第29話:友成冬凛
わたしは――ずっと探していた。
両親は家の都合で結婚したらしく、子供であるわたしに関心がなかった。家に帰ることはまれで、それぞれ愛人を連れ込んで来た日もあったと記憶している。
学校生活に良い思い出はない。人付き合いがほとんどなかったわたしは、同級生への接し方が分からなかった。必死に本を読んだり、調べたりして接し方を学んだけど、その頃にはわたしが入れるスペースなんて残されていなかった。
高校での帰り道、わたしはトラックに轢かれる。目が覚めたら知らない世界へ飛ばされていて、ファンタジー世界を知らなかったせいもあり、とても戸惑ったのを覚えている。
そして、彼らと出会った。
出会ってしまった。
最初は最悪だと思ったな。別の世界にやって来れて、今までを捨てて生まれ変わろう と思っていたのに、なんではめられなきゃいけないのって。雇ってくれなかったら、本気で死のうとしていた。
けど……彼らと過ごしていて……どんどん気持ちが変化した。
毎日が本当に……楽しかった。
そして嬉しかったんだ。
ようやく居場所が見つかったんだって。
人生で初めて、生きててよかったと思えた。
――だから絶対に奪わせない。
どんなに険しい道だったとしてもっ‼
わたしは選んだんだっ‼
「はああぁぁぁぁ‼」
今なお戦闘を継続しているルナティの元へ走る。しかし結構遠くで戦っているせいで、追い付くには時間が掛かりそう。
……っ、そうだっ‼
わたしには、わたしにかできない特別な方法があるっ‼
チートをイメージし、発現させる。光の球が集まり、手からローションが勢いよく溢れ出す。ヌメヌメする感覚にはいつまで経っても慣れないな。それでも役に立ってくれる‼
走ったまま前かがみになって、手を前に出す。するとローションが足の前に垂れて、カーリングみたいに滑りだした。
ガンナーに教えてもらった、ローションを垂らし続けながら走り滑る滑走法。これなら早く接近できるっ‼
「……っ、ふゆりんっ!?」
ルナティがわたしに気づいたみたい。作戦にない行動だから驚いているのかな。釣られて鎧の人もわたしの方を見てきた。
まあ驚くよね。光っている人間が滑りながら近づいてきたんだもん。けどわたしは止まらない。絶対に成功してみせるんだっ‼
「変なの……また来た」
鎧の人はルナティと戦いながら、浮いている大剣をこちらへ飛ばしてきた。直撃されることはない。このまま進もう……と思っていたら、大剣は途中で動きを止めて上昇し始めた。謎の行動に疑問は残るが止まってはいられない。そのまま滑って鎧の人へ近づいて行き、大剣付近まで接近した時だった。
「ドボン……」
浮いていた大剣はあろうことか、宇宙から降ってきた隕石のように、力強く真下の地面へ突き刺さる。急に真ん前に大剣が現れたので、ぶつかる前に急いで滑るのをやめる。
咄嗟の判断が間に合って大剣寸前で停止することに成功し、ほっとしたのも束の間。突き刺さった衝撃で地面が盛り上がり、土が津波のように舞い上がってわたしに襲い掛かってきた。
このままじゃ飲み込まれてしまう!
「わたしは……止まらないっ‼」
ローションを更に捻出し、自分自身を包み込むよう扇状に飛ばした。
その名もローションの壁‼
やらないよりはマシなはずっ‼
その上で蹲り土の波に耐える。足が取られて流されそうになるのを根性で我慢し、なんとか耐えることに成功した。……全身土とローションまみれになったけど。
ともかく防御には成功した! 再び走り出しながらローションを垂らして滑り出すわたし。
「……おかしいよ……君たち」
「それはっ……誉め言葉ですかっ!?」
「違うっ……‼」
「おい、無駄話している余裕はあるのか?」
そう言いながらルナティが攻勢の意思を見せた。しかし傷が深いのか、見るからに苦しそうだ。剣の捌きも心なしか鈍くなっている気がするし、大剣一本だけで押されていることに変わりはない。
「無駄話……? それは……こっちの台詞っ……」
どうやらまた大剣でなにかしようとしてるみたいで、再び宙に大剣が舞い上がった。同じように地面へ突き刺すのだろうか。なにをするにしても進む以外選択肢はないけど、わたしの力だけで攻撃に対処できるかは心配だな。
……いいや、駄目‼ 自分自身を信じなくてどうするのっ‼ 居場所を守る為、わたしは進むんだっ‼
「……風車」
大剣はわたしの進行ルートに塞がって、くるくると回転しだした。なにをしているんだろう、構わず近づくと、大剣がより早く回りだし、突風が吹きだす。
台風の日の風みたいに強烈な風がわたしを襲い、ローションの上だったせいでくる
りんと転んでしまった。
必死に膝と手をついて風に抵抗するけど、抵抗するのが限界で前に進めないっ‼
「ガハッ‼」
視線の先ではルナティが両膝をついて崩れ落ちていた。それに対し鎧の人は両足で立っている。このままじゃルナティが危ないっ‼ ……けど、
「わたしの力じゃ……どうにも……」
諦めたくないのに……どうしようもできないっ……。わたしの決意はこんなところで終わってしまうの……?
「――諦めんじゃねぇ‼」
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