第11話 テスト後のゲームが一番楽しい
「っしゃー! 自由だー!」
結人の右隣で感極まった叫び声が上がる。
つい先程テスト最終日のHRが終わり、教室は出来栄えを確認し合っている者、遊びに行くメンバーを募っている者、とそれまでテストで抑えられていた分いつも以上の活気で満ち溢れていた。
「お疲れ様。どうだった?」
「平均的に七十点越えぐらいだな」
隣で自由を噛み締めている康介に出来栄えを聞けば、想定より高めの点数が返ってくる。
「へえ。テスト勉強は、ちゃんとしたんだな」
「テスト勉強は、ってなんだよ」
「いや、お前普段課題とかやってねえだろ。……にしても普段からやってればもっと良い点取れただろうに勿体無い」
意外にもできるらしい康介なら、普段から真面目に取り組めばさらに上を目指せるだろう。そう思って言ったのだが康介は「必要以上はやらない主義なんでね」と澄ました顔をしている。
七十点というボーダーは学校側が生徒にとるよう求めている到達ラインだった。
(……さてはこいつ、やろうと思えばなんでもある程度はこなせるタイプだな)
体育の球技でも運動神経を遺憾なく発揮して周りから上手いと言われる部類に入っていたし、普段の授業中は寝てたり気怠げそうにしているのにテストでは現にしっかり必要な点数を取ってきている。
得意なことには全力で、苦手なことでも必要があらばある程度は仕上げてくる。康介はそういうタイプの人間なのだろう。
ちなみに自己採点の結果結人は全教科が九割を超えていたりするが、自慢げに語ることでもないので聞かれたりしない限りは黙っているつもりでいる。
「ま、お前がそれでいいならいいけど。んで、今日は帰って例のゲームをやるんだよな?」
テスト期間とリリース日時が被っていて手を付けられなかった新作のゲーム。テストが終わったら二人でやろうという話を結人と康介は事前にしていた。
「おう! 無事テストも終わったわけだし、早く帰ってぱーっと遊びますか!」
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というわけでそれぞれ自宅に帰って雑務を終わらせた後、通話を繋いで早速ゲームをはじめてから早数時間が経っていた。
「おい! 敵の足が早すぎて弾当たんねえって!」
「じゃあ俺みたいに止まって狙撃したら?」
「じっとしてるくらいなら戦場を暴れ回ってる方がマシだわ」
「そうかよ。……っと、一人やった」
「っしゃ! こっちも一人やりー!」
二人がプレイしているゲームはジャンルでいうと一般的に"FPS”と言われている類のものだ。
主に銃火器などを使って敵を撃ち倒すことを楽しむ目的としていて、このゲームではいろんな種類の銃器とカスタムパーツをもとに自分好みの武器をカスタマイズすることができる。
数年続く人気シリーズの新作で前作から引き続き遊べるゲームモードが十種類近くあり、今作から新たに追加されたモードもいくつかあった。
今結人たちがやっているのはドミネーション、いわゆる陣取り合戦だ。
三つのエリアを取り合うルールで、エリアを占拠している間は占拠しているチームにポイントが入り、先にポイントの上限に達したチームが勝つ。なのでより多くエリアを取るのがこのルールのミソなのだが、大体が接戦になる。なぜなら自陣付近のエリアを互いのチームが確保した後、中央の大きなエリアを取り合う形になるからだ。
「うわっ! 横から回り込まれてる!」
「どうやって取り返そう……」
結人たちのチームは劣勢に陥っていた。
先程相手に中央のエリアを奪われてしまい、尚且つ相手チームのポイントが上限の七割を超えてきていてエリアを取り返さなければ負けてしまうという状況だった。
「またやられた……」
「ヤバいな……このままじゃ負けちまうぞ」
必死に抗戦してはいるのだが、相手の守りが固くてエリアに入る前にやられてしまう。一人倒せてもその後ろにいる敵にやられてしまうのでなかなか突破するのは厳しく、そうしている間も相手チームは着々とポイントを増やしていた。
なんとか打開の策を考えなければと頭を使っていたのだが、先に案を出してきたのは康介の方だった。
「そうだ、俺がスモーク炊いてエリアに突っ込むから狙撃でカバーしてよ」
「……あー、なるほどね。一回拠点戻るから時間かかるよ」
一度自チームの拠点に戻ってほんの少しだけ武器のカスタマイズを変更する。
康介が中央のエリアである、開けた広場の手前に位置する市街地に隠れているのを確認して、結人は市街地から広場までを広く見渡せる付近で一番高い建物に向かった。
「時間ねえから急げよー」
「分かってるって」
建物に入って階段を駆け上がる。屋上に辿り着いて伏せればこちらも準備完了だ。
「どぞ。いつでも援護できる」
「っしゃいくぜ!」
康介は物陰から広場に向かって煙幕を放った。すぐに広場が煙で包まれて、康介はその煙の中に散弾銃を携えて突っ込んで行く。それと同時に結人は狙撃銃を構えてスコープで煙の中を覗いた。
熱を検知できる特殊なスコープ。赤色で敵を強調表示してくれる優れものだ。そして、それはもちろん煙越しでも効果を発揮する。一度拠点に戻ったのはスコープをこれに付け替えるためだった。
近くの敵は康介自らが散弾銃で倒し、結人は煙に侵入してきた敵を狙撃して康介を援護する。
康介の作戦はこちらの戦いやすいように戦場をメイキングするもので、実際にやってみて賢い戦い方だな、と結人は感心した。
「いいねえ。分かってるじゃないの」
次第に味方も康介の作戦を察したのか、エリア付近の視界をクリアにさせないよう煙幕を投げ始めた。
ただ、敵も黙って見ているわけがなく、エリアをとられまいと煙幕の中に入って阻止しようとしてくる。煙幕対策に手榴弾も投げられているらしく、辺りには爆発音が何度も響き渡った。
「康介後ろ!」
結人は煙幕の中で康介の背後に近づく赤い人影に素早く照準を合わせて引き金を引く。
消音器で抑えられたパシュッという音と共に発射された銃弾が一撃で敵を屠っていった。
「おわっ! あぶねっ。リロード中だったから助かったわ」
「康介! 正面から三人来る! ……一人やった。わお、ダブルキルか。やるね」
「へへっ。前線はショットガンに任せんしゃい!」
康介の使っているダブルバレルショットガンは近距離で当てれば一撃必殺の威力を誇るが、装填できる弾数が二発と心許無く慣れていないと扱えない代物だ。
それなのにしっかり二発で二人倒してみせるのは凄いという他ない。もはや職人技の域だった。
「ナイスエリア奪取!このまま維持すればギリ勝てるぞ」
「だからって調子乗ってカバーできないとこに行くなよー」
「イエッサー!」
なんとかエリアを取り返してそのまま流れを維持してエリアを守り続けると、数分して画面にバトル終了のテロップが出てくる。
青色の勝利という文字を見て、安堵と遅れて湧いてくる疲れに結人は息を吐いた。
リザルト画面に表示されたポイントの差は本当に僅かで、10秒でも相手にエリアをとられていたら負けていた。
「いやー、あちい戦いだったわ」
「いい作戦だったな。完全にあれで流れが変わった」
「だろ? 今度からエリア取る時はこの作戦で行こうぜ。あー、それと俺トイレ行ってくるわ。実は結構我慢してた」
「ん、余韻に浸ってきな」
「おう。そうさせてもらうわ」
康介を待っている間、背中が丸まっている気がして結人は姿勢を整える。ぐっと両腕を上げて伸びをするといい感じに体がほぐれた。それから暇ついでに時間を確認しようと傍に置いてあったスマホを起動してロック画面を眺める。
スマホのロック画面には通話を始めてから三時間近く経った時間が表示されていて、時間の流れる速さに結人は軽く驚かされる。
だがそれ以上に結人を驚かした、というより焦らせたのは時刻の下に表示された新着メッセージだった。
『七時ぐらいに来てください』
プレビュー画面でも読み切れる短いメッセージ。送り主は涼音で、送信時間はつい先程。
「あぶね、そうだった」
ゲームの展開に興奮して忘れかけていたが、今日結人は涼音と夕食を食べる約束をしていた。それも今回は二回目で、涼音が言っていた通りなら前よりもしっかり手間がかけられているらしいのだから期待してしまう。
「次のバトルに行ってたら確実に遅れてたな。今気づけてよかった……」
独り言をこぼすと同時にヘッドホンの向こうから椅子の軋む音が聞こえてきた。康介が帰ってきたようだ。
「ただまー。どした? なんかあった?」
独り言が微かに聞こえていたのだろう。こちらを気にかけてくる康介の声が聞こえてくる。
「ごめん康介、俺この後予定入ってたわ」
「……は? この時間から? 外食かなんか?」
「よく分かったな。そう、だから残念だけど俺はここらへんで」
結人が一人暮らしであることを知らない康介は外食と聞いて家族との外食を想像しているだろう。まさかあの涼音との約束だなんて全く知る由もないのだから。
「じゃあしゃーないか。また今度やろうぜ」
「ん、やれるときはこっちから連絡するよ。じゃ、お疲れ様」
「うーい。結人もお疲れさん」
康介との通話を切ってヘッドホンを外した後、結人は身だしなみを整えるために洗面所へ向かった。
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