#18 事件の予感
「そうだね…それじゃあ先に僕は軽く部屋を片付けておこうかな」
「おっけー、だったらパパっと行ってきちゃうね」
そうして私は自分の家の方に軽く走り始めた。
「夏音、気をつけてね!」
「わかってるよ! また後でねー!」
お互い軽く手を振り、一旦私達はそこで別れた。
――――――――――――――――――――――――――
……彼女と別れて家に入ったあと、僕は玄関のドアの覗き穴から外を監視していた。
「こうしていれば恐らく『奴』は……」
しばらくそうしていると予想通り、僕たちの後を着いてきていたであろう全身黒い格好をしているガタイのいい男性が家の前を通り過ぎて行った。
……狙いは夏音か!?
僕はゆっくりと家のドアを開け、男に見つからないようにこっそりと後を付けて行った。
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しばらく歩いていると、夏音の家の前らへんまで来てしまった。
彼女が家の中に入り姿が見えなくなると、男は周囲の家をキョロキョロと見回した後、何かを見つけたようにピタリと顔を止めた。
その視線の先には見覚えのある苗字……『天名』さんの標識があった。
まさか最初から狙いは夏音じゃなくて天名さん……!?
結構長い間仲良くしてるとか言ってたし、家が近くても不思議では無いのか……。
男は紙にペンで何かをメモした後、そそくさとその場所からいなくなってしまった。
僕は近くにあった電柱に身を隠しながら、顎に指を当てて少し深く考えた。
……今回の事はすぐにでも誰かに言うべきだろうか…ただ、夏音や伊織さんに相談するとかえって危ない目に遭ってしまいかねない……そうだ、あの人なら――
「ねぇちょっと、こんなところでなにやってんの?」
「ッ!?」
その聞き馴染みのある彼女の声に体をびくりと震わせて驚きながらゆっくりと彼女の方を向くと、そこには着替えなどをまとめたであろうバッグを肩にかけた様子の夏音が少し苛立った顔をして立っていた。
「そんなに驚かなくてもいいじゃん……んで、こんな所でどうしたの?」
「あはは、ごめんね。実は……たいして用意することもなかったから夏音を迎えに来たんだよ」
「へぇ、そうなんだ?」
……怪しまれてる気がする。
「そ、それより!こんな所で立ってても疲れちゃうだけだし、さっさと僕の家に行っちゃおっか」
「……うん、それもそうだね!」
……とりあえず、この件に関しては明日の『あのタイミング』にでもみんなに相談してみるか。
――――――――――――――――――――――――――
そんなこんなで優斗の家に着くまでだいたい10分くらい歩いている間、先程までの何かを気にしている様子の優斗はいなかった。
……やっぱり会話は弾む方が楽しいよね
「あ、もう僕の家か……なんだかあっという間だったね」
「そうだね、話すのが楽しいと時間なんて吹き飛んじゃうよねー!」
さっきの帰り道も話が弾んでくれれば良かったのになー!
「……えっと、何か怒ってます……?」
「いーや! 怒ってない!」
優斗はどこか寂しそうな表情で「何かしちゃったかなぁ……」と呟いてる。
あたしの気持ちを味わうがいいわ!
そんな会話を少しした後、私達は優斗の家へと入って行った。
――――――――――――――――――――――――――
「さてと、じゃあ僕はお風呂に入ってきちゃうね」
「うん、そしたらあたしは勝手にゲームやってるよ」
それを聞いた彼は少し呆れたような顔をしながらリビングを後にした。
さてさて、あのゲームはどこに……。
そう思いながらテレビ下の棚をあさっていると『ピンポーン』と家のチャイムが鳴り響く。
『ごめーん! 宅配便かもだし玄関出ておいてくれるー!?』
と奥から優斗の大声が聞こえる。
「おっけー! 任せといて!」
優斗は遠出するのが面倒らしく、○○店限定販売! などの品々は大体ネット通販で購入してしまうらしい。
そのせいか定期的に宅配便が来るという。
だからいつまで経っても体力付かないんだろうに……。
まぁでも優斗らしいか。
そんな事を考えていながら私は玄関に出る……のだけど、
「はいはーい! どちらさ……ま……」
「よっ! なんか大変そうだからお見ま……」
そこには知っている顔がいて驚きのあまり固まってしまう。
「なあああぁぁぁぁ!?」「ひあああぁぁぁぁ!!??」
そして彼は何故か叫び、つられて私も叫んでしまう。
「な、なんで
「それはこっちのセリフだって!」
彼は水津木
そんな水津木くんは急に冷静な表情で独り言を言い始める。
「なるほど……じゃああのコメントはマジだったって事か……あのヤエが夏音ちゃんを家に連れ込むとは……」
「兄さん兄さん、この人困ってるからその辺にしてあげなって」
そう声がしたと思ったら彼の後ろから少女が顔を出した。
「あれっ!? 水津木くんって妹ちゃんいたんだ!?」
「あぁそういえば俺話したこと無かったっけか? ほら詩乃、自己紹介」
詩乃と呼ばれた少女は私の目をしっかりと見る。
ちなみに彼女は身長が私より小さく、140㎝近くなのだろう。
もしかして中学生なのかな?
ちっちゃくてかわいいなぁ
「水津木
……うん? 先輩!?
多分、私はかなり驚いたような顔をしていたのか少し不機嫌そうに詩乃ちゃんが口を開く。
「私、これでも高校1年生なんですけど」
「あ、あぁもちろん気づいてたよ!? ほらそれあたしと同じ制服着てるし!」
「ほんとですかぁ……?」
詩乃ちゃんが私の事を細い目で見つめてくる。
「まぁまぁ、玄関先で立ち話もなんだし中に入れさせてくれよ。どうせヤエは俺だったら大丈夫っしょ」
「そ、それもそうね! ほら上がって上がって!」
そう笑いながら詩乃ちゃんに顔を向けるとプイッとそっぽを向かれてしまう。
どうやら私の第一印象は最悪のようだ。
――――――――――――――――――――――――――
2人にリビングに上がってもらって今は優斗を待ってるという状態だ。
「とりあえず、あたしは篠原 夏音。先輩らしくないかもしれないけどよろしくね!」
「よろしくです……篠原先輩」
実は私は後輩から先輩と呼ばれたことが無く少し照れくさくなってしまう。
「あはは……ちょっとむずがゆいな……」
「じゃあ、夏音先輩で」
「うん、それならギリ大丈夫! ありがとね詩乃ちゃん」
そう言って私は彼女に微笑む。
「よしじゃあ、自己紹介もできたことだし三人でなんかしようぜ! パーティゲームとかなんか持ってるだろ」
そう言って水津木くん……いや、わかりずらいし棟哉くんは人の家にも関わらずテレビ下の棚をあさり始める。
「兄さん兄さん、マオパあるよ!」
「おっホントだ……詩乃とこれやってみたかったんだよな」
この兄妹のペースに飲み込まれないか心配だ……。
――――――――――――――――――――――――――
「詩乃ちゃん! 後ろから棟哉くんが来てるよ!」
「ッ!? ありがとです、夏音先輩!」
「何ィ!? 今のを避けるだと……やるなぁ」
なんだかんだで詩乃ちゃんと私は一緒のチームになることが多かったのだが、いつの間に打ち解けていた。
「ふぅーギリギリだった……詩乃ちゃんナイスプレイ!」
「夏音先輩も……いい動きでした」
そう言いながら私達はグッと握手をする。
「クソォ……あともうちょっとだったんだけどなぁ……よし、もう一回やろうぜ!」
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