#17 重い足取りと緊張
「ふぅ、お腹も膨れたしそろそろ帰ろっか! あたし帰ってゲームしたい!」
「そうしよっか、夏音アレの続き気になってたよね?」
僕たちは少し遅めのお昼ご飯を食べた後、特に行きたい場所も無かったから雑にブラブラしていたのだ。
時間は15:00……帰るには丁度いい時間だろう。
「うんうん! 前はヒロインが敵に捕まっちゃったいい所で時間になっちゃったしやりたくて仕方なかったんだよ!」
「あの時の夏音めちゃくちゃ悔しそうだったなぁ……アレの後結構アツいイベント来るから楽しみにしててよ!」
夏音は「尚更燃えてきた!」と言いながら両手を握り、両腕を胸の前で曲げて気合を入れるポーズをしていた。
そんな彼女を見ているとふとあることを思い出す。
っとそういえば先生に連絡しなきゃ……。
そうして僕は恐る恐るスマホの電源を入れる。
うわぁやっぱり……。
「……?どうしたの? 急に固まっちゃって」
僕はつい動揺して足を止めてしまう。
さっき通知を消したはずのフリタイに『99+』のアイコンが出ている。
開くのすらげんなりするがここは我慢だ。
「物宮先生が夏音がウチに泊まりに来ることバラしやがった……!」
「え"」
彼女は聞いたことも無いような間の抜けた声を出した。
そのすぐ後に焦ったような顔をする。
「どど、どうしよう!?」
「うーーん……じゃあこうしよう」
「優斗……すっごい悪い顔してるよ」
そう言いながら夏音は目を細くして僕を見つめてくる。
おっと、実にいい作戦だったから顔に出ちゃってたか。
「うるさい、まぁとにかく僕が階段で盛大に転んだ事にする」
「うん、まぁ優斗だったらありえそうだよね」
「……話進まなくなるからとりあえず無視するよ?それで僕の家には基本家に親が帰って来ない事はクラスのほとんどが知ってるはずだ」
僕の家は男達のたまり場になりつつあるしまぁ男子だったら全員知ってるだろう。
「んで、腕を怪我した僕はクラスで一番家が近い夏音を呼んで身の回り手伝いをしてもらう事にしたって事にする」
「うーん階段で転んだって話以外は嘘は吐いて無いし筋は通ってる……のかな?」
僕の予想とは違って夏音は微妙な表情をしている。
この話なら岡崎の事も隠せるし一石二鳥なのに……。
「まぁとりあえずこれでいこう! 男共はこれで大丈夫……だと思うから女子の方は頼んだよ、夏音?」
「えぇあたし!? わかったよ……なんとか頑張ってみる」
そう言って夏音は項垂れる。
そんな彼女に僕は肩に手を置いて「頼んだよ!」とちょっと無責任に言い放つ。
さてと、先生に連絡を……。
そう思いながら手を離すと「そんなぁ……」と言って彼女は更に項垂れた。
これ以上相手をするとめんどくさそうなのでもう連絡を済ませてしまおう。
フリタイを開くと、グループはもちろん個人チャットの方まで連絡が来ていた。
『おい貴様ツラ貸せやゴルァ』だったり、
『どこまで進んだのか詳しく』みたいな図々しい奴も、
『俺さりげな~く篠原のこと狙ってたのにぃぃぃ!!!!』とか言ってる奴もいる。
色々と送られて来ているが大体はこの三種類だ。
野郎への連絡はとりあえず夜やっておこう。
『お疲れ様です。とりあえず僕たちは明日9時には行動できるように準備しますので9時以降に僕の家にお願いします。』
物宮先生にメッセージを送ると、直ぐに既読が付いておまけに返事も帰ってくる。
『わかった。俺は嫌な事は早めに済ませたいし9時ピッタリに行く……それじゃあ明日はよろしくな』
連絡しておいて良かった……文面的にこの人だったら本気で日付が変わった瞬間に家に来そうだ。
そう思いながら苦笑いをしていると先生から連続でメッセージが届く。
『それと俺が悪いのは理解してるんだがアレどうにかしてくれないか……?』
『アレとは?』
『あのグループの連中の事だ……クラス中で話題になってるぞ』
嘘だろ……!?
『あの勢いだと他のクラスにまで噂が飛ぶかもしれん……俺への理事長の評価が大変な事になっちまうよ…!』
『あーじゃあついさっき夏音と作戦を考えておいたので期待していて下さい』
『了解した。マジで頼むぞ』
そのメッセージを見た後に僕はスマホの画面を落とした。
「夏音……来週頑張ろうな」
「うん……そだね」
僕たち二人は重い足取りでショッピングモールを後にした。
――――――――――――――――――――――――――
私達がお店を出るともうすっかり空は茜色に染まっていた。
制服を着た学生さん達もちらほらいて一日の終わりが近づいてるのが実感できる。
「いやぁ今日は楽しかったね! また一緒に行こうよ」
「あたしも! アイスもとっても美味しかったし!」
「夏音は食べ物のことばっかりだなぁ」
そう言いながら優斗はケラケラ笑う。
やっぱりこれから気を付けよう……。
「う、うるさいなぁ」
「あはは、ごめんごめん……そういえば夏音、着替え持ってきたらどう?」
「あーそういえばそっか。流石に優斗の家に女の子用の服は無いだろうし……」
昨日は学校から持って帰ってきてた体操着でなんとかしたけど流石に二日連続で使うわけにもいかない。
優斗にあたしの服とか下着を洗わせるのはちょっと……嫌だし。
「ごめん、ちょっと遠いけど寄らせてもらってもいいかな?」
ショッピングモールから私の家に行こうとなると優斗の家を通り過ぎる事になってしまう。
優斗から言い出した事だけど彼に負担をかけるのは腕の事もあるし少し申し訳なく思う。
「いいよいいよ、流石に僕の服を貸すのはアレだしね」
優斗の服を借りる……。
実は優斗に近づいた時に鼻腔をくすぐる柔軟剤(石鹸?)の香りにドキッとしてしまう時があるのだ。
とゆう事は優斗の匂い嗅ぎ放題!?
いやいやいやいや! 親友にそんな事は考えちゃダメだよあたしッ!
「どうしたの? 今日はなんだかやけにテンション高いね?」
私が首をブンブン振っていると不思議そうに優斗が顔を覗き込んでくる。
『覗き込む』って事は顔が近くなる訳で!
優斗特有のシーブリーズっぽいさわやかな香りが私の鼻をくすぐる。
不覚にもついさっき意識していたおかけが鼓動が早くなってしまう。
「な、ななんでもないよ!? さ、早く行こうよ!」
私は顔を真っ赤にして進行方向に指を指す。
「んん? まぁいいや、それじゃ―――あれ?」
優斗はショッピングモールの方向を見て不思議そうに首を傾げる。
私はとにかく帰りたくて優斗を急かしてしまう。
「早く行こうよ! 置いてっちゃうよー?」
「……うん、そうだね。(気のせいだといいんだけど……)」
――――――――――――――――――――――――――
「とりあえず優斗の家に着いたね…どうする?一緒に行く?」
結局優斗はここまでたまに後ろを気にしていてあまり話が弾まなかった。
興味ありそうな話題を振ってもどこか上の空、という感じだ。
……何かあたししちゃったのかなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます