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それから数日後の事。じん澄香すみかの週刊誌の報道は、いよいよもって疑われ始めていた。

仁はとあるラジオにゲスト出演した際、今回の報道について自ら発言し、澄香の事は仲の良い友人で、あれは酔って足が縺れたせいだと、逆にこんな報道になるなんて驚いてるんですと、明るく笑いを誘って弁明した。ラジオのDJもその話に特に突っ込む事なく、笑い話として扱ってくれており、その時はこのままフェードアウトしていくと思われたが、後日、写真を撮られた時の様子が動画となってネットにアップされた。

写真や記事だけでは信じなかった人達も、動画を見れば、疑問を持たざるを得なかったようだ。


その動画には、仁が自分と壁の間に澄香を閉じ込めた様子がはっきりと映っていた。澄香も仁も、しっかりと歩いており、とても酒に酔っているとは思えず、仁も意図を持って澄香の手を引いているのが分かる。

澄香の顔に目隠しはしてあるが、その動画を見れば、写真で気づかなかった人達も、これは澄香ではないかと、疑いを持つ人が出てきてもおかしくなかった。


そのせいか、澄香が働く“のきした”にも、動画を見た客が数名訪れていた。親しい常連客は、記事の内容を鵜呑みにはしていない様子だったが、その他のお客さんや、隣の劇場のスタッフ等、親しくなくても澄香を知ってる人物は近くに居るし、噂は広がるものだ。


公一きみいちは澄香を心配し、とりあえず人目につかないよう、澄香にも出来る厨房の仕事を回してくれたが、配膳や配達が出来ないのでは、公一の負担が増えるだけだ。澄香は申し訳なく、もどかしい思いだった。


「あいつら、まだいる。店から出てくるの待ってんな」


客が引き、窓から公一が周囲の様子を窺う。店から少し離れた場所には、スマホを持ってこちらに視線をちらちらと向けている人物が数名いる。中には、店で定食を食べて帰った男もいて、彼は澄香の事を尋ねていた。


「…ごめんな、迷惑かけて。俺、行くよ」

「は?今行ったら、あいつらに何か聞かれるぞ」

「しょうがないって、注意しなかった俺も悪いし」

「お前は悪くない!なんでいつもお前ばっかり逃げなきゃなんないんだよ!」


憤慨する公一に、澄香はきょとんとした。それから温かな気持ちが広がり、幾分強ばっていた心が緩んでいくようだ。

自分の代わりに怒ってくれる友がいる、それだけで救われる。


「…公ちゃん、ありがとう」


公一は、澄香の家の事も体質の事も昔から知っていて、それでも友達でいてくれている、仕事だって与えてくれた。本当に、彼が友達で良かったと、澄香は心から思う。


「礼なんて言うなよ。それより、どうする?これ」


公一が照れ臭そうに言って、話題を戻す。確かにこのままでは、澄香は店から出られない。二人して頭を悩ませていると、ふと店の外が騒がしくなった。不思議に思っていると、店のドアが開き、「いらっしゃいませ」と言いかけた口が止まった。


「…え、」


やって来た人物に、二人は揃って間の抜けた声を上げた。そこには、仁がいた。顔を隠す事なく、堂々としている。


「じ、仁、どうして」

「てめえ!何してんだよ!これ以上、澄香に何させようって言うんだ!?」


狼狽える澄香に代わり、公一は仁の胸ぐらを掴みにかかった。突然の事に仁は驚き、側のテーブルに体をぶつけてしまった。


「待ってよ、公一君!俺は、ご飯食べに来ただけだよ」

「は!?」

「“友達”の店に来る事が、そんなに悪い事?」


仁の言葉に、澄香と公一は顔を見合わせた。


「今日は公演が休みで、東京には仕事で戻ったんだ」

「そんな事より、表の奴らどうしたよ!こっちに来るんじゃないか!?」


公一がはっとして窓の外に目をやったが、女性が数名こちらの様子を窺っているだけだ。それは、先程まで店前に居た人物達とは異なり、顔ぶれがすっかり入れ替わっていた。どこか浮き足立った様子でこちらに熱視線を向けている所を見ると、彼女達は仁のファンのように思える。偶然仁を見かけて追いかけてきたのだろうか。


「俺にとって、大事な友達なんだって言ったら分かってくれたよ。どちらかというと、騒ぎ立てたいだけだったんじゃないかな。俺が今言った事ネットにあげて良いからって言ったら、引き下がってくれたし」


「事務所には怒られるかもだけど」と、仁は笑った。


「だ、大丈夫なの?そんなこと言って」

「隠したり誤魔化したりするから、騒ぎが大きくなるんだよな。ラジオでは善かれと思って言ったけど、そもそも俺達、今は何も無い訳だし」


仁は言いながら、気まずい表情を浮かべた。


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