御できるようになり、ロマーニに伝わる魔法術をミレイユの記憶から得たアンジェリカがWO-2にその事実を教えていた。


「くくく……。そのような獣を倒して楽しいか? 虫けらども」


 気配すら悟らせず、黒い円陣から姿を現したのは人間と大きさの変わらぬ人型の存在であった。


「お前は何だ? こいつら魔物の仲間か?」

「ふははは……。無礼な。獣と我を一緒にするな!」


 一見人と形の変わらぬその存在は衣服を身に纏い、顔の色が青かった。


「我はその昔『魔王』と呼ばれた存在だ」

「魔王だと?」


<待て、スバル。こいつはなぜロマーニ語を使えるんだ?>

<ここで戦った冒険者から読み取ったのかもしれない。それとも過去にもこの世界とつながっていたことがあるのか……?>


「お前たちはこの国に何をしに来た?」

「愚問だな」


 心底興味がないというように、「魔王」と名乗った存在は吐き捨てた。


「そこに生命があれば滅ぼすに決まっている。それが我らの目的であるがゆえに」

「なぜ滅ぼす? 人間がお前たちに何をした?」

「目的に理由などいらぬ。我らは滅ぼすために作られた。それだけのこと」


「お前たちの目的が滅ぼすことであるならば、ボクたちは守るために作られた」

「守る? 脆弱な人間どもをか?」

「守ることに理由など要らない。弱い者こそ守ってくれる誰かを必要としているんだ」


「下らんな。どうせ滅びて行くものを……」

「それを決めるのはお前じゃない。人間自身だ」


「ふん」


 鼻を鳴らして魔王は1歩前に出た。


「我は破壊者にして命を刈り取る者。お前たちもここで滅びよ」


 じん、と空気が震えた。


「ううっ!」

「ぐぅっ!」


 WO-9とWO-2は頭を抱えて唸った。肉体的な苦痛ではない。精神を捻じ曲げようとする強力な意思の圧力を脳内に感じたのだ。


<精神波攻撃を検知。ナノマシンによるシールド展開>

<ブラスト! 対精神魔法「ホーリーライト」を使って!>


「ぐっ!」


<ブラスト! 魔法で防御するんだ!>


 WO-9はアンジェリカが制御する体内のナノマシンによって精神波攻撃から守られた。


<ブラスト、魔法を使え! ホーリー・ライトだ>


 叫びながら、WO-9はレイガンを引き抜き魔王を撃った。

 だが、魔王は黒くぼやけて姿を消した。


(糞っ! 瞬間移動か!)


 WO-9はWO-2を抱きかかえ、OD2でその場から移動する。


「うっ……」


 腕の中のWO-2が頭を振った。


「ブラスト、気が付いたか?」

「スバル、オレは一体……?」

「アイツの精神波攻撃だ。ホーリー・ライトの魔法を掛け続けるんだ」


「やれるな? ブラスト」


「もちろんだ!」


 WO-2はWO-9の肩を2度叩くと、体を起こして自らの足で立った。すぐに空中へと飛び立つ。


<WO-9、さっきの場所へ戻って! 魔核よ。魔核が必要なの!>

<それは……? わかった。>


 擬似瞬間移動で現れては消える魔王をあるいは躱し、あるいはレイガンを浴びせながら、巨人を倒した場所へと移動する。そこには地面に転がしたままの魔核が残っているはずだ。


 WO-9が魔王の擬似瞬間移動に反応できるように、魔王もまたOD2のスピードに反応することができる。ぎりぎりの競り合いが2人の間で展開されていた。


 WO-9が動いていられるのは、時折WO-2が空中から繰り出す魔法によるけん制のおかげであった。魔王といえどもWO-2が繰り出す術式の最適化された攻撃魔法を受け続ければ、そのダメージに長くは耐えられないのだ。


 回避に魔王が動くたびに、WO-9は貴重な1秒を得る。自由に動ける黄金の時間であった。


 ついにWO-9は緑色に輝く魔核をその手に拾い上げた。


<これをどうすれば良いんだ?>

<とにかく手離さないで!>

<わかった!>


 WO-9はアンジェリカの言葉を受け入れ、それが勝利へのカギだと信じることにした。

 防護服の襟元を寛げ、胸の中央の位置に魔核を押し込んだ。


<こうすれば無くさないよ>

<不格好だけど、それで良いわ>


 アンジェリカの脳波通信には確かな自信が満ちていた。


<これで形成逆転よ。唱えなさい、ホーリー・ライト!>

<何だと……>


 当惑しながらもWO-9はその名を唱えた。


「ホーリー・ライト!」


 WO-9を中心に聖なる青い光が洞窟内を照らし出した。邪悪な闇を押しのけ、不浄なるものを隅々まで浄化していく。


「ぐぉおおお! 今の世に、賢者クラスの神聖魔法を使う者がいたとは……」


 魔王は眩しさに顔をしかめながらよろめいた。神聖魔法の聖なる光は、浴びるだけで魔王の命を削り取って行く。


「ぬおおおお……。小癪な!」


 魔王は両手から灼熱の火炎弾を連続発射した。


 WO-9はOD2でジグザグに後退し、火炎弾をすべて回避した。

 これを見て上空からWO-2が支援の弾幕を張る。


 火炎弾攻撃に集中していた魔王は反応が遅れ、2発直撃を受けてしまった。


「GrrrrggGh!」


 上半身を焼かれた魔王は少なからぬダメージを受け、自動回復の魔法を己に掛けながら回避行動を取った。


(チャンスだ!)


 体勢を立て直したWO-9はレイガンを撃ち込みながら、魔王に急速接近した。


「ホーリー・ライト!」


 魔王が火炎弾を撃ち込もうと手を上げたタイミングで、WO-9は再び聖なる光を放射した。


「ぐわっ!」


 至近距離からの神聖魔法を受け、魔王の全身が炎を上げる。全身から魔力が霧散していた。


(ここだっ!)


「食らえっ!」


 WO-9はOD2でオーバードライブしたレーザーを至近距離から魔人に浴びせ、その両腕を焼き切った。


「そしてチェックメイトだ!」


 WO-9のレイガンから放たれたレーザーは魔王の首を焼き切り、後方に抜けた。

 ごろりと魔王の首が後ろに落ちる。


 力を失って、魔王の体が前方に倒れた。


「こいつで最後……」

<スバル、まだよ!>


 戦いの終わりを告げようとしたWO-9の胸に魔王の首があった傷口から真っ赤な触手が伸びた。思わずのけ反るWO-9を逃さず、目があるように触手が追い掛け、その胸を正面から貫いた。


「スバル!」


「ぐっ!」


 防護服の中に納めてあった魔核を掴み取り、魔王の触手はWO-9の胸を突き破っていた。WO-9の背後で魔王の触手は魔核を粉々に破壊した。

 ずるずると肩の間の傷口から魔王の新しい首が生えだす。触手はその口から吐き出されていた。

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