3:初代様には、手が出せない!
RPGに戦闘は付き物だ。
「っち、囲まれたか!」
「初代様!」
ボッチで陰キャでも、俺だって勇者だ。
最初は、戦闘でも初代様の役に立とうとした。そうすれば、初代様の異様な強さも、俺というパーティメンバーに依存して、少しは弱まるかも、なんて期待して。
しかし。
「初代様!向こうの敵は、俺がっ……うわっ!」
「っだぁぁぁっ!クソ!余計な事すんじゃねぇよ!?殺すぞ!」
「っひぃぃぃ!」
無理だった。
初代様は、完全にボッチ戦闘に慣れ切っており、他人である俺が少しでもフィールドを行き来しようものなら、ブチ切れて敵ではなく俺に剣を向けてくるのである。鬼か。
「今度、勝手に手ぇだしたら!追い出すからな!?」
「……はいぃっ!」
戦闘を終えたフィールドで、俺は美しい顔の造形をこれでもかと歪めてキレ散らかす初代様にお説教を食らっていた。これで何度目になるだろう。
「おい、犬。テメェさては、横から魔王討伐の功績を横取りしよってんじゃねぇだろうな?」
「あ、いや。その。そ、そんなことは」
「これだから嫌なんだよ!中途半端に仲間面してくるヤツはよぉ」
「あ、あの、ちがっ」
「どうせテメェら凡人には、“剣聖の血”が流れてねぇから魔王の討伐は無理だっつーの」
「はい!もちろんです!」
「討伐の報酬として、俺は姫を貰う。したら、俺が次のこの国の王だ。テメェみたいなカスはすっこんでろ。ぜってー、手ぇ出すなよ」
「で、でも。な、何か俺にも出来る事があったら、言って貰えれば……」
「なぁ、返事は何て教えた?」
「……は、はいぃ」
コレだ。
もう完全に俺は、初代様にとっては討伐の利益を横から掠め取ろうと企む、ハイエナか何かのような扱いを受けてしまっている。
それにしても、初代様はお姫様と結婚して、この国の王様になりたいのか。物好きだ。一国の主なんて、俺は頼まれたってやりたくないってのに。
そんなワケで、俺はしばらく初代様の身の回りの世話だけをせっせと行う、小間使いのような仕事を終始していた。
でも、これはこれで、俺の性に非常に良く合っていた。言われた事をする。言われた事だけすればいい。余計な事を考えなくていい。
ある意味、最高。
「高校の時みたいだなぁ」
不登校になるまで、俺は毎日学校の不良にパシられていた。でも、パシりは嫌いじゃない。だって、言われた事だけしてればいい。考えなくていいし楽だ。今と同じ。
俺が一番嫌いな事。それは、意見を求められる事なのだから。
「おいっ!犬!メシ!」
「はいっ!」
だからだろう。
俺は、いくら初代様の性格が悪かろうが、人権ガン無視な扱いを受けようが、特に嫌だとは思わなかった。言われた事をしていればいい。意見を求められないというのは、死ぬほど楽だった。
俺自身が“勇者”として旅をしていたあの三年間より、今は随分と心地良かった。
〇
「っち!最近はモンスターも多いな!」
ラスボスである魔王への道は、まだ道半ばだ。目の前には大量のモンスターの群れ。
しかし、一人しか居ない初代様に対して、このモンスターの数は確かに鬼畜過ぎるだろ。
「よいしょっ、っと」
俺はいつもの如く荷物を持って戦闘フィールドから離れると、数十体のモンスターに囲まれる初代様を見守った。本当は、俺も一緒に加わった方が圧倒的に楽に戦闘は進むのだろうが、そんな事をしては、今度こそパーティから追い出されかねない。
「ックソ!」
気付けば、一匹の狼モンスターが勇者の背後から襲いかかろうとしていた。あれじゃあ、もう避けれない。
きっと背中をガブリと噛みつかれ、痛みで出来た一瞬の隙を突いて、前方のモンスターから腹に爪を立てられるに違いない。
と、三年間の冒険で得た勘が一気に俺へと告げる。
「腹。刺されたら、痛いよな」
その瞬間、俺は荷物からアイテムを取り出して、初代様へと投げた。とっさの事だった。
「っぐあ!」
俺の見立て通り、初代様は背中を噛みつかれ、腹に爪を立てられた。痛みで表情が歪む初代様。しかし、俺の投げた回復アイテムが一気に勇者の傷を癒す。
「っ!」
一瞬だけチラと此方を見た勇者だったが、ひとまず目の前のモンスターに意識を集中させる事にしたらしい。正しい判断だと思う。
痛みが無ければ、攻撃にもキレが生まれる。そこから、初代様はあっという間にモンスターを一掃した。
「……おい」
「あ、えっと。はい」
初代様が、剣を柄に差しながら俺の方へとやって来た。怖い。いつもだったら「おら、駄犬!来い!」と俺のほうが呼び出しを食らうのだが、今日はどうやら違うようだ。
怖い。思わず俯く。初代様の影が俺にかかる。
「あの、えと……何か」
「テメェが喋んな」
「はいっ」
一蹴されてしまった。勝手な事をした俺は、とうとう初代様からパーティを追い出されてしまうのだろうか。そうなったら、俺の世界で待ってくれている仲間達や世界はどうなるのだろう。
俺が緊張からゴクリと唾液を飲み下した時だ。
「アイテム、使い過ぎんじゃねぇぞ」
「……」
「おら、返事」
「は、はい」
初代様はそれだけ言うと、俺に背を向けて「街に行くぞ!風呂用意出来る宿を探せ!」と、俺に言い放った。
良かった。どうやら追い出されずに済んだらしい。
「か、回復なら……いい、のか?」
俺は急いで荷物を肩にかけると、さっさと街の方へと歩いて行く初代様の後を追った。そして、そこから俺は地味に初歩的な回復スキルの習得に努め始めたのである。
初代様の言うように、アイテムを使い過ぎない為には、俺が回復魔法を覚えるしかない。
「ヒール!ヒール!……あれ?全然発動されない。……ヒールってこんなに難しいんだ」
そりゃあそうだ。俺に神官のスキルはない。でも、可能性はゼロではない。
それに、これで未来の魔王から少しでも回復力を奪えるかもしれないのだ。だから、毎日俺は初期回復魔法ヒールの鍛錬に励んだ。
「ヒール!ヒーールーー!」
「おい!駄犬!うるっせぇぞ!」
「っ!はいぃ!すみません!」
ねぇ、これ意味あります?あの、お願いだから、誰か攻略本を見せて……。
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