魔力量は人並み以下だけど最強の時空魔法を習得したので運命に抗ってみます
神白ジュン
第1話 人助け
…俺の魔力量やっぱ少なすぎるんだよな
操作技術や知識では到底カバー出来なかった。
都市郊外に追い出されてもう何日経ったか。
もう、遅かれ早かれ来るはずの死を待つだけだった。
ところが、目の前には倒れている少女と獰猛化している魔物の群れ。
まぁ、このまま何もしなきゃ魔物の群れにやられるし、どうにかしたところで魔力枯渇で動けなくなってどのみち死ぬんだよな。
死が確定してる局面で最後に人助け出来るんなら、するべきだよな。
そうすればきっと、来世で豊富な魔力量を持った魔導士でも賢者とかになれるかもな。
多少限界を超えて体がどうにかなろうが、もう関係なかった。
持てる最大限の高威力残滅魔法を襲い掛かっている魔物の群れに打ち込み、同時に少女に怪我がない様に過剰なほどの防御壁を重ねがける。
迷いはなかった、いや、迷うほどの時間は無かったと言った方が正解かもしれない。
どうせいつかは死ぬ運命なのだから。
「全く、自分の力量も顧みず、見ず知らずの人を助けるなんて馬鹿ですか。命が惜しくないのですか?」
身体中が痛くてさっぱり身動きが取れない状態の自分の顔を覗きながら、その少女は言い放った。
「死なれても困ります、人族に助けられた挙句死なれるなんてことは、天使の名を汚してしまいますから。」
(そういえば、俺は人助けをして…というか感謝の一言くらいあっても良いのでは…)
回らない頭の中を必死に整理しながら記憶を思い起こす。
(…ん?今、天使とか言った??ひょっとして、俺、やっぱり死んだ??)
「あれ、思ったより外傷も何も無いですね。早く体を起こしなさい。それとも、この程度で回復魔法が必要ですか?」
その少女は俺の外傷が大したことがないのを知ると、煽り口調の言葉とは裏腹に少し安堵した表情を浮かべた。
このまま寝転んだままでもどうしようも無かったので、気怠い体をなんとか動かし、俺自身と少女の具合を確かめた。
どうやら、俺の防御魔法がうまい具合に働いたおかげで、少女に怪我は全くなかったらしい。襲い掛かっていた魔物たちも、うまく残滅できていたようだった。
その少女は俺のすぐそばに座り込んでいた。
人で言うと10代半ばくらいに見える。だが、艶やかな金髪、汚れを知らなさそうな華奢で美しい手足、笑顔が非常に似合いそうな可愛らしい顔は人間離れしていた。こんな人物が街中に居たらすぐにでもアイドル的存在になっただろう。
「良かった、怪我も何も無いようだな。」
命懸けで守った少女が無傷であることを確認し、胸を撫で下ろした。
「…あなたは、何故危険を顧みず私を助けたのですか?」
少女は、先ほどの威勢は何処へやらといった覇気のない声で尋ねてきた。
「危険も何も、困ってる人がいたら放っておかないタチでな。」
「それでも…」
少女は色々何か言いたげであった。
「まぁ、お互い無事だったんだし、良かったじゃんか!じゃあ俺はもう少し魔力が回復したら、出発するから、天使サマも気をつけ…」
そこまで言ったところで、ガバッと腕を掴まれた。
「外傷は大してなくとも、あなた、重度の魔力枯渇状態ですよ。…それに…天使である私が人間に助けられ、何もお礼もせずに帰るなんて、簡単に出来ません。」
相当必死に言われたので、思わず反射的に驚き手を振り解こうとしてしまった。だがこの天使は頑なに手を離そうとはせず、むしろさらに離すまいと力を込めていた。その手はとても温かく、なんとなく魔力が回復したような気がした。
あれこれ整理すると、どうやら何かしら助けたお礼をくれるらしい。
「こう見えても私は天使界でも随一の魔法使いなのです。先程の高威力残滅魔法と言い、防御結界といい、あなたは魔法使いということでお間違いないですか?」
「はい、そうですが…」
(まぁ、お礼って言っても大体そっち方面だよな)
「今なんか邪な考えしませんでした???」
図星を当てられそうになり思わず目を逸らしそうになる。
「いやいや、何も変なこと考えてないから!」
(この子はエスパーか何かか???)
「とりあえず、私が見たところ魔力量が人並み以下に低いので…私の魔力量をある程度授けようと思うのですが…それで大丈夫ですか?」
喉から手が出るほど欲しかった人並み以上の魔力量。すぐに二つ返事をしそうになったが、この際、ほんの軽いついでだと思い、以前から気になっていた質問を投げかけることにした。
「なぁ、その授けられるものって、特定の魔法とかでもいけるのか?」
ここで質問されるとは思っていなかったのか、彼女は少し驚いた顔をしたが、すぐに返答してきた。
「はい、可能な範囲であれば。」
「本当に…??」
「私を舐めないでくださいますか?」
「魔物に襲われピンチだったのに…?」
「…っ…つよい魔法ほど、時間もかかりますし周囲への影響もありますし…本気を出せばこの一帯吹き飛ばせますからね!!」
子供の様に涙目混じりに頬を赤らめて反論してくる。外見は俺よりもよっぽど子供っぽいじゃないかとつい言いそうになったが、火に油を注いでしまっても仕方ないと思い、すんでのところで言葉を飲み込んだ。
「じゃあ、時空魔法の類で何か使えるものはあるのか?もしあるなら、それが欲しい。」
一瞬、彼女は驚いた顔をしてこちらを凝視した。
だがすぐさまこう言い返した。
「何故、そのような魔法が存在する事を知っているのですか?」
どうやら、この返しから推測するに、この類の魔法がこの世にはあるらしい。
「前に通ってた学院の書庫で少し読んだものでね。やっぱり存在したとは…」
「………存在はします。現に私も使おうと思えば使えはします。ただし……」
「やはり代償は色々と大きいのか?」
彼女はしばらく口籠った後に、こう言った。
「はい。そもそも大前提として生半可な魔法使いでは使いこなせませんし、消費魔力も大きく、それゆえ継承や伝授も必ず成功するとは限りません。」
俺からすれば、それぐらいは覚悟していた。それがなければ、そもそもこんな話は聞いていないし質問すらしていない。
「そして、この魔術を持つ者は、大変貴重とされ、狙われます。実際、あらゆる者達がこの魔法を手に入れようとしたり、術者を味方にしようとしてきました。なにせ、時空を飛び越え、過去や未来の結末を変えることすら可能なのですから。」
「それくらい、無限の可能性があるんだな。」
この時、確信した。あの時、ちっぽけな俺の力ではどうにもならなかった結末を変えることが出来ると。
「私の話聞いてました!!??」
とうとう怒られてしまった。怒った顔も愛嬌が感じられてつい可愛く思ってしまった。
そんなことを思っていると、彼女の顔がだんだん恐ろしく強張っていったので、すぐ謝って、続きを話してもらうことにした。
「そもそも、常人には無理なんです。扱うことすら。貴方は魔法に多少長けているかもしれませんが、魔力量が足りなさすぎます。死にたいのですか?時空魔法ではないにせよ、魔力枯渇がきっかけで死んだ人物を何人も見てきました。あなたには…」
「頼む!!可能性が少しでもあるのなら!俺はどうしても過去を変えたいんだ!
彼女はまだ色々と言いたそうだったが、俺はそれを遮ってまで、頭を地面につけて頼み込んだ。
「たとえこの身が朽ち果てようとも、助けたい人や街があるんだ!!だから……」
「もういいです。分かりました。」
これまでとは違ったキッパリとした物言いに、俺の頭の中は真っ白になってしまった。やはり物事はそんな簡単にいくはずがない。そう思った俺の思考は数秒後、吹き飛ばされた。
「…分かりました。その代わりとして…」
彼女はこれまでにないほどの屈託のない笑顔でこう言った。
「私の罪も、一緒に背負ってもらいますね。」
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