第12話:起源祭


 ――バンッ‼×2 ←クラッカーが破裂する音。



「「「おめでとうございまーす‼」」」


 俺たち三人の声が家の中に響く。


 壁にはテープや風船が装飾としてつけられていて、テーブルの上には多種多様で美味しそうな料理が並べられてる。家の中は祝い事の為に飾りつけられていた。


「素敵な演出だわー♡」


 家主である奥さんが声を掛けてきた。喜んでくれているらしい。


「ありがとうございますっ‼」


「まさかチートを使って起源祭を盛り上げるなんて、最近の若い子の発想には驚かされるわー。旦那も大喜びよ、ねぇ?」


「ハイ、スゴイヨカッタデス」


 旦那、と呼ばれたなにかは、テープで席に拘束されたまま、ロボットのように片言で返事してきた。


「旦那さんは体調が悪いのではないのか?」


「大丈夫よ! いつもこんな感じだからっ! 言うことをきかせ続けたらこうなっちゃっただけだから♡」


 全然大丈夫じゃねぇ。旦那さん尻に敷かれ過ぎて人格失いかけてんじゃねぇか。

だとしても俺たちは媚び続ける。


「喜んでもらえたのならなによりですぅー。ただ、少しだけ食事か金を頂けると……」


「どうぞどうぞ。沢山あるからジャンジャン食べてー♡」


「「「はーい」」」


 許しを得たので、即座に飯へ飛びつく。


 うめぇ……うめぇよ……。


 なんで飯ってこんなに美味いんだろう(哲学)。


 今ならこの世の全てに感謝できそうだ。


 俺の作戦は全て上手くいっている。このまま継続できるなら、俺たちは一夜にして億万長者になれるかもしれない!


「なんでこうなっているのか全然分かりませんが、食事にありつけているのでなんでもいいですっ!」


「この肉いい肉だな……どのように屠殺したらこんなに美味しくなるのだろうか……」


 二人もご満悦のようだ。


 人生って楽勝だなっ‼


「……あ、そういえば今何時ですか?」


「えーとねぇ、十二時ニ十分くらいかしら」


「……時間がねぇ‼」


「えっ!? 急に立ち上がってどうしたんですか!?」


「行くぞお前らっ‼ 次の家だ‼」


 食事に夢中で長居(ニ十分)してしまったようだ。ルナティとふゆりんに 催促をしていると、奥さんが寂しそうな顔をしてくる。


「もう行っちゃうの? ゆっくりしていけばいいのに」


「お気持ちはありがたいのですが、私たちはこの街全ての家に幸せを届けたいのです」


「ここまでだと清々しいですね……」


 うるせぇ口だな、これ以上余計なことを言われないようにそそくさと家を出た。


「まだっ……食べ足りっ……ないんですがっ……」


 口にパンパンの料理を詰め込んだふゆりん。空気砲のように両頬叩いてやろうか。


「いいか? 俺たちには時間がないんだ。次の予定が迫っている」


「説明求」


「コイツ、同じ質問のし過ぎで、遂に簡略化しやがった」


 意味は分かるけど略されて言われるとムカつく。言葉をなんでも略せばいいってもんじゃないと思いまーす。


 これから先も言われ続けるのは面倒だな。いい加減説明してやるか。


「俺たちは金や食事が必要だ。けど手持ちはなく、食材も枯渇してしまった」


「はい。だから見世物……という嫌な選択をしなければならないと思ってました」


「そうだな。不良品チートをふゆりんに使ってもらい、観衆を楽しませて金をもらう。この筋書きを遂行してもらうつもりだったんだが、今日がとある日ってことに気がついてしまった」


 俺は少し溜めて口を開く。


「――『起源祭』。俺たちの国――『バスティヨン』に伝わる、一年に一度国全体で行われる伝統的な祭りだ」


「……わたしたちが立っている領土、バスティヨンって国だったんですね……」


 一般過ぎる常識も知らないのか。


 転移者ってこういうところが可哀想だよな。こっちの世界の知識くらい、転移する時に与えてやればいいのに。


「それで起源祭っていうのはどんな祭りなんですか? 建国祭って感じですか?」


「まあそういうことさ。国総出で建国を祝う普通のイベント。今頃首都では王族サンたちがパレードでもしているだろうよ」


「いや、パレードではなく、決闘し合っているだろう」


「なんだルナティ。王都の様子を知っているのか? 昔に王都で起源祭を過ごしたとかか?」


 首を横に振るルナティ。


 じゃあ一体どうして知っているんだ?


「私がそう思ったからだ」


「……お前はいつから王族になったんだ?」


「続きは私が説明しよう。「俺のことナチュラルに無視するじゃん」起源祭は一日二十四時間を余すことなくお祝いしなければならない決まりが存在する。そこで首都を含めたそれぞれの街では、各家庭が指定された時間の間、盛大にお祝いするよう義務づけられているのだ」


「はえー、ルナティって博識なんですねー「お前も俺を無視すんじゃねぇ」」


 知らぬ間に俺は成仏してしまったのか? 


 心配になってルナティの脇腹をつねってみると、ルナティがペットに触れるように優しく俺の手を触ってきた。ちゃんと俺のこと見えてんじゃねぇか。


「オリジンでは三十分おきに各家庭が指定されている。なので次の三十分を迎える家庭の元へ急ぎ向かわないとならない、ということだ」


「そして、クラッカーチートを使って盛り上げ、報酬をもらう……」


「そういうこった。まあ一種の訪問販売みたいなもんだな」


 家にあがり込む以上、普通の訪問販売よりタチが悪いかもしれない。


「成程……ようやく全貌が見えました。内緒にしてくるもんだからてっきり、やましいことでもやっているんじゃないのか心配になってましたよ」


「おいおい誰がやましいことなんてするんだよ」


 じー。


 おい、なんで俺を真っ直ぐな目で見てくるんだふゆりん。視線を遮る為、ルナティの後ろに隠れる。


「ルナティガードを発動したので、ふゆりんの視線は無効になります」


「小学生みたいなことしないで下さい。時間、ないんじゃなかったんですか?」


「そうだった‼ ふゆりんに妨害されたっ‼」


「わたしのせいなんですか!?」


「駄目だぞふゆりん妨害したら。お仕置きとしてガンナーは没収する」


「あっ、それは好きにして下さーい」


「……え? あっ、ちょ、そこはっ――」


 そこは触っちゃ……アッ……。

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