異世界チート販売業者〜カモ(転移者)と一緒に店を立て直します〜
風花レン
第1話:異世界チート販売業者
「こんな店、二度と来るか‼」
壊れかけの木造家屋の中、鎧を身に纏った男が吐き捨てるように叫ぶ。
「まあまあ、落ち着いて下さい……」
「うるせぇ‼ さっさと潰れちまえ‼」
唾を吐き捨てながら出て行く鎧の男。
途中で店の中に落ちていた『ガンナーのチート販売店』と書かれた看板を踏み潰しながら。
カウンターの中で椅子に座っていた俺――『ガンナー』は溜息を吐いてカウンターにぐったりと体を預ける。
「はー。最近の転移者は口が悪くないか? 『なあルナティ』」
暴言を言われる側の気持ちにもなって欲しい。
俺は隣に座っていた、金髪の少女へと声を掛けた。
「そうだな」
彼女の名前は『ルナティ=アベルサーチ』。
金色の髪は腰まで伸びていて、身長は男の平均よりも高く、体はすらっと細く、凛とした顔立ち。腰には剣を帯刀している。仮に鎧をつけていたのなら、女騎士と錯覚してしまうだろう。
見事なクール系美少女であり、俺の相棒だ。
ルナティは腰につけていた剣を抜いて、立ち上がる。眼が笑っていなかった。
「ガンナーに対し、あの態度……始末してこようか」
「やめろやめろ。あんな奴を逐一対応していたらキリがないだろ」
「そうか……」
なんとかルナティを座らせ、落ち着かせる。
「ただ……このままだと流石に不味いな。もう貯金はないし、このままだと家すら売り払うことになっちまう」
屋根は一部剥がれ、壁も隙間から太陽光が入ってくるし、床はギシギシ言いまくる。
埃っぽくいつ崩壊してもおかしくない見た目。こんなボロ屋でも売れば多少の金にはなるだろう。
「ふむ……なら私が金持ちを血祭りにしてこよう」
「バカバカバカ。そんなことしたら仲良く豚箱行きだろ!? お前はともかく、非力な俺じゃあ脱獄できない」
「……そうか」
心配してくれるのは嬉しいが捕まっては元も子もない。
ルナティはこうみえて実は頼りになるが、基本ぶちのめす以外の思考を持ち合わせていない戦闘狂ポンコツ馬鹿だ。
しかしこのままじゃいけないことは確か。金を稼ぐ為にはどうしたらいい、頭を抱えていると店の扉がギィィと開く音がする。
「あのー……すみません」
声と共に、青と白が入り混じった髪色の少女が店に入って来た。制服を着ていて、16、7歳くらいに見える。体は全体的にスリムで、腰に雪の結晶の形をしたストラップをつけていた。
制服を着ているということは、この世界の人間ではない……転移者だということ。
そして……、
「はーい。どうしましたー?」
愛するべき客だ。
今日は珍しく客がよく来る日だな。
昂る心を抑え、体裁を取り繕う。
よし、愛すべき明日の為に商売を始めよう。
「どうしたんですか?」
「わ、わたし、転移してきたばかりで……。どうすればいいか街の人に聞いたらこの店に行けって言われたんです」
青と白の髪をした少女はオドオドしながら俺たちを見てくる。
「それはそれは。いいでしょう。転移者に優しいこの俺が、貴方を親切に導いてあげましょう!」
「はぁ、ありがとう? ございます。……あれ? なんでこんなところに唾が――――」
「自己紹介が遅れましたー! 私、チート販売をしている『ガンナー=ルバスタ』と申します。こちらは相棒のルナティ」
「ルナティ=アベルサーチだ」
「あ、えっと、わたしは『トモナリ=フユリ』と申します……よろしく、お願いします」
「肩の力を抜いて。警戒せず自然体でいいですよフユリ」
笑顔で優しく語り掛ける。こういう少女には苗字より名前呼びした方がいい(俺調べ)。
隣を見るとルナティは真顔だった。
オイコラ、怖がらせたらどうするんだ。
腹をツンツンして指示を送りルナティを無理やり笑顔にさせる。するとフユリは安心したのか強張った表情を緩めた。
「まず貴方は向こうの世界で死んで転移してきた……それは分かりますか?」
「はい……。乗っていた船が沈没して、気がついたらこの世界にいて……」
「そう。貴方たちの世界であるチキュウ、その中でもニホンで死んだ場合、神の気まぐれでこっちの世界に飛ばされることがあるんです。貴方のような……ね?」
『転移者』。
彼ら彼女らは突如この世界にやって来る。
ニホンで死亡した人間の中でランダムに選ばれ、この世界のランダムな位置に転移される。
予測不可能の来訪者、それが転移者なのだ。
「はぁ……それでわたしはなんのために飛ばされたんですか?」
「鋭い洞察力ですね。有り体にいえば、貴方たち転移者は魔王とその配下である魔物たちを討伐する役目があります。そしてっ! それをサポートするのが、我々チート販売業者なのですっ‼」
俺の熱弁に対し、イマイチピンときていない様子の彼女。
これにピンとこないのか。
そうすると、あんまりアニメやライトノベルを知らないタイプの人間か。
「聞いたことがありませんか? チート」
「うーん……分からないです……」
「スマートフォンとか、賢者とか、鑑定とか。アニメや小説で見たことありませんか?」
「……あー、クラスの男子が話してたかも……」
「それですそれ。チートとは人並み外れた超能力という認識でいいです。この世界ではチートは神から直接与えられるものではなく、我々チート販売業者が神の代行として、転移者の皆様に販売しているのです」
「は、はあ……。なんか、凄いですね」
「野菜や日用品ではなく、チートを販売している店、という認識で構いません。チートを買えば色んな能力が手に入って、魔物なんてイチコロですよ? どうです? チート、買ってみませんか?」
「えぇ……そんなこと言われてもわたしお金持っていませんし」
「大丈夫! 大丈夫! うちは出世払いでいいんで! チート買って、チートを使って魔物倒して、金稼げば無問題。簡単にこの世界を生き抜いていけますよ?」
チートを扱っているからといっても、根本的なことは他の店と同じ。
売れなければ利益が上がらず生活が破綻することになる。だから俺たちはチートを買ってもらわないといけないのだ。
勢いに押され、オドオドと迷っているフユリ。急にチートなんて言われても理解できないのだろう。そこで俺はルナティに合図を出した。
「見ていろ」
そう言うと、ルナティは剣を抜き、壁に向かって振り下ろす。
壁までは距離があるので勿論剣は宙を切った。
意味が分からず、ルナティに近づこうとしたフユリを、俺は制す。
すると……、
――バゴーン‼‼‼
「きゃあああぁぁぁ!!! な、なに!?」
大きな音を立て、壁が破壊された。ルナティが剣を振った際に生じた衝撃波が、そのまま壁にぶち当たって粉砕したのだ。
呆然とするフユリの肩を掴み、優しく語り掛ける。
「チートがあればこんな簡単に物を破壊できる力が手に入るんですよ。魔物を倒すにもそうですが、自衛という意味でも、チートはあって腐るものじゃありません。どうですか?」
急に異世界に飛ばされた挙句、超人的な力を見せられたのだ。事実を飲み込めきれないのだろう、フユリは動揺している。
「貴方だからこそこんな丁寧に教えているんです。貴方は特別なんですよ? このチャンスを逃したら、次があるか分かりません‼」
「そ、そんなこと言われても……」
拒絶せずしていないということは、付け入る隙があるということ。
俺はメニュー表を渡し話を進めることにした。
「おすすめはこれですね」
メニュー表にはチートの種類と値段が書かれていて、俺がおススメと指をさしたのは『チート詰め合わせセット』と書かれたもの。ランダムに入った五つのチートをお得に買えるという内容だ。
「詰め合わせセット……四十万!?」
下には値段が四十万と書かれている。
「詰め合わせセットなので、五つ別々で買うよりも十万ゴールドお得です」
周りに書かれた他の単品チートは、一律で十万ゴールドと書かれているので、本来五つ買えば五十万になってしまう。よくある纏め売りのチート版ということだ。
「……そうなのかもしれないですけど、高すぎませんか!? あっでも円じゃなくてゴールドって書いてあるから、こっちの世界だとそんな高くないのかな……」
「そうですね。そこら辺にいる魔物を倒せば一日で十万ゴールドくらい簡単に稼げますよ」
体をくねくねさせて迷っている様子の彼女。
このままどうにか畳み掛けるっ!
「ルナティみたいに強くなりたいと思いませんか? 本来死ぬはずだった貴方が拾った命、どうせなら人生謳歌してみたいと思いませんか?」
「……」
「貴方の人生は、貴方自身の為にあるんです‼ その為にはチートが必要不可欠だ‼」
「……分かり……ました」
よし……。
「じゃあこの契約書にサインしてくださーい」
カウンターの中にある椅子に座り直しそう言うと、突然空中に紙が現れフユリの手の上に落ちる。
契約書と言ったように、この紙はチートを購入に関する、注意事項や最終確認が書かれている重要な書類だ。
「内容は別に当たり前のことしか書いてないのでさっさとサインしてください。指で紙をなぞれば文字が書けますから」
「は、はい……」
彼女が契約書に『友成冬凛』を書くと、契約書は再び宙を舞い燃え始める。燃え尽きたと思ったら、光が溢れ出してフユリの体に纏わりついて消えていった。
一連の現象は契約書の内容が施行されたときに発生する現象、つまり彼女のチートの購入が完了したということ。
「よしっ! ……チート購入ありがとうございますー‼」
「え、あ……はい。ありがとう? ございます……」
戸惑った様子のフユリ。チートを買った実感がないのだろう。
「試しに一つ、使ってみてください。脳内でイメージするんです。自分がチートを使っているイメージを」
「分かりましたっ……あ、なんか変な感覚が……」
「いいですね! そのまま買ったチートを選択して、発動しろと念じて下さい!」
彼女の顔にはニヤニヤと、笑みが零れている。
きっと期待でたまらないのだろう。
夢でしか有り得なかった、特殊能力を使えるようになるって……。
そしてどんなチートが使えるようになるのか……と。
だがもう、後の祭りだ。
光の球たちが周囲に出現し、彼女の前に集まる。
そして……全ての球が結集し……、
――バンッ‼
クラッカーが、破裂した。
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